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日本の誇る隠れた輸出品

 日本の文化・エンターテインメント関係の輸出品としては、アニメ、漫画、カラオケがつとに有名だ。しかし、いわゆる「もどき商品」も、非常に評価が高い。

 イタリア南部ナポリのレストランで食事をしたときのことだった。カンツォーネで知られるナポリ湾に面した絵のように美しい波止場地区、ボルゴ・サンタ・ルチアにある店で、当然ながら海の幸を注文しようとした。

 メニューを開くと、カニ料理がうまそうだったので、それに決めた。出たきたのは華麗に盛りつけた一品だったが、口にするとなんだかおかしい。ふた口目を食べてみて、やっぱりあれだ、と分かった。

 店長を呼んで、「これ、本物のカニじゃないでしょ。これは魚のすり身から作ったもどきのカニ足ですね」とクレームをつけた。いっしょに来ていた日本人の知人も「これ、カニ足にちがいないですよ」と加勢をしてくれた。店長はそれでも「本物のカニです」と言い張るので、「それなら、シェフに確認して」と注文をだした。

 店長は、調理場へ入ってきてから、申し訳なさそうに言った。「カニではありませんでした。日本製だそうですね。それにしても、味も食感もそっくりではないですか」

 読売新聞の2009年12月9日付け朝刊で、「食 ショック 09」という連載が再開された。もともと、食品偽装が頻発したのをきっかけに企画されたものだ。この日の記事は、人工のそっくり食品の実態が紹介されていた。

 フカヒレの国内流通量は年間500トン弱で、そのうち3割は人工品とみられるという。原材料はゼラチンや海藻にふくまれるアルギン酸ナトリウムなどで、値段は本物の10分の1にすぎない。

 横浜中華街のある店では、メニューに「フカヒレ風味」と書いてあるそうだ。この風味という言葉は実に便利で、もどき商品にはよく使われる。人工フカヒレは食感も風味も本物そっくりといい、読売の記者はまったく気づかなかった。店の人は、「うちは正直なだけで、他の店は黙って出してる」と言った。少なくとも20年前から、人工フカヒレは流通しているらしい。

 植物性たんぱく質や調味液で増量したハムもある。フライパンで焼くと、ふつうのハムは急速に小さくなっていくのに、増量されたものはゆっくりしている。本物の3割の値段で販売されている。

 日本生活共同組合連合会の「国産若鶏のチキンナゲット」の場合、鶏肉の配合はわずか3割にとどまるそうだ。

 記事は、人工イクラにも触れていた。実は、その人工イクラが出回っていることをスクープしたのは、ぼくだった。消費者経済などを担当していた1980年のことだから、いまから29年も前になる。

 長野県の消費生活センターに取材に行くと、S所長が「消費者から、変なイクラが持ち込まれたんです」という。日にちがかなり経っているのに、ふつうのイクラのように縮まないのだという。容器をみると、たしか富山県のメーカーだった。その連絡先をメモして帰り、取材を開始した。

 そのメーカーは、接着剤を作る会社だった。直接取材すると、人工的にイクラを作っていることを認めた。当然ながら、なんで接着剤とイクラがつながるのか、疑問が浮かぶ。メーカーの説明はこうだった。

 会社では、コンクリートの大型パネルなどを接合する接着剤を開発していた。強力な接着剤を作ることには成功したが、それをパネルに均一に塗って張り合わせる方法がうまくいかない。塗っているはしから乾いてしまい、くっつかない。接着剤をカプセルに詰め、それをパネルとパネルのあいだにおいて、ギュッとつぶせばいいのではないかと考えた。

 そこで、今度はカプセルの開発に乗り出した。しかし、どうやっても狙い通りのサイズにならず、ちょうどイクラくらいのサイズのものになった。ある研究者が、「この技術を応用して、人工のイクラを作ったら」と思い立ち、急きょ、食品開発に手を広げた。

 カプセルはゼラチンを使い、中に、カニの甲羅から抽出した赤い色素、イクラの味に近い調味料を詰めると、本物そっくりのイクラを作ることに成功した。本物よりかなり安いコストででき、食品衛生法もクリアした。流通ルートに乗せると、どんどん売れるようになったという。

 消費生活センターのS所長に、取材結果を伝えると、感心していた。「寿司屋でイクラを注文されたときにこれを出せば、だましたことになるでしょうが、盛り合わせにいれるぶんには、問題ないですからね」

 読売新聞の記事では、大手食品メーカー「キューピー」が、業務用に年間50トン販売している、とあった。富山県の会社はキューピーに特許を売ったのだろう。たいていの人は一度や二度、この人工イクラを口にしながら気づかなかったことがあるのではないか。これも、カニ足などと同じく、日本人の器用さが生んだ傑作といえるかもしれない。

 こうした技術や食品は、どんどん輸出されている。さて、日本人はほとんど知らないが、海外で評価の高い輸出品がある。アニメやもどき商品ではない。アダルトビデオだ!

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