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ちゃぶれ! 岡田JAPAN

 サッカーJ2横浜FCのキング・カズこと三浦知良(43)の携帯電話が鳴った。表示画面にちらっと目を走らせたカズは、見知らぬ番号にちょっと不信感を抱きながらも、通話ボタンを押した。

 「岡田武史です。本来なら直接会って話すべきことなんだけど、時間がないので電話で失礼するよ」

 カズは、その声を聞いただけで用件を悟った。12年ものあいだ口をきいていなかったが、W杯南アフリカ大会に出てくれということだろう。岡田(53)は、ちょっと緊張した様子だった。

 「1998年のフランス大会の時には、直前になってメンバーからはずしてしまい申し訳なかった。戦術構想から、ぎりぎりのところで選出できなかったんだ。今思えば、おれも若かったかもしれない」

 岡田は、何か言い出そうとしたカズの声をさえぎるように、ひと息でつづけた。

 「南アにいっしょに行ってくれないか。チーム主将として、直前合宿から試合本番まで、若いやつらを引っ張っていって欲しいんだ」

 カズは、岡田のややせっかちな話し方をむしろ快く感じながら、ついにこの日が来たか、と深い感慨を覚えた。

 W杯予選では通算27得点を挙げ、リーグ年間最優秀選手賞1回、ベストイレブン2回、1993年にはアジア年間最優秀選手賞を受賞しながら、ついにW杯出場の夢はかなわなかった。それでも、現役選手でいる限り、自分では目標をW杯出場に置いて日々を過ごしてきた。消えかけていた夢が、いま実現しようとしている。

 岡田は、カズがどう返答するか確信しているように、たたみかけた。

 「いろいろ言いたいこともあるかもしないが、いまはぐっとこらえてくれ。日本のサッカーのために、最後の最後にもう一度だけ力を貸してくれないか。いまの代表に欠けているのは、本当のプロ意識、ぎりぎりのところでの闘争心なんだ。それを吹き込んでくれ」

 カズは、「わかりました」とだけ答え、電話を切った。――

 2010年5月10日午後2時過ぎ、しかし、ぼくの<思い>は白昼夢となった。岡田代表監督は、南ア大会の選手23人を発表した。そこにカズの名前はなかった。

 岡田監督は、ぼくがカズに託してもらいたかった役割を、GK川口能活(34)に任せた。けがのため今シーズンは公式戦にまったく出ていないが、そのガッツは日本代表に好影響をもたらすだろう。試合で使わないことを前提にした選手選考は異例中の異例で、批判の声も聞こえるが、岡ちゃんはそこまで追い込まれたということだろう。

 サッカーの熱狂的サポーターとして知られるSMAPの木村拓哉さんは、「ユニホーム姿のカズさんがいるだけでチームに元気が出たと思う。落ちてビックリ」と代表漏れを嘆いたという。やっぱり、ぼくと同じことを考えている人はいたんだ。

 当のカズはまだあきらめず、日本代表に帯同するサポートメンバー入りを熱望している。「代表で何かできることがあれば。僕は(予定を)空けときますから」。特に果たしたい役割は主力選手の精神的支援で「ずっと代表に入っている選手は責任感が強い。もう少し楽にプレーさせてやりたい」と語ったという。その意気や良し。

 W杯イヤーに入ってから、岡田JAPANは東アジア選手権で完敗し、2軍のセルビア相手にも0:3で惨敗した。サポーターはため息をつくことさえ忘れた。

 これまで一貫して、より攻撃的な4バックで戦ってきたが、岡ちゃんは「3バックを考える必要があるかも」とぶれた。全員守備で攻撃にはショートパスをつなぐチームコンセプトを死守してきたはずなのに、コンセプトとはひと味ちがう自己主張型のMF本田圭佑を軸にするべく路線を変えた。

 どっかで見たことがあるなぁ、と思えば、普天間問題で迷走に迷走を重ねる鳩山首相とそっくりだ。ふたりの日本人指導者がとっている行動には、重なるものがある。

 岡田JAPANの選手は、チャンスにもシュートを打たずパスを選択する。なぜだろう。なにやってんだ。ある解説者は言った。「日本のサッカーは、シュートをはずした責任は問うが、シュートを打たなかった責任は問わない。そこが、ヨーロッパや南米と決定的にちがう」

 これもどっかで聞いたような話だ。日本の企業文化そのものじゃないか。ぼくが勤めていた新聞業界もそっくりだった。特ダネを抜いた時のほめ言葉より、特オチをした時の叱責のほうが大きい。そんな環境で仕事をしているジャーナリストなど、海外にはいない。

 DF内田篤人は、あるインタヴューで、各選手に「W杯メンバーに選ばれたい」という意識が強すぎプレーが小さくなっていたことを認めた。リストラにおびえ上だけ見ている“ヒラメ会社員”そのものの姿だ。たとえば、ドイツ人なら、選考がかかっているからこそ思い切ったプレーでアピールしようとする。岡田監督が、ひと言「縮こまったプレーをする者はいらない!」と活を入れれば解決できる話じゃないか。

 とはいえ、勝負はやってみなきゃわからない。大会本番では、強豪の敵を思い切ってちゃぶって欲しい。ちゃぶらーよ、ちゃぶれ。ちゃぶれば、道は開ける!

 注)ちゃぶる:J1横浜Fマリノスの木村和司監督が使い出したサッカー用語。「相手をおちょくる」という意味を持ち、メディアやサポーターのあいだで少しずつ浸透しつつある。ちゃぶらーとして特に期待できそうな選手は、ひょうひょうと闘うMF遠藤保仁や、意表を突くテクニシャンのMF松井大輔などだ。

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