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日本が世界に誇る最大の文化遺産

 海外の日本大使館が行うもっとも重要で華やかなイベントは、天皇誕生日祝賀レセプションだ。その国の政府要人や各国大使など外交団、日本企業関係者らが集い、天皇皇后両陛下の写真が飾られたホールで、皇室の話題などに花が咲く。立食パーティだが、供される日本食もおいしく、わが夫婦にとっても楽しみだった。

 1996年、南米ペルーの首都リマで起きたテロリストによる日本大使公邸占拠事件で、一躍、日本で暮らす国民にも、その行事のことが知られるようになった。宴たけなわの午後8時過ぎ、覆面をした一団がレセプション会場に乱入して約600人を人質に取った。ペルー警察の突入で解決するまで、4か月間以上もかかったあの事件だ。

 現天皇の在位20年を祝う記念式典が、2009年11月12日、皇居前で盛大に開かれた。その前後、在位20年を振り返る報道はあちこちで行われたが、「国際社会のなかでの天皇」について触れたケースはまずなかった。しかし、海外で取材していると、その存在感を知らされる機会が少なくない。

 かつて、ベルリンで私設の「反戦博物館」を主宰する学校教師シュプレー氏にインタヴューした。氏は、歴代自民党首相の戦争責任についての姿勢を強く批判しながら、天皇を高く評価した。「日本の首相は、過去の戦争を『遺憾だ』と口にはするが、それは『残念だ』という意味で謝罪ではない。それに対し、天皇は平和の使者として戦争被害国などを訪れ、心を打つ言葉を発している」

 天皇は、政治的な発言はできないことになっているが、ぎりぎりの表現で謝罪の心を示してきた。たとえば、1992年に訪中したときは、歓迎晩餐会でこう語った。「我が国が中国国民に対し多大の苦難を与えた不幸な一時期がありました。これは私の深く悲しみとするところであります。戦争が終わった時、我が国民は、このような戦争を再び繰り返してはならないとの深い反省にたち、平和国家としての道を歩むことを固く決意して、国の再建に取り組みました」

 日本人が考える以上に、国際社会はこうした天皇の言動に注目している。首相がころころと代わってきた日本では、政治家の顔と名前など、海外ではほとんど知られていない。一方、天皇の知名度は抜群であり、とてもいい意味で「日本の顔」となっている。

 戦後50年に当たる1995年、南ドイツのアルプス山中にあるナチスの元ゲストハウスなどを訪問した。戦後ずっとアメリカ軍の管理下にあり、取材を終え案内をしてくれた将校に手土産を渡して帰ろうとした。すると将校は「ヒトラーの第二司令本部の建物や部屋が残っているんだが、興味はあるか」と聞いてきた。ぼくは、もちろん、その話に飛びついた。将校は、自分の仕事を終えてからぼくの滞在ホテルまで迎えに来て、アメリカ軍関係者しか入れないその施設に連れて行ってくれた。そこには、ヒトラーが使った机などが、そっくりそのまま残されていた。ドイツではまったっく知られていないナチス遺跡で、スクープとなった。恐らく、手土産が効いた。将校に渡したのは、会社の上司にもらった天皇家からの下賜品、「菊の御紋」入りの金杯だった。「こんなものを本当にもらっていいのか」と感激していた。

 2008年にインド・ニューデリーを訪れた際には、総合病院を経営するサチデヴ院長の自宅へ招かれ、夫人が、お嬢さんの通っていた学校に秋篠宮妃殿下が訪れたエピソードを、楽しそうに語ってくれた。

 世界最古のファミリーである天皇家は、中国や韓国などアジアの一部をのぞき、ミーハー的な意味でも人気がある。なのに、そのこと自体、日本国内ではあまり報道もされていないし、したがって一般国民に認識されてもいない。

 それは、20世紀に日本が行った戦争が、天皇の名の下に遂行されたため、天皇制を批判する国民が一定の割合でいることと関係があるだろう。しかし、天皇制批判は、あまりにも薄っぺらで近視眼的な歴史観ではないか。千数百年の歴史を持つ天皇家の、ほんの数十年間のことを取り上げ否定しようとする精神構造は、健全とはいえない。

 日本では長らく、君が代と日の丸をめぐる争いがつづいた。しかし、第二次世界大戦の二大敗戦国の一方であるドイツでさえ、国歌と国旗は戦争以前のものを戦後も採用している。新しい国歌を導入しようと試みた勢力もあったが、国民は受け入れなかった。国でも学校でも個人の家でも、伝統を守ろうとするのは当たり前のことだ。マイナス面はマイナス面として心に刻んでおけばいい。

 イエス・キリストの名の下に行われた戦争は、世界中にいくらでもあるが、だからといって神そのものを否定しようとするキリスト教徒はいない。アラー名の下に行われた戦争も、世界中にいくらでもあるが、だからといって神そのものを否定しようとするイスラム教徒はいない。

 歴史上の一時期をのぞき、天皇には権威はあっても権力は持たなかった。キリスト教徒の外国人には「日本人にとっての天皇は、ローマ法王と似た存在だ」と解説すると、よく理解してくれる。

 現天皇は、過去20年間に、計14回、31か国を訪問したという。天皇の存在そのものが日本の最大の文化遺産であり、最強の外交官であることはまちがいない。その事実を、日本人はもっと自覚したほうがいい。

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