« 日本の誇る隠れた輸出品 | トップページ | 幻のCM――新春も思い出し笑い »

サンタにはベンツをねだろう

 「やっぱ、ベンツでしょ」というヤンキーの声が聞こえる。アメリカの自動車オーナーは、買い替えのとき、どれくらいの割合でまた同じブランドの車を選ぶか。調査会社JDパワー・アンド・アソシエイツが、2009年版、自動車の「顧客維持力」調査の結果を発表した。そんなデータ、日本では聞いたことがないが。

 ドイツのメルセデス・ベンツが、昨年トップのホンダを抜いて首位に浮上した。ベンツのオーナーがふたたびベンツを買う割合は67%で、08年調査より8ポイント上昇した。ホンダは64%、トヨタは61%だった。アメリカでも、日本車の人気は根強いが、ベンツの良さにほれ込む人もそれだけ多いということだ。顧客維持力のポイントは、品質と売却価格だという。アメ車はどうした。

 ぼくは、15年来、1台のベンツに乗りつづけている。この間、バッテリーとワイパーのゴムを一度ずつ替えたくらいで、びくともしない。まだ当分乗れそうだが、もし買い替えるときは、懐具合さえ許せば、やっぱ、ベンツでしょ。

 もともと、車なんかどれでもいいと思っていた。しかし、ドイツのボンへ赴任したとき、「超高速のアウトバーンを走る機会が多いから、いい車のほうがベターで安全だよ」と、がんがん勧められた。

 取材助手クラウディア嬢の車に乗って、ベンツ専用の中古車ディーラーへ向かった。もうすぐその会社に着くというところで、クラウディア嬢に説得された。「新車のほうがいいですよ。期間限定で乗るのだから、高く売れるベンツは、結局、得になります」

 ベンツの新車は、ドイツ政府・新聞情報庁公認のジャーナリストなら、10%引きで買えるという。BMWなども同じだが、高級車メーカーは内外のジャーナリストにその性能を広く紹介してもらいたいのだ。なんと言ったって、自社製品に自信を持っている。

 ドイツ人は、ベンツのことを「メァツェーデス」と呼ぶ。そのベンツの場合、ドイツ人ならオーダーメイドで買うのが一般的だ。完全に自分の気に入った車にしてもらうのだ。日本の花嫁が白無垢を着て、「あなた色に染めて」と言う感覚か。ちがうか!? ディーラーの営業マンは、ハンドルの仕様はこれ、座席はこれ、ホイールはこれと、数十項目についてのオーダー用紙を出してきた。冬場に凍結しやすい土地柄だけに、走行中の路面温度を表示する装置も付けることができる。しかし、オーダーメイドにすると、2~3か月はかかる。そんなに待てないよ、と展示してある中から選ぶことにした。

 営業マンは、スポーツギャル系の美人クラウディア嬢を露骨に口説きながら、いろいろ車を見せてくれた。お前はイタリア系か! ポーラーホワイトのCタイプが気に入った。「お目が高い。これは、100%国産の仕様になっています」。ラテン風ゲルマン男は調子がいい。「ドイツで走っているベンツでも、部品がすべて国産というのは、むしろ珍しいんですよ」。なんでも、南アフリカ製などの部品を使うことも多いらしい。ショートヘアにグレーの瞳のクラウディア嬢も、それは知らなかった。

 慣れない左ハンドルの右側走行で、しかも、ドイツ名物アウトバーンはスピード制限なしの“無法地帯”だ。最初だけ、クラウディア嬢にドライブを付き合ってもらった。うらやましいか、ゲルマン男。

 ハンドルやアクセルの操作をするとき、手足との不思議な一体感がある。意のままに疾駆するマシン、という感じだ。オーダーメイドじゃなくても、けっこう、あなた好みの白無垢っぽい感覚だ。その高性能は、日本ではまず試せない超高速運転でこそ発揮される。時速160キロを超すと、タイヤがほんのわずか「八」の字になり、それだけ車高が低くなって路面によりフィットする。

 「ベンツは、運転していて疲れにくい」と、乗っている人は誰でも言う。ドイツのタクシーのおそらく98%以上はベンツだ。あるドライバーは「メァツェーデスなら、30万キロ走っても、俺も車もつぶれないよ」と言った。エンジンがすごいと一般に思われているが、それだけじゃない。

 ボンからベルリンに引っ越したさいも、もちろん愛車を持っていった。首都を取り巻くアウトバーンは、「ベルリーナーリング(ベルリン環状線)」と呼ばれる。近郊の村へ取材に行くため、インドネシア系の助手マイリン嬢を隣りに乗せて、そこを飛ばした。黒髪に黒い瞳が色っぽい、ゲルマン男悩殺型の東洋美人だ。3車線あり、一番左の追い越し車線を200キロ近くで走っていた。

 真ん中のレーンにいた大型のタンクローリーが、突然、目の前に突っ込んで来た。ぼくは思いっきりブレーキ・ペダルを踏み込んだ。カッカッカッと装置の音がし、制動システムのABSは完璧に利いた。車体同士がかすったのではないか。

 一瞬後、助手席から大きな声が上がった。「オォ、メァツェーデス!!」

 あわやぶっ飛ばされるところで、まさに、戦慄のタイミングだった。マイリン嬢がふり返ると、一番右側の車線で日本車がスピンしているという。タンクローリーはそれを避けたのだった。

 日本に個人輸入したわが愛車は、100キロ制限ってなに? と半ば眠ったまま走っている。

|

« 日本の誇る隠れた輸出品 | トップページ | 幻のCM――新春も思い出し笑い »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/540025/47100532

この記事へのトラックバック一覧です: サンタにはベンツをねだろう:

« 日本の誇る隠れた輸出品 | トップページ | 幻のCM――新春も思い出し笑い »