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ノンアルコールビールにいちゃもんをつけるな

 梅雨が去り、猛暑となって、ビールの季節がきた。今夏は、ノンアルコールビールが空前の売れ行きになりそうという。じつはぼくにとって、ノンアルコールビールは愛飲人生を振り返る上で欠かせないアイテムだった。

 キリンビールは2009年4月に『KIRIN FREE』を発売した。これが引き金となってノンアルコールビール市場が、それまでの4倍以上に急増したという。キリンの『休む日のALC.0.00%』という商品も、ほとんど同じ味で、肝臓にいいとされるオルニチンが400mg含まれている。いかにも<休肝日にどうぞ>という販売戦略が効いている。

 今年の8月に、アサヒとサントリーも新商品を発売するそうで、さらに市場が膨らむのはまちがいない。

 ぼくのノンアルコールビールとの付きあいは、ニューデリーで劇症肝炎にかかったときまでさかのぼる。医師に「半年間はアルコールを避けるように」と指示された。あの劇症肝炎の死ぬ苦しみを思い起こせば、当分酒を飲まない生活などなんでもないように思えた。

 しかし、退院して日数も経ち、体がすっかり回復すると、アルコールのない日々は思ったよりずっとわびしい。美味しいものを口にしても、どこかのホームパーティに出ても、ひとりお茶や水を飲んでいるのは悲しい。

 健康診断でシンガポールへ飛んだとき、ノンアルコールビールを探し歩いてやっと見つけた。飛行機で他の日本食材などといっしょに運ぶのだから、そうたくさんは買い込めない。せいぜい10本ほどを買って空港へ持って行った。

 そのころの日本には、ノンアルコールビールは売っていなかったと思う。アジア随一の国際都市国家シンガポールだからこそあった。

 手間とお金をかけてインドに持ち帰ったノンアルコールビールは、冷蔵庫の奥にしまっておき、週末に親友のプラメシュとゴルフやテニスをしたあとに、1本だけ開けることにしていた。ぼくの宝物だった。

 「ねぇ、本物のビールのほうがずっと美味いよ。もう、肝炎の症状もすっかり直ったし、こっちのを飲んだらどう?」

 プラメシュの甘い言葉に、つい誘惑されそうになるが、ぐっとこらえて代用品を飲んだ。風味や喉越しは本物と大体同じで、酔うことはもちろんないが、それなりに気分だけは味わえた。

 そして日本へ帰り、4年後にドイツへ赴任すると、さすがにビール大国だけあって、ノンアルコールビールも百花繚乱といった感じだった。車を運転するときや休肝日に愛飲した。いずれも、実に良くできており、メーカーごとの味や風味を楽しむことができた。

 そして再び日本に帰ると、郷里の父が肝臓の病気になった。わが家の生活圏を車で探し回り、やっとある酒の激安店で、オーストラリア産ノンアルコールビールを見つけ、父にお見舞いとして24本入りひと箱を送った。

 しかし、そのころのノンアルコールビールは、製法の限界でアルコールが0.00%ではなく、わずかだが含まれていた。父は、「すきっ腹に飲むと、五臓六腑にしみわたって本物のビールが欲しくなる」という。

 皮肉にも、ぼくが贈ったノンアルコールビールがきっかけで、父はまたしても酒類に手を出してしまった。それでも、持って生まれた強靭な体のおかげで、病気を克服し、晩酌をしてもいいほどに回復し、今も健在だ。

 ドイツから帰ったぼくは、あるきっかけで2年、さらにあいだを置いて3年と禁酒生活を送った。そのときにも、ノンアルコールビールにはずいぶんお世話になった。

 こんないきさつがあるから、ノンアルコール飲料についての報道やCMには、人一倍敏感になる。

 朝日新聞の2010年7月16日付け朝刊で「拡大続くノンアルコール市場」という特集が眼に入った。いまやビールだけではなく、カクテルもノンアルコールの時代に突入したのだという。

 記事では、飲酒運転の罰則が強化されたことが、原因としてあげられている。特集の後半に「未成年対応 悩む店」という意図、意味不明の記事が付いているのに引っかかった。

 「アルコールゼロの飲料は20歳以上を想定して開発しているだけに、メーカー側は未成年が買わないように『お酒売り場』で扱うことを求めている。だが法律上は販売を拒否する理由がないため、店頭では販売方法をめぐって戸惑いが広がっている」

 しかし、未成年がノンアルコールビールを飲むことが法律的にはもちろん、道徳的に問題となるわけもない。記事は「未成年飲酒を助長しかねない」としているが、記事にその検証をしたあとはない。大麻がハードドラッグへの入り口となるという説と同様、科学的、統計学的根拠があるとは思えない。

 そもそも、ビールを飲んだことのない未成年が、進んでノンアルコールビールを飲むだろうか?

 いつものことながら、良識ぶってきれいごとを書く新聞は好きになれない。嗜好品なんだから、アルコールが入っていようがいまいが、適当に飲めばいいではないか。

 --毎週木曜日に更新--

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