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情報公開はポルノに通ず

 デンマークへ取材旅行に行ったとき、地元の人からこんな話を聞いた。

 ひとりのジャーナリストが、閣僚の公費の使い道を情報公開制度を使って徹底的に調べた。するとある閣僚が、海外視察した際にスコッチウィスキーを1本公費で買い、誰かへの個人的なお土産にしていたことが分かった。この件がメディアによって報道されると、メディアや国民からその閣僚への批判が集中し、閣僚はついに辞任することになった。日本円でわずか数千円のことで、大臣の座を棒に振ったのだった。

 その話を聞いたのは、たしか1996年だった。日本ではやっと、情報公開法の制定の話が固まりかけていたころのことで、北欧は進んでいるなぁ、と思ったものだ。そして、血税の使い道への国民の監視意識の高さにも感心した。スウェーデンへ行ったときも、情報公開は徹底していて、欲しい政府情報などがすぐ手に入った。

 でも、なぜ、北欧では、そんなに情報公開制度が進んでいるのか。あるとき、ドイツ人とビールを飲みながら話題にすると、意外なことを教えてくれた。北欧、とくにデンマークではかつて土着の宗教があり、その考え方が情報公開のルーツらしいというのだ。その宗教はやがてキリスト教に吸収され、今ではキリスト教の一派みたいになっているが、何でもオープンにする風土は現代でもつづいているという。

 ドイツに長年住んでいるある日本人も、同じようなことを話した。「北欧と言えば、日本ではポルノを連想する人も少なくないでしょうが、包み隠さずオープンにするという思想は、土着宗教をバックに情報公開制度にもポルノにも表れているようです」

 この件について裏をとったことはないので、断言はできないが、北欧に行くと、ひょっとしたらそんなこともあるかもしれない、と思わせられる。

 そういえば、日本で「国政監察官」あるいは「行政監査専門員」「行政監察委員」と訳されているオンブズマンという言葉も、もとはスウェーデン語だ。「代理者」とか「仲介者、仲裁者」を意味し、いずれの党派にも加担しないで、冷静な判定者の役割を果たす人や委員会のことをいう。スウェーデンでこの制度ができたのは1809年というから、歴史は古い。国会が政府機関に対する国民の苦情を処理するため任命した官職だった。

 スウェーデンのオンブズマンの権限は強大で、警察、外交のすべての活動を含む中央・地方の政府、裁判官などの不当な行動に対して、市民の苦情申立てがあった場合だけでなく、オンブズマン自身のイニシアティブで調査、査察をすることができる。また、いかなる関連文書へのアクセスも拒否されることはない。そして調査結果に基づいて関連の政府機関に勧告をし、国会に立法を促したり政府に対して政策変更の提案をすることができる。

 オンブズマン制度の考え方は、1950年代から、「もっとも有効で手早い苦情処理・行政救済制度」として欧米に伝わったとされる。北欧諸国では権限が広くて強いが、イギリスなどでは制限されている。

 日本ではかつて、苦情処理制度として総務庁(現総務省)の行政相談員制度があったものの、欧米諸国に比べて権限が弱く、手続きもよく整備されていなかった。そのためオンブズマン制度の採用を求める声が高まり、1990年、神奈川県川崎市に「市民オンブズマン」、東京都中野区に「福祉オンブズマン」(福祉サービス苦情調整委員会)ができた。それ以後、地方自治体でオンブズマン制度か、それに類似した制度の導入が図られた。また、民間の自発的組織としての市民オンブズマンの活動も1990年以降盛んになり、いわゆる官官接待や空出張などの実態を明らかにしてきた。

 日本でやっと情報公開法が成立したのは1999年で、2001年に施行された。国の行政機関が保有する情報について、開示を求める請求があれば、一部の例外を除き、開示請求者にすべて公開することが定められている。この法律ができたことによって、オンブズマンや市民グループは、活動の幅がぐっと広がった。しかし、欧米のように国会によって任命されるオンブズマン制度は、まだない。

 鳩山民主党は、史上最強の“オンブズマン”になれる権力を握った。鳩山政権は、経済対策など急を要する政策には果断に手をうたなければならないが、それ以外はあせらずじっくり構え、半年くらいをかけて、自民党政権時代に闇に包まれていた情報を徹底的に暴くべきだ。永田町や霞ヶ関をたたけば、ほこりや闇情報はいくらでも出る。

 薬害エイズや消された年金のときと同じように、国民は喝采するはずだ。何でも思い切ってオープンにする“ポルノの思想”は、この場合、大いに受けるだろう。

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