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続・軽井沢フォアグラ事件

 軽井沢のリゾート施設で食べさせられたいわゆるフォアグラは、どう考えても豚のレバーだった(「軽井沢フォアグラ事件」参照)。レバーは申し訳なさそうに縮こまり、その下のいわゆる牛フィレステーキも身を固まらせていた。あずかり知らぬことで後ろめたい気持ちを抱かせられた肉たちに罪はない。

 そして、フォアグラをめぐる食材偽装をぼくたちが経験したのは、これが初めてではなかった。

 あるとき、JR長野駅前にある高級ホテルへ取材に行き、ついでにランチを食べようと、ホテル内のレストランへ入った。運転手役の妻もいっしょだった。昼のメニューは限られていてしかも高く、一番安いのが「フォアグラ丼」だった。おう、これぞ和洋折衷。たしか、1200円ちょっとだった。「この値段でフォアグラというのも変じゃない?」と妻は言ったが、財布の都合でオーダーした。

 丼鉢ではなく、うな重を盛る長方形の木塗りの器で出てきた。ひと目見て、妻もぼくも苦笑した。地鶏のレバーをそのままの形でソテーし、ご飯に乗せている。おいおいこれでフォアグラはないだろ、と突っ込みを入れながらも、ひと口食べた。醤油をメインにした和風の味つけで、焼き加減もほど良い。レバー独特の臭みもなく、ねっとりとして舌にからまる。箸は進んだ。ガチョウの真性フォアグラと感じはちがうが、「これはこれでひとつのメニューとしてはありかな」というのが、妻とぼくの感想だった。

 食材偽装であるのはたしかでも、この料理には可愛げがあった。地鶏のレバーを使っていることを隠そうともしない。鶏レバーも、何だか胸を張っているように思えた。店員に文句を言う気もまったくなかった。それにひきかえ、軽井沢のは性質(たち)が悪かった。まず、シェフが「本物のフォアグラです」と強弁するところが、いただけなかった。味がそれなりに美味しければ偽装もご愛嬌だが、ぱさぱさとして、箸にも棒にもかからない。

 それにしても、ぼくたちの前にクレームをつけた客がいないようなのが不思議だった。

 ぼくは、学生時代、JR京都駅にほど近い5つ星ホテルのレストランでアルバイトをしたことがある。バイト仲間に、高田純次さんも真っ青になりそうなテキトー男がいて、その彼がアイスティのオーダーを受けた。紅茶やコーヒーはバイトが作ることになっていた。コーヒーは業務用コーヒーメーカーに焙煎した豆を入れ、スイッチを押せばしっかりしたものができる。ところが、紅茶はティーパックで一杯ずつ淹れるのだった。

 アイスティは飲んでみなくても、見ただけでうまいかどうかすぐ分かる。にごっていたら渋くてまずい。うまいのは透明感がある。レストランで働いていれば、そのくらいのことは常識だ。

 テキトー男の作ったのは、ものすごくにごっていた。
 「そんなのを、客に出すの?」
 「いいの、いいの、こんなもんでしょ」

 暇な時間帯だったから、その客がどんな反応をするのか観察していたら、ふつうにアイスティを飲んでいる!

 バイトの女子学生もあきれていた。テキトー男と客の両方にだ。
 「わたしは小さな喫茶店でバイトしたことがあるけど、そこであんなひどいものを出したら、クレームが来るのまちがいないわ。ここは高級ホテルだから、お客さんも変に納得しちゃうのかもしれないわね」

 シンガーというアメリカの心理学者は、ひとつの実験をした。一般に、大学教授が女子学生に成績をつけるとき、その評価は女子学生の魅力に左右されるのではないか、という仮説を確かめようとしたのだ。女子学生の写真192枚を用意し、40人の教授にそれぞれの学生の魅力を評価してもらった。その結果、美人と評価された学生ほど成績もいいことが明らかになった。また、男子学生も美人学生の書いたレポートは好意的に解釈するし、美人の意見は男子学生に対して、より説得力を持つこともわかった。「美人は得をする」というのを、学術的に裏づけたのだった。

 仏像や神像にある光背(こうはい)のことを、英語でhalo(発音はヘイロウ)と呼ぶ。ここから、美や権威など何らかの高い価値があるものが影響力をもたらすことを、心理学では「ハロー効果」または「威光効果」というそうだ。

 軽井沢の“フォアグラ”や京都のホテルのアイスティは、まさにこのハロー効果で、文句も言われなかったのだろう。口にした人は「高級なところで出されたものだから、こんなものだろう」と納得するのだとしか思えない。それも、無意識にそう思い込むのだろう。

 大阪の読売テレビが制作する『秘密のケンミンSHOW』という番組で、「大阪府民は、値段が味覚に影響する!?」という企画を試みた(2009年6月4日放映)。街を行く人をつかまて、ミカンを食べてもらう。「ふつうの味やな」という相手に「これ1個400円もするんですよ」とたたみかける。すると、その人は「うまいなぁ」と態度を一変させる。別の人に試みても同じ反応だった。番組ではさらに、コップに水を入れて同じような実験をした。「ふつうやな」という人に「500mlで1000円もするんですよ」と言うと、「あ、そう。この水うまいなぁ」

 ドイツで知り合った大阪出身の友人、Kさんの奥さんも、これと同じことを言っていた。子どもたちがあまり喜んで食べないものがあるとき、「これ、すごく高いのよ」というと、すぐに箸が伸びるのだという。この反応は、大阪人に限ったものかどうか。もっと広範囲に実験をしてもらいたいところだ。

 ビートたけしさんが司会を務めるテレビ東京の『たけしのニッポンのミカタ』では、視覚と脳科学の実験をした(2009年6月19日放映)。日本人がマグロ好きなのは、その赤い色が影響している、という仮説を検証した。スタジオで、たけしさんやその他の出演者がマグロの握り寿司が青く見えるサングラスをつけて、寿司を食べた。仮説が正しいなら、マグロ寿司はまずいはずだが、そこはたけしさんの番組で、みんな「別に、ふつうにうまんじゃない」ということになった。

 しかし、VTRで紹介された実験では、番組の期待通りの結果が出た。女子高生たちにゴーグルで「赤い寿司」を見ながら食べさせると、ほとんどが「美味しい」と答え、「白い寿司」を身ながらでは「味がうすい」という反応が多かった。「青い寿司」では「美味しくない」という答えが圧倒的で、「食感もちがうみたい」という声が聞かれた。

 「赤色=マグロ=好き」という連想が、日本人の中に根づいているという解説だった。こうした反応を、専門家は「味覚の予期」と呼ぶそうだ。長い人生を歩んできたたけしさんらスタジオの人たちは、女子高生とちがって、ちょっとひねくれているのかもしれない。

 光線の色で味覚や食欲が変わることは、たしか以前から知られていることで、食卓の上の照明は暖色系を使うのが一般的だ。マグロの場合、「赤」が印象にのこり、よけい脳に働きかけるのかもしれない。

 飲食物を、舌で味わうのではなく、先入観で味わう人たちがいるのだった。恋愛感情だってほとんど先入観の賜物だし、ま、それはそれでいいのだろう。

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