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ビールは本場物、とは限らない

 夏の盛りとなって、ビアガーデンもピークを迎えているだろう。日本では、土地がせまいせいか、ビアガーデンといえばたいていビルの屋上と相場が決まっている。しかし、蒸し暑い夏に、何で戸外で飲まなきゃいけないのか、つき合わされるたびに疑問に思っていた。あるときは、突然の土砂降りで、ダンボールを傘代わりにして“雨割りのビール”を飲むはめになった。

 本場ドイツでは、緑豊かな公園や河畔、石畳の路上にあるビアガーデンで飲む。第一、夏はさらっとしているから、ビールがとても合う。ドイツ人は、とにかく外で飲むのが好きな人が多く、まだ寒い時期から、夏の訪れを待ちわびて、コートを羽織ってでもビールを飲んでいる。

 ビアガーデンのなかのビアガーデンといえば、ミュンヘンのイギリス庭園にあるビアガーデンだ。ものすごく広い公園の一角に、テーブルがずらっと並んでいて、相当混んでいても座れないことはまずない。地元の日系企業に勤めるYさんに案内してもらって、何度か行った。

 「ここの名物、何だと思います?」。初めてのとき、Yさんはいたずらっぽく聞いてきた。まず、席を確保しておいて、ジョッキやおつまみを売り場まで自分たちで買いに行く。驚いたことに、大きな鯖(さば)を塩焼きにして売っているのだ。これじゃ、日本の海辺の飲み屋と変わらない。ぼくは何だかうれしくなって、すぐに1匹買った。「この街に住んでる日本人は、お醤油を持参して食べるんですよ」。塩味はそれなりに効いているが、ちょっと醤油をたらしたほうが、日本人にはうまいだろう。山国のミュンヘンでなぜ鯖なのか、Yさんも詳しいことは知らなかった。

 もう一つの名物は、ブレーツェルと呼ばれるパンだった。これも、パンには珍しく塩がまぶされていて、周りの席を見ると、ドイツ人はビールのつまみとして食べている。最近では、日本でもときどきブレーツェルを売っているのを見かけるが、味は本場のものとはかなりちがう。

 さて、アサヒビール(株)では、2009年夏、『アサヒ・ザ・マスター』という新商品を売り出した。テレビCMでは、「アイン(1)、ツヴァイ(2)、ドゥライ(3)、プロースト(乾杯)!」とドイツ語でやっているのに、商品名だけがThe Masterと英語だ。「やっぱり変だよね。何でデァ・マイスター(Der Meister)じゃないんだろう?」と、息子も言う。

 週刊誌の広告にアサヒビールのお客様相談室の電話番号が載っていたので、かけてみた。「社内でいろいろ検討したのですが、この商品は、ドイツのビール醸造学の中で権威の高い大学のひとつミュンヘン工科大学から醸造学のマスターの称号を与えられた醸造家が監修したものです。それに、一般に分かりやすいということでマスターにしました」。でも、「マイスターにすべきだった」というお客さんの声はないのだろうか。「それはあります。たくさん、そういう声が寄せられています」。やっぱり、誰でもそう思うだろう。

 広告では、ドイツの「ビール純粋令」に定められた麦芽、ホップ、水だけを使ったドイツ伝統の製法で作っていることが強調されている。EUの中でも、ドイツは製法にこだわっていることで知られるが、実際に飲んで見ると、日本人の舌と喉にはピンとこないこともある。『アサヒ・ザ・マスター』の評判をお客様相談室に聞いてみると、「自分には合わないとおっしゃるかたもいます」という。

 アサヒの一番の売れ筋とされる『アサヒ・スーパードライ』などは、コーンスターチと米が入っている。それに慣れた舌には「麦芽100%」はちょっとあっさり過ぎる。「本場の製法だから」とありがたがって飲むひともいれば、自分の舌に正直にスーパードライを選ぶ人もいるだろう。

 お客様相談室によると、アルコール度8%と強い『アサヒ・スタウト』は、発酵度を高めるために砂糖を使っているそうだ。「ビール純粋令」から言えばとんでもない話だが、日本では、それはそれで固定的な人気があるらしい。

 東京には、『東京ビアガーデン制覇クラブ』という愛好家の集まりがあるそうだ。その人たちは、屋外に席数80以上を確保した店をビアガーデンと定義して、毎年、都内のそれらの店のすべてを飲み歩き、接客や雰囲気、メニューなどをチェックしている。クラブのこの夏の一押しは、京王百貨店新宿店の屋上にある『京王アサヒ スカイビアガーデン』だという。工場から直送されたアサヒ・スーパードライのキレがたまらないらしい。やっぱり、コーンスターチや米が入ったスーパードライが人気なのだ。なぜかアサヒのビールが置いてあるビアガーデンは少なく、希少価値もあるらしい。

 しかし、ぼくは、せせこましい屋上で汗をふきふき飲む気にはならない。どうしても屋外で、ということなら、明治神宮外苑のビアガーデンがお勧めだ。ここだけは、緑も豊かでさわやかな風が吹く。この夏、オープン時刻を3時間くりあげ、正午にしたそうだ。昼に出かけた人によると、子どもづれが目立ったという。バーベキューも食べられるから、ビアガーデンはもはや、おじさん、おばさんだけの社交場ではない。「本場ミュンヘンの味」をうたって、鯖の塩焼きを出したら売れるかも。

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受信: 2009年8月11日 (火) 19時25分

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