草食系男子と我田引サイダー
この就職氷河期のなか、息子が大学を卒業して就職した。慶賀に堪えないと言いたいところだが、本人はそうでもないらしい。一番の理由は意外だった。
「ジュノンボーイが入って来たって噂になって、なんだかやりにくいんだよね」。他部署の人たちにまで、一方的に顔と名前を覚えられたそうだ。こちらはどこの誰か、まだ全然わからないのに、親しそうに声をかけられたりして戸惑うのだという。
噂の発信源は突き止めたらしい。「ジュノンボーイっぽい子が入った」ってある人が言ったのが、「ジュノンボーイの新人が来た!」と尾ひれがつき、先輩の女性たちは「審査、どこまでいったんだろうね」などと、すっかり噂が“定着”しているようだ。
「直接、ほんとかどうか訊かれれば、『単なる噂です』って否定できるんだけど、陰でこそこそ広まってるんでどうしようもないんだ」
かみさんは、そんな息子をつかまえて小言を言う。「だから、草食系って言われるんだよ」。ぼくは「いっそ、『ジュノンボーイじゃないけどジャニーズにいました』って言ってやったら」と発破をかけておいた。
草食系男子という言葉は、メディアが勝手に作って騒いでいるフィクションだと思っている人もいるようだ。しかし、20歳過ぎの息子と娘を持つ身としては、草食系男子と肉食系女子はまぎれもなく、この平成の世に実在している、と断言できる。
わが家のジュノンボーイは、誰からでも「もてるでしょぉ」と言われているが、実際にはそんなことはない。大学時代には彼女もいたが、傍で見ていると、若者独特の身を焦がすようなパッションというものが、およそ感じられなかった。
なんとなくつきあって、なんとなくいっしょに暮らしたり、なんとなく別れたりする。ガツガツしたところがまるでない。肉食恐竜には、生きた獲物だけ狙うハンターと、ハンターが食べ残した腐肉をあさるスカベンジャーがいる。息子にはせめてスカベンジャーくらいにはなって欲しいが、本人はのほほんと生きている。
ぼくは高校、大学と生物を研究するクラブにいて、サンショウウオの生態を調べていた。草食系男子のなかでもうちの息子は、観察するところ、草食のシマウマやキリンなどよりサンショウウオに近い。清流の底にほとんどじっとしていて、餌を取りに積極的に動くこともせず、たまたま口の辺りに来た餌をぱくっとやって、またじっとしている。
『失楽園』や『愛の流刑地』などで知られる恋愛小説界の大御所、渡辺淳一センセイは、草食系男子の増加は「歴史の必然かもしれない」と分析している。
「平和で文化が発達した社会では、男性は強さという男らしさを発揮する機会がない。そんな男性をほめてくれる女性もいないので、男性は自信を失い、内にこもり気味の草食系にならざるを得ない」
しかし、その仮説にはすぐにはうなづけない。そうなら、日本以外の平和で文化が発達した国にも草食系男子が増殖しているはずだ。しかし、たとえばドイツなどヨーロッパで、そんな社会現象を聞いたことはない。
お隣韓国でも、そんな新種族はいない。もっとも、この国の場合は、すぐそこに北朝鮮というとんでもない危なっかしいハンター恐竜がいて、徴兵制もあり、男子が草食化する平和などないのだろうが。
アサヒ飲料は、「20代の若者男子の消費行動に関するアンケート」を行った。同時に、30~40代の男性にも同じことを聞き、20代のころの自分はどうだったかを答えてもらっている。
「なりたい自分のイメージ」について、30~40代は「かっこいい」が1位だったが、20代は「自然体である」「中身がいい」「さわやか」「人間性がいい」がキーワードとして並んだ。
炭酸飲料に抱くイメージについて、20代はコーラには「濃い」「強い」という印象を抱いているのに対し、サイダー飲料には「さわやか」「自然な」という印象を持っていたという。
そこで、アサヒ飲料の雑誌広告は言う。「この結果から見える、イマドキ男子がなりたい人間像・自分像は、サイダーのように純粋でさわやかな男子、いうなれば『サイダー男子』である」
お金の使い道について、30~40代は「飲み会など交際費」「デート代」「車」が上位を占めたが、20代は「貯金や貯蓄」がトップだった。堅実と言えば堅実、若者らしさがないと言えばない。
炭酸飲料を選ぶ基準としても、かつての男子が求めたのは「キツイ」「パワフル」だったが、今や「品質」「安心・安全」が来るという。
だから、というわけか、「安心・安全・自然」をコンセプトとする三ツ矢サイダーの売り上げは、2004年から6年連続で増加しているそうだ。
これじゃ、我田引水というか、我田引サイダーだ! なんだか、株の不正取引みたいになってしまっちゃった。
草食系男子、たまには吠えろ!
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