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ゴールデンスランバー、そして小沢 VS 検察

 映画『ゴールデンスランバー』を、妻と息子といっしょに観にいった。もともと、本好きの息子に勧められて伊坂孝太郎の原作を読み、いかにも映画化向きの作品だな、と思っていた。息子も、監督が伊坂作品の『アヒルと鴨のコインロッカー』などを映画化した中村義洋と知り、「きっと面白いよ」と言っていた。

 伊坂作品の例によって舞台は仙台市で、主人公は宅配便の運転手をしている青柳(堺雅人)だ。青柳はかつてある事件でアイドル女性を助けたことから、マスコミに取り上げられ地元ではかなりの有名人だった。仙台出身の総理が地元凱旋パレードの最中、ラジコンヘリに仕掛けた爆弾で暗殺され、その青柳が、得たいの知れない権力側によって犯人に仕立てられ、追い込まれていく。

 青柳そっくりの男がラジコンを買っている店の防犯カメラの映像、河原でラジコン操縦の練習をしているところをホームビデオで撮った映像など、“証拠”がつぎつぎとテレビで流される。青柳本人は身に覚えがないが、市民は有名人の青柳が犯人と信じ込む。権力は、知名度のある青柳をわざと犯人役に選んだ疑いが濃かった。青柳は友人のところに逃げ込もうとするが、そこには早々と警察の手が回っている。警察は、ファミリーレストランにいる青柳を追って、平気でショットガンをぶっ放したりする。権力ににらまれたら一般市民に逃れる術はほとんどない。

 完全アウェイの街で、それでも、学生時代の親友や宅配会社の同僚、たまたま知り合った入院中の粋なおじさん、元カノなどが、青柳の無実を信じ、智恵を絞って逃走を助けてくれる。

 こうした人びとのキャラクターが実に良く、原作に忠実に描かれていて、観終わったときにはなんとも言えない爽快感がある。「ひょっとしたら原作を超えたかも」と伊坂ファンの息子は言った。原作から離れてオリジナリティを出そうとして失敗する映画が多いなか、『ゴールデンスランバー』はまれにみる成功例と言えるだろう。

 この作品を観ていて、小沢一郎・民主党幹事長と東京地検特捜部のバトルを連想した人も少なくないかもしれない。2009年3月にひとつのピークを迎えた西松建設の違法献金事件以来、バトルはマスメディアを巻き込み、「小沢は真っ黒」のイメージが国民のあいだに形成されていった。世論を作ったのは明らかにメディアの報道だったが、その中心となったのはいわゆる検察リークだった。

 『ゴールデンスランバー』の青柳が、“証拠ビデオ”のテレビ局へのリークなど権力の組織的な動きによって犯人に仕立て上げられたのと、メカニズムは同じだ。

 2010年2月4日、陸山会の政治資金規正法違反事件で、小沢幹事長が不起訴となった。これを知った自民党の安倍晋三元総理は「驚いた」と語ったという。総理経験者ともあろう人物が、メディアの偏った報道を鵜呑みにし、まるで素人のように小沢犯人説を信じていたのだろう。その単純さに驚かされる。

 検察リークを垂れ流していたあるメディアの幹部は、「リークの定義もあいまいなまま、批判をする人たちがいる」と反論した。しかし、この場合の定義は明確だ。検察幹部が、ある意図を持って守秘義務に違反して捜査上知りえた情報を漏洩することだ。その意図とは、都合のいい世論の形成、世論操作に他ならない。

 西松事件から陸山会事件に至る一連のバトルで、リークは見え見えだった。マスメディアは白々しくも否定するが、ある元検事は、そうしたリーク行為を検察内部では「風を吹かす」と呼ぶことを暴露している。元総理も思い込むほど見事に風は吹いたが、検察は肝心の捜査で小沢幹事長を起訴に持ち込めなかった。その意味で、バトルはとりあえず検察の敗北となった。

 陸山会など小沢氏の政治資金で、巨額の不審な流れがあったのは恐らく事実だろう。疑惑があれば捜査するのが検察の仕事だから、淡々とやればいい。だが、検察の姿勢は公正さを欠き、小沢氏が狙い撃ちにされたのは明らかだ。

 一連のバトルをめぐり、日刊ゲンダイなど非新聞系のメディアが、検察やリークを垂れ流す新聞、テレビを盛んに批判した。それはある意味で健全だが、新聞社系の週刊誌であるサンデー毎日や週刊朝日などまでが、徹底した検察批判を展開したのが目を引いた。

 もともと、検察が小沢幹事長や鳩山由紀夫総理の政治資金に的を絞ったのは、「取り調べの全面可視化」を法制化し、検察幹部の人事を国会同意にしようなどとする民主党の動きをつぶそうとしてやったことだとされる。

 サンデー毎日は、小沢氏の元秘書、石川知裕衆院議員がいかに過酷な取調べを受けているかをレポートした。週刊朝日はさらに激しく、「暴走検察」のタイトルで、何週にもわたって検察を追及した。検察は抗議のため週刊朝日の編集長を呼びつけたが、編集長は応じず、関係者がツイッターでそれを公にして逆手にとるなど、バトルは飛び火している。

 検察は、汚名返上のため、今度は自民党の大物政治家を摘発しようとしている、との噂が絶えない。小沢氏を脱税で仕留めようとしているとの話もある。今後の展開がどうなるにせよ、『ゴールデンスランバー』のように爽快感は期待できないところが、国民にとっては空しく悲しい。

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