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快挙か壮挙か暴挙か――51歳でモーグル国体選手!

 モーグルの上村愛子選手が、2009年6月11日、アルペンスキー(回転)の皆川賢太郎選手と、ふたりそろって結婚報告会見を行った。上村選手は、冬季オリンピックに長野大会から3大会連続で出場しており、2010年のバンクーバー大会の日本代表が内定している。近い将来、スキー・サラブレッドの誕生が楽しみだ。

 モーグルは、ノルウェー語で、「雪のコブ」を意味するという。その言葉どおり、コブのある急斜面を滑り降り、途中で2回、エア(空中演技)をする。ターン技術とエア演技、それにスピードを競う。素人目にテレビ観戦していると、何だかおっかないスポーツではある。空中回転して着地に失敗すれば、首の骨を折って即昇天ということにもなりかねない。

 あるとき、滋賀県に住む妹から携帯メールがきた。
 <突然ですが、うちの夫が、このたび2009新潟冬季国体モーグルの部に出場することになりました!! 滋賀県代表で、男女2人ずつ、男子のもうひとりは北海道出身の立命大生です。また、女子はこのあいだワールドカップで5位になった伊藤みきの姉と妹! モーグルの世界では伊藤3姉妹として有名です。ちなみにシニア部門はありません! 会社では部長に「勝手にしろ!」とあきれられたそうです。以上、お知らせまで>

 義弟はすでに51歳になり、毎日新聞大阪本社学芸部の編集委員をしている。まったく何を考えているのか。妹が未亡人になる白昼夢がよぎった。ぼくはすぐにメールを送った。
 <快挙か壮挙か暴挙か! 生命・障害保険には入っていますか?>

 妹からはこんな返信がきた。
 <暴挙です! 保険は両方入ってますが……。このあいだはコラムに書き、大会後は“生涯スポーツとしてのモーグル”のテーマで「記者の目」に書きたいとたわけたことを言っております>

 そりゃ、暴挙だろう。「記者の目」というのは、毎日新聞の目玉になっている大型コラム記事で、ふつう全国版だ。世間に注目されることを意識した劇場犯罪というのがあるが、義弟は劇場スポーツをやろうとしているのか。

 実は、義弟は、大阪本社版の「発信箱」という欄で、すでに国体のモーグル競技に出場することを書いていた。それによると、ストレスで長期間仕事を休むはめになり、39歳のとき初めてスキー場に行ったのがきっかけだったという。41歳でモーグルに挑戦した。ある程度年を取ってからスキーを始める人は世の中にいるだろうが、それがモーグルへと飛躍するところが、ユニークな性格の義弟らしいといえばらしかった。

 「競技としての歴史が浅いから、誰も気づいていない上手なターンやエアのやり方があるかもしれない。努力と工夫次第で上位進出の可能性があると信じ、物理の受験参考書も引っ張り出して、技術革新に取り組んでいる」

 義弟はかなりオタクっぽいところがあり、韓流ドラマにはまった日本人の草分けだった。モーグルにはまっていったのも、同じような精神構造からだろう。それにしても、何で物理の参考書か。30年以上も前の受験生時代のものを、よくも保管していたものだ。

 モーグルなどのフリースタイル・スキーの競技者として全日本スキー連盟に登録しているのは、男性が591人、女性が146人という。50代以上は義弟ひとりだそうだから、押しも押されぬ日本最高齢選手だ。

 「年とともに衰えると思っていた肉体で、20代にはできなかった宙返りもできる」
 モーグルの宙返りの練習は、いきなり雪の上でやるのはあまりに危険だから、急坂を滑り降りプールに飛び込む施設でするらしい。妹からきたある年の年賀状には、ヘルメットをつけた義弟が、大阪にあるとかいう練習場で宙返りしている瞬間の写真が貼り付けられていた。“専属カメラマン”の妹が撮影したものという。

 トキめき新潟国体の記事は、新聞にはほとんど載らず、義弟がいつ出場したかも分からないままだった。もっとも、ぼくはスポーツ面より事件事故を扱う社会面のほうを気にしていた。
 「無謀にも51歳でモーグル挑戦 毎日記者死亡」
 そんな記事が載るんじゃないかと、ちょっと真剣に心配していた。さて、未亡人予備軍の妹からは、やがてこんなメールがきた。

 <ご報告。一昨日の深夜、夫が無事新潟から帰ってきました。なんとかゴールできたそうで、159人中155位というビミョーな結果となりました。結果はどうなったのかという読者からの問い合わせ(!)もあり、来週あたり全国版で「記者の目」を書くことになりました(どうゆうユルい会社や!?)なお、当日見に来ていた30代の男性が、明らかに年寄りなのにビブ(ゼッケン)を付けている夫に「すごいですねぇ」と話かけ、ツーショット写真を撮らせてと頼んできたんだそうです。ミクシーにでも載せるのかなぁ>

 妹もやっと気づいたように、毎日新聞はたしかにユルい。楽屋落ちの話を載せることもよくあるが、そのほうが読者に親近感を持たれる。そういう新聞があってもいい。

 <本日、毎日朝刊「記者の目」に夫の記事が載ったのですが、お昼のTBSテレビ「ピンポン」でその記事が取り上げられることになったそうで、いま問い合わせがきました。びっくり>

 話は大きくなってきた。もし、放映されれば、一気に全国民の注目を集めるところとなる。
 <TVは、「二畳新聞」に用意は出来ていて司会の福澤さんのうしろにチラッと映ったものの読まれませんでした。ドッと疲れた~>

 そりゃ、つき合わされる妹も疲れるだろう。「二畳新聞」というのは、紙面を2畳サイズに拡大してコメントをつけて紹介するコーナーだった。テレビで紹介されたりしたら、義弟はいっそう張り切って、今度はほんとに首の骨を折ってお陀仏になりかねない。取り上げられなくてよかったかもしれない。

 妹は、後日、「記者の目」のコピーをくれた。義弟はこんなことを書いている。
 「51歳にして初めてあこがれの舞台に立ち、人間の運動能力は年齢とは関係なく高められることを実感することができた」
 「スタート直後は(斜度が)約30度。以前は足がすくんだ。それを難なくこなし、第1エアも成功したが、その後の緩斜面で後傾になって片方のスキーが外れてしまった。10秒以内に履けば続けて滑ることができる。くじけそうになりながら、女子選手らの『頑張って』の声援に励まされ、滑りきった」
 「モーグルは、相手の体や物ではなく、自分の体を動かす競技なので、体格の違いがあまり影響しない。技術的な要素の比重が大きく、意外と生涯スポーツに向いている」
 「仕事の合間の限られた練習で勝つためには、人一倍の工夫と努力が必要だ。公園でエアの技を特訓する器具を日曜大工で自作した」
 オタク全開だ。

「まだ大会では試みていないが、竹とんぼのように1回転するヘリコプターやバックフリップ(後方宙返り)も練習している。おかげで、私の筋力はアルバイトで肉体労働をしていた20歳のころと変わらない」
 「次々とやってくるこぶを乗り越えていくのは、まるで人生のようだ」

 読者からは、反響のメールが舞い込んだ。
 <素晴らしいの一言です。私は48歳。20代には国体選手(山岳競技)として出場したこともありますが、年齢的に衰えを感じ、体力的にも技術的にもスポーツにはピリオドを打とうとしていました。(中略)自分もまだまだイケるかな?勇気をもらいました>
 <私も47歳のモーグルオヤジです。(中略)下手ながら自己流のモーグルを模索して、気力が衰えるどころかモーグルへの情熱は増大しつつあります。バックフリップをすでに練習されているということで、その勇気に感服いたしております>

 義弟は考古学の専門記者で、その方面の泰斗、上田正昭・京都大学名誉教授から、遅い年賀状がきた。
 「『記者の目』まことにさわやかで、高齢者を勇気づける記事です。講演のおりに使わせていただきます。モーグルのこぶの乗り越え、まさに人生のこぶと同じです」

 暴挙というより、やはり快挙なのだろう。妹を未亡人にしないという条件で、応援することにしよう。
 ホップ・ステップ・ぎっくり腰、ホップ・ステップ・肉離れ!などにならないように、な。

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