有名レストランもバカ社長でこける
「あんな社長の下で、やってられませんよぉ」
そのお嬢さんは、ビールをがぶが飲みし、怪気炎をあげた。友人宅のホームパーティに呼ばれ、座が盛り上がったころに、レストランで主任を勤める娘のW子さんが帰宅した。
W子さんのレストランは、豪壮な作りで、都内でも有名だ。さぞかし儲かっているんじゃないかと話を振ると、「とんでもないですよぉ。経営がめちゃくちゃだから、倒産寸前っていうか、身売り話まで出てるんですぅ」
経営不振の張本人は、たったひとり、バカ社長だという。
「すごく腕のいい料理長がいたんです。現場のことなんてなんにもわかっちゃいない社長があれこれ口を出すものだから、料理長が『調理場のことは任せてください』って直言したんです。料理人のみんなは、内心『やったね』って喜んだんですけど、社長は料理長に『明日から来なくていいから。おまえの代わりなんかいくらでもいるんだ』って逆切れして、はいおしまいですよ」
腕がよくて、大勢の料理人たちをうまく束ねる料理長の代わりが簡単に見つかるわけもなく、翌日から、調理場は大混乱に陥った。
「うちの店は、作りが超一流で立地もいいし、ふつうに商売やっていればお客さんは来てくれるんですよ。それなのにバカ社長が、よせばいいのに張り切って次々といろんな企画を思いつきでやろうとするから、悪循環に陥ったんです」
ホームパーティは、W子さんの独壇場となった。ぼくも、話が面白そうなので、ビールをどんどん勧めて口を滑らかにしてあげた。すると、愚痴が出てくるわ出てくるわ、座は大いに盛り上がった。
「売り上げがじり貧になってあせった社長は、有名なグルメ雑誌に大々的な企画広告を出すことにしたんです。メインのお客の役はプロのモデルさんに頼み、その他の客は店の従業員がエキストラをすることになったんです。しかも、このくそ暑いのに、中庭のテーブル席を使うって社長が言い出して譲らないんです」
モデルさんも従業員も汗だくで、写真撮影に臨んだ。しかし、広告では涼しそうな屋外テーブル席の雰囲気を出さなきゃならない。汗を必死でふきとり、なごやかな食事風景を演出した。
しかし、肝心の社長は撮影現場に姿を現さない。なにをやっているのかと思ったら、調理場でカレーライス作りに奮闘しているのだという! 社長はプロの料理人ではなく、素人の下手の横好きで、カレーを作って人に食べさせるのが趣味だった。
やっと午前の撮影が終わり、一同がレストランへ入ると、すでに盛り付けたカレーライスがテーブルにずらっと並んでいた。カレーの上には、コロッケとソーセージも乗っている。みんな、それを見て呆然とした。
猛暑でふらふらになっているから、冷麺でも食べたいところなのに、社長がわざわざ作ったものを残すわけにもいかない。マネージャーなど、「死にそうだよ」と言いながら、「おいしいですねぇ。お代わりいただきます」とごまをすって無理やり食べていた。
だいたい、なんでそんな無能な人が社長になれたのか。
「社長はもともと出入りの業者だったんです。レストランの先代経営者には一人娘しかいなくて、その人が支配人をやっていたそうですが、若き社長が惚れちゃって、支配人に告白したらしいんです。そのころ社長はものすごく太っていたから、支配人は半ばからかうつもりで『スマートになったら、結婚してあげてもいい』と言ったそうです」
社長は、猛然とダイエットを始め、すっかりスマートになってプロポーズをした。支配人も今さら断れなくなって、他に婿養子になってくれる男性もいなかったから、それを受け入れて社長にした、という。
だが、社長のバカさかげんは半端じゃなかった。食材を卸す出入りの業者に「どうやれば経営がうまくいくかなぁ」と質問してメモを取る。だが、そのメモを実行に移したことはない。それどころか、前に質問したことをすっかり忘れ、同じ業者に何度も同じことを聞いてメモを取るのだそうだ。
あるとき、各店や企業が対抗する消防隊の訓練試合があり、よせばいいのに社長も参加した。しかし、ホースに引っかかってころぶなどあまりのドジぶりに、消防署の幹部は「あの人、社長に言って首にしたほうがいいんじゃないですか」と言った。そこで、レストラン消防隊のひとりは答えた。「あれがうちの社長なんです」。嗚呼!
最近、レストランの買収話が持ち上がり、従業員たちは小躍りした。しかし、今の経営陣がそのまま残るのが条件とわかって、みんなしょぼんとなってしまった。
どんな組織でも、大将の良し悪しで力が決まる。あの東京ヤクルトスワローズだって、借金が19もあったのに、監督が交代したら3か月足らずで、勝率5割に復帰した。
どこかの国の民主党は、円高、株安の国難というのに、代表選挙などと言って空騒ぎしている。国の大将が、こうも軽く選ばれる国民は悲しい。
W子さんは嘆く。「スワローズがうらやましいゎ。うちだってトップが変われば高級レストランとして余裕でやっていけるはずなのに」
--毎週木曜日に更新--
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