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たばこはポルノに取って代わるのか

 ドイツで暮らしているとき、トルコへ家族旅行に行った。イスタンブールの郊外を散歩していると、いたずら盛りの息子がぬかるみにわざとはまり、靴を泥んこにしてしまった。旅先のことでぬぐうものもなく途方に暮れていたら、通りがかった初老の男性がわざわざちょっと離れた自宅まで戻ってきて、雑巾を差し出してくれた。

 「日本人でしょ。日本大好きです」とにっこり笑ってくれた。トルコでは、行く先々で信じられないほど親切にされた。ネパールやパキスタンなど親日国をたくさん訪問したことがあるが、トルコほどの親日国は初めてだった。以来、わがファミリーはトルコにとても親近感を抱くようになった。

 そのトルコのテレビ局が、アニメ番組で喫煙シーンをそのまま放映した“罪”で、罰金85万リラ(約300万円)を支払わされたという。トルコでは、2008年から禁煙法が施行され、テレビや映画の喫煙シーンにはモザイク処理をしなければならなくなった。まるで日本のポルノといっしょだ。わが国のポルノ規制は、インターネットの普及で海外の無修正映像をかんたんに入手できるようになり、有名無実となっているが、たばこをめぐるトルコのご法度は相当に厳しいらしい。

 トルコでは15~49歳の約半数が喫煙者といい、成人男性の喫煙率が36%の日本に比べてかなり愛煙家が多い。そんな国でも、たばこ規制には血道をあげているのが、世界の趨勢なのだ。

 日本の厚生労働省は、他人のたばこの煙を吸わされる「受動喫煙」による健康被害を防ぐため、学校や病院、飲食店、ホテルなどを原則として全面禁煙にするよう全国の自治体に対して通知を出すことを決めた。罰則はないのでどれだけ禁煙が徹底するかはわからないが、スモーカー包囲網が一段とせばめられるのはまちがいない。

 嫌煙一家のわがファミリーとしては、大いに歓迎したい。通勤通学路に面しているわが家の玄関先に、たばこを火の点いたまま投げ捨てする輩があとをたたない。JRの駅を降りて歩きたばこをする人もたくさんいて、煙い思いをすることも少なくない。

 厚生労働省のデータによると、今はたばこを吸っているが「実はやめたい」と思っている人は約70%にものぼるという。それなら、どんどん規制を強め、断煙するきっかけを作ってあげればいい。

 しかし、全面禁煙措置に対して、当然ながら、愛煙家や外食産業、たばこ産業から強い反発が起きている。イギリスでは、禁煙法によってパブ(大衆居酒屋)でたばこが吸えなくなると、自宅で晩酌する人が増えた。折からの不況もあって、2008年だけで全国の2200軒のパブが閉店に追い込まれたそうだ。

 大手居酒屋チェーン『ワタミ』の社長も、「禁煙居酒屋は日本ではまだむずかしい」とテレビで言っていた。ワタミでは2005年、首都圏などの4店舗で禁煙にしてみたところ、宴会が減り、喫煙者の多い深夜帯の客にも敬遠されて経営が悪化し、1年でやめた。

 ドイツは喫煙大国として有名で、ぼくたちが住んでいたころもスモーカーは多かった。もちろん、ぼくのオフィスは全面禁煙にしていて、灰皿なども置かなかった。取材助手はたばこを吸わないことを事実上の条件として採用した。ドイツ人は自己主張がすごいが、私設のルールであれそれを守ることにかけては世界一で、来客も誰ひとり文句を言わなかった。

 しかし、2007年にドイツでも禁煙法が制定され、「完全な分煙ができれば喫煙室の設置を認める」とされたため、投資する力のない小さな酒場の経営者たちが「不平等」だと憲法裁判所に訴えた。翌年、その訴えは認められ「平等を定めた基本法(憲法)に違反する」との判決が出た。どこの国でも、飲酒とたばこはかんたんには切り離せないようだ。

 一方で、海外では、飲食店を全面禁煙にしたら、たばこの煙を嫌っていた客が来てかえって経営がよくなったケースもあるらしい。

 日本のタクシー業界も反応は複雑なようだが、「一斉に禁煙にするなら賛成」というドライバーが7割にのぼるとの話もある。確かに、すべてのタクシーが禁煙なら、乗客に選ぶことはできないから、それでいい。

 日本でもやっと、2010年10月からたばこが値上げされる。1箱300円の代表的なブランドが400円程度になるとされる。近い将来はさらに高くなる見通しだ。そのニュースを聞いて、「暴力団が喜んでいるかもしれないな」と思った。

 ベルリンの地元紙に、よくたばこマフィアの記事が載っていた。ポーランドなど東欧諸国から安いたばこを密輸し、街中で密売する闇ビジネスが摘発されるのだった。ドイツのたばこ価格は、ヨーロッパのなかでは決して高くはなかったが、それでも人件費などの安い東欧に比べればかなり高く、密輸すれば結構もうかるらしい。

 日本でも、中国産や北朝鮮産、東南アジア産などの密輸たばこが出回る日も遠くないかもしれない。

 たばこの値上げは、善良な嫌煙派の市民とマフィアの利害が一致する極めて珍しいケースとなりうる。その筋の人たちも、もう違法の無修正ポルノで稼ぐ時代ではないだろうが、今度はたばこの密輸に期待しているのかもしれない。

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