« たばこはポルノに取って代わるのか | トップページ | 改めて生と死を考える »

勝った者は強い だから、4年後には…

 強いものが勝つとは限らないが、勝った者は強い――バンクーバー冬季五輪の女子フィギュアを観終わって、この言葉を思い出した。

 ラッキーカラーとされる青いコスチュームで、228.56という異次元の得点をあげ金メダルを取ったキム・ヨナ選手のことではない。

 前回トリノ五輪でやはり青いコスチュームを身にまとい金メダルを取った荒川静香さんのことだ。荒川さんは、つくづく強運の持ち主なのだろう。2005年のグランプリシリーズ、グランプリファイナルでは浅田真央ちゃんに2連敗したが、真央ちゃんやキム・ヨナ選手は年齢制限のためにトリノ五輪に出場できなかった。

 代表落ちすれば引退することさえ公言していた荒川さんは、全日本選手権でどうにか3位となり、長野五輪以来8年ぶりとなるトリノ五輪代表に滑り込んだ。

 そのトリノでは、フリーで自己最高得点を出して優勝し、アジア選手として五輪フィギュア史上初の金メダルとなった。当時24歳で、五輪女子フィギュア史上最年長の金メダル獲得でもあった。

 トリノで日本人選手団は惨敗し一つのメダルも取れないなか、荒川さんの「金」は燦然と輝き、一躍、国民的ヒロインとなった。体を後ろに大きく倒して滑るイナバウアーは流行語になった。

 しかし、合計スコア191.34は、単純比較はできないとしても、バンクーバー五輪でなら4位にとどまる。真央ちゃんらがトリノに出場していたら、荒川さんはメダルに手が届かなかったかもしれない。

 荒川さんは、トリノ後、プロスケーターとなり、フィギュアの解説者としても活躍している。空前の広告不況でテレビ出演料が軒並み下がり、大物芸能人は4割減とも言われる状況で、バンクーバー五輪の解説をする荒川さんだけはギャラがはね上がり“ひとり勝ち”とされる。

 経験に基づく説得力のある解説や、歯切れのいいインタヴューなどで非凡なものがあり、テレビ局が重用するのは当然とはいえ、それも「金」のおかげだった。

 まさに、勝った者は強い、の好例といえる。

 一方、野球のピッチャーにたとえると、キム・ヨナ選手はバンクーバーで、投球術、制球力抜群、変化球多彩でボールの切れもよく、「完全試合」を達成した。コーチの方針もあり、難易度の高いジャンプよりも表現力など評価点の高い演技に力を入れ、狙い通りの結果を出した。つまり、好投手タイプだ。

 紅と黒のコスチュームの真央ちゃんは、トリプルアクセルという世界最高速の剛速球を放ったが、投球術や制球力でやや劣り、勝利を逃した。

 素人目にみても、華やかさ、つまりショー的要素としては、キム・ヨナ選手が数段勝っていた。

 だが、男子フィギュアで唯一の4回転を決めながら、真央ちゃんと同じく銀メダルに終わったロシアのエフゲニー・プルシェンコ選手(27)をはじめ、採点方法に疑問を呈する声もある。たしかに、フィギュアのスポーツ性を重視するなら、力と技が要求される難度のより高いジャンプをもっと評価してもいいだろう。

 フィギュア・エキシビションで、真央ちゃんは「クイーン・オブ・トリプルアクセル(3回転半の女王)」と紹介された。同じジャンプに命をかける者同士として親近感があるのか、真央ちゃんはエキシビション練習で同組になったプルシェンコ選手の頬にキスをしたという。

 そして、練習でもウオーミングアップ代わりに4回転の2連続ジャンプを跳んだプルシェンコ選手を食い入るように見つめて、刺激を受けた。

 プルシェンコ選手も、真央ちゃんの4回転の可能性について聞かれると、「"Yes, she can"、着氷にはまだ少し難があるけど、マオはジャンプの回転が速いから大丈夫」と太鼓判を押した。さらに「何ならぼくも手助けできる」と、どこまで本気かはわからないが、コーチ役にも名乗りを上げたという。それが実現したら面白いことになる。

 率直に言って、キム・ヨナ選手の競技人生は、バンクーバーがピークだったのではないか。競技生活から引退してプロスケーターになるかもしれないという話は、真実味を帯びている。

 それに比べ、真央ちゃんはまだ荒げ削りなだけ、伸びしろもある。プロ野球のピッチングコーチは、若い投手にまずスピードを求めるという。変化球や投球術は練習と実践で習得できるが、球の力は持って生まれた要素が大きいからだとされる。

 フィギュアも同じだろう。トリプルアクセルを跳べるのは、現役の女子選手でふたりしかいないとされる。真央ちゃんは、それを五輪という大本番で計3回も成功させた。そして、4回転の可能性もじゅうぶんに秘めており、夢が広がる。

 4年後にロシアのソチで開かれる五輪が、真央ちゃんのピークになるのではないだろうか。エキシビションで「4回転の女王」と紹介されるのを想像して、練習に励んで欲しい。そして、「強い者が勝つ」シーンを見せて欲しい。

|

« たばこはポルノに取って代わるのか | トップページ | 改めて生と死を考える »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/540025/47721468

この記事へのトラックバック一覧です: 勝った者は強い だから、4年後には…:

« たばこはポルノに取って代わるのか | トップページ | 改めて生と死を考える »