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JR最凶線の怪

 うーん、うむぅ、と新聞を読んでいて思わずうなってしまうことがある。記事を書いた記者は、その記事の深い意味に気づいていないらしいケースのことが多い。

 JR東日本は、痴漢の被害が多い埼京線の一部車両に、2009年末、試験的に防犯カメラを設置した。電車の防犯カメラは、全国で初めてだそうだ。いまどき、全国いたるところの商店街にも防犯カメラはあるから、そう違和感もないが、埼京線の場合は目的が目的だけに、メディアが飛びついて報道した。

 ぼくも、半年だけ、ラッシュアワーに埼京線で通勤したことがある。朝、上り線の最後尾車両は、殺人的な混雑となる。後ろの車両に乗っていたほうが、新宿駅の乗り換えに便利なためだ。1分でも余裕を持って、中ほど以前の比較的混雑が穏やかな車両に乗ればよさそうなものだが、みな殺気立って後ろのほうに乗ろうとする。

 ぼくは、いつも中ほどの車両に乗ることにしていたが、それでも大変なすし詰め状態にはちがいない。車内放送では「痴漢に気づいたらすぐに通報してください」とくり返している。万が一にも痴漢にまちがわれないよう、手の位置に細心の注意を払って立ちつづけなければならない。

 周防正行監督が脚本も手がけた映画『それでもボクはやってない』は、ぼくがいわゆる“JR最凶線”の殺人列車で通勤していたころより2年後の作品だ。電車内で痴漢に間違えられた青年が、無実を訴える姿を、日本の裁判制度の問題点を浮き彫りにしつつ描いている。よくぞこんな作品を作ってくれた、と思ったが、現実は何も変わらなかったようだ。

 ただでさえスタミナを浪費するラッシュアワーに、痴漢をする男の気が知れない。

 一方で、やってもいないのに痴漢にまちがえられたら人生が破滅する。駅員に突き出され、痴漢行為を否定すれば警察に通報され、逮捕・起訴されるのがふつうらしい。痴漢を認めれば、前科者となる。

 それでも、勤め人である以上、ラッシュアワーの電車に乗らなくてはならない。今日もどこかで、冤罪の悲劇が生まれているのだろう。

 ぼくは、一度だけ、試しに上り線最前列の女性専用車両をホームからのぞいてみたことがある。おなじ電車とは思えないほどすいていて、ゆったり新聞を広げている女性もいた。これなら、いっそ女装して・・・と思ったわけでもないが、なんだか不公平というか逆差別というか、釈然としない気持ちになったことを覚えている。

 読売新聞は、2009年12月上旬、埼京線を利用する女性乗客50人にアンケートを実施したという。防犯カメラの設置に賛成したのは34人で、反対は6人だった。その他の10人ははっきり答えなかったのだろう。反対意見としては、「頭の上から撮っても無意味」「監視されているようで気分が悪い」などの声があったそうだ。

 思わずうなってしまったのは、記事の最後にコメント抜きでさらっと触れられていた数字を知ったときだった。

 「回答者50人のうち、痴漢被害の経験があるとした女性は41人で、埼京線車両内で起きたと回答した人は36人だった」

 サンプル数が少ないから統計学的な意味はあまりないだろう。それでもこの数字が意味するものは小さくない。まず、8割が痴漢にあったとしている点だ。仮にこれがほんとなら、やはり大変な被害規模ということになる。ほんのちょっと誰かの手がお尻に触れただけでも、「あ、痴漢だ」と身構えるということはないだろうか。

 埼京線で痴漢に遭ったとする女性が7割を超えているのは、埼京線の利用者に聞いたから当然ではある。

 ぼくがうなったのはそういう点ではない。女性の8割もが痴漢を体験しているにもかかわらず、女性専用車両がラッシュアワーでも割りとすいているという事実だ。もし、痴漢という行為が男性の人生を棒に振らせるほどの大罪なら、一度でも痴漢にあった女性は、「現代の駆け込み寺」女性専用車両に殺到すべきではないか。

 痴漢が犯罪であることは言うまでもないが、一方で、痴漢にあった女性が人生を棒に振ったという話は聞いたことがない。触れられたことがトラウマとなって、健全な男女交際が出来なくなった女性のケースは果たしてどれくらいあるのだろうか。

 埼京線の痴漢防止カメラの話をくり返し報道するほど、メディアがネタに困っているなら、ぜひあちこちのカウンセラーなど専門家に取材をしてもらいたいものだ。

 読売新聞のアンケートの数字を、うちの21歳の娘はこう“分析”してみせた。

 「満員電車で通学通勤している女の子で、痴漢にあったことがないなんていうのは恥だからね。見栄をはって痴漢の経験があるって言ってる人もいるんじゃないの。それに、ほんとに触れられるのがいやなら、ちょっと早起きして女性専用車両に乗ればいいじゃん」

 報道では、都内の高校2年の女子生徒が、埼京線の下り線先頭車両で4、5人の男に取り囲まれ下着を下ろされそうになったという。こういう狙い済ました極めて悪質な例はどれほどあるのだろう。

 痴漢被害の絶対的な解決法はなくもない。奇数号車両を「男性専用」に、偶数号車両を「女性専用」にすればいい。

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