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就活をめぐる笑えない喜劇を知った

 就職状況は、想像を絶するくらいひどいようだ。先月、東京都内の私立大学で教授をしている友人に会った。その言葉には、正直びっくりした。

 「文部科学省は、この春の大卒の就職率が60.8%だと発表したが、うちの大学じゃとてもそんな数字は出ない。だいたい43%くらいだよ」

 就職できない6割ちかくもの卒業生は、フリーターをして食いつなぐか、時には引きこもってニートになってしまうという。

 言うまでもなく、不況が長引き企業が採用しないのが最大の理由だ。しかし、ぼくは前々からそれはおかしいと思っている。

 たとえば、大卒をひとり採用したとして、40年間は雇用しつづけることになる。いま不況だからといって、雇用のスパンはそれよりはるかに長い。不況で他社が新規採用をしぶっているなら、人材がそれほど余っているわけで、このときこそ磨けば光るダイヤの原石を確保するチャンスではないのか。

 ぼくがニューデリー特派員の任期を終えて東京本社にもどってきた1990年の体験を思い出す。ときはバブル景気の真っ只中で、つまり就職は売り手市場だった。

 そのころ何が行われていたか。ぼくの新聞社では、採用内定を出した学生が他社に取られないよう、現職の中堅・ベテラン社員がマンツーマンで<引き抜かれ防止対策>を担当していた。

 内定学生に、数日に1回は電話を入れてご機嫌をうかがい、ときどきは飲みに誘っていた。飲食費は、もちろん会社の人事部がもつ。

 その事実を知ったぼくは、内定学生のお守り役をしている先輩記者に言った。

 「こんなに景気がよくて、どこの企業も大量採用する時代には、ろくな人材はいないんじゃないですか。こんなときこそ、採用枠をうんと減らして、不況になったら思い切ってたくさん採ればいいのに」

 「それはそうかもしれないが、他社が採ると、じゃ負けじとうちも、となるんだよ」。先輩は自嘲気味にそう言った。

 バブル期に大量採用された社員たちは、案の定出来がいまいちで会社のお荷物になっている、という社内のうわさをずっと後に聞いた。

 もちろん、人材というのは大学や入社試験の成績だけで見極められるものではない。なかには、学歴はそうよくなくても非常に優秀な記者になるケースもある。その原石を見極めるのが、人事部なり面接者の腕ではないのか。

 いまの空前の不況に、思い切った人数を採用している会社は、きっと伸びるだろう。人件費を捻出するのが苦しくても、原石をたくさん確保できれば、会社の資産になる。

 もうひとつ、大学の新卒者しか採用しないというのも、日本の企業文化の悪弊にちがいない。なぜ、新卒にこだわるのか、さっぱりわからない。社風に染めるため、へたに社会経験などないほうがいい、と人事関係者は思い込んでいるのだろうか。

 ぼくがドイツで特派員をしているとき、いろいろな学生アルバイトを使った。ひとりの例外もなく、使えそうな学生は20歳代半ばだった。ドイツの大学生は、在学中に民間企業などでインターンを経験し、海外留学する者もかなり多い。だから、大学は7、8年かけてゆっくり卒業するのが当たり前になっている。その分、社会経験も豊富で、企業にとっては即戦力になる。

 ぼくが大学を出た1976年のころは、いまほどひどくはなかったかもしれないが、かなりの不況で、大手マスコミの採用も「若干名」というところばかりだった。

 しかも、大学の主任教授は「学生は勉学に励むべきだ」と厳しい姿勢で、ゼミを休んで就職活動をするなど許してくれなかった。大学としての就職支援もなかった。

 だからということでもないが、ぼくは卒業時に就職も進学もせず、ある社会福祉施設で非常勤の講師をして食いつないだ。

 幸い、大手の新聞社はどこでも、27、28歳くらいまでなら受けることができる。だからこそ、ぼくもなんとか採用してもらった。同期入社には、もちろん新卒もいるが、それはむしろ少なく、中には「2浪3留」などという猛者もいた。新聞記者など、ばりばりの現役より社会経験や挫折経験があったほうがいい、と会社も知っているのだ。

 一般企業が新卒者にこだわるのはおかしい、とさすがに政府関係者も気づいたのか。2010年8月末、菅直人内閣は「卒業後3年以内の既卒者の正規採用やトライアル雇用(試験的採用)を行う企業に奨励金を出す」とする緊急雇用対策を打ち出した。

 ある大学では、<既卒者>にならないためにあえて留年する学生の授業料を、通常の3分の1に減額するなどしている。企業側もいい加減、「新卒に限る」という悪弊を見直すべきではないか。

 都内の私立大の教授をしている先の友人は「いまじゃ、研究者というのは死語で、実態は就職予備校の講師だよ」と嘆いていた。教授陣や就職課の担当者が椅子を並べて、おなじ学生を何度も模擬面接するのだという。ぼくには、悲劇というより喜劇に思える。

 そんな、マニュアルずれした新卒者など、企業のほうで払いのけるくらいでなくちゃ。

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