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チレはチレでも美味いチレ

 ぼくたちは、祖国のことをふつう日本語で「日本」と呼ぶ。チリのひとたちは、チリ語で「チレ」と呼ぶのだという。

 そのチレを心から誇りに思ったチレ人もたくさんいたことだろう。鉱山の落盤事故で地下約700メートルに閉じ込められた33人は、全員無事70日ぶりに救出された。

 自分たちが生きていることが地上に伝わるまで、実に17日もかかった。その間、どんな心理で頑張ったのだろう。

 伝えられるところによると、チレの国民性は冷静沈着で、忍耐力、結束力があるという。もちろん、作業員それぞれは性格も考え方もちがい、最初はまとまるのも難しかったが、次第に結びつきが強まるようになっていった。

 わずかの食料をルールを決めて分け合い、3班編成にして交代で警戒、休息、睡眠をとっていたそうだ。

 なかなかできることじゃない。国民性が命の危機に際して、最大限に発揮された。

 ふと、岡田JAPANを思う。サッカーW杯の直前、絶不調で4連敗し危機に陥ったが、本番までに一体感を高め、アウェイでベスト16という最高の結果を出した。

 チレ人にも日本人と同じようにサムライの血にも似たものが流れているのかもしれない。だから、世界中の人びとを感動させた。

 さて、話は卑小になるが、チレはチレでも、食べるほうのチレについて書いてみたい。

 ホルモンや肉類の刺身に目がないぼくは、あるとき、先輩ジャーナリストに秘中の秘の店をおしえてもらった。それから数年、ついにその隠れた名店へ行く機会が生まれた。

 新宿1丁目にその店はある。JR新宿駅から、ぼくは歩いて新宿御苑方向へ歩いていった。ちょっと下町のような一帯に、さりげなく赤ちょうちんを掲げている。

 6、7人かけられるカウンターと4人用のテーブルがふたつ、奥には12~13人で一杯になる座敷があるだけの小さな店だった。時間が早かったので、客はほとんどいなかったが、席はすべて予約済みという。それでも「1時間半だけならいいですよ」と言われた。予約の電話は鳴り止まない。繁華街でもないこんな場所で、これだけ流行っているとは。

 テーブルの上にコンロが置かれているわけではなく、焼肉屋ではない。それでも、カウンターの上や壁には、びっしりと肉・ホルモン類の値段表が張られている。

 マッコリの「虎」というのをボトルで頼んだ。なんでも高麗時代(918~1392年)の製法を守った伝統の酒といい、米のみを原料とし添加物はいっさい使わず、辛口だ。

 この店に来たからには、これを頼まなければ意味がないという刺身盛り合わせの「小」を注文した。

 ガツ、レバー、センマイ、チレ、ミノ、タン、ハラミの七種類がきれいに盛り付けられている。それで1500円というから、その安さは特筆に値する。

 今ではほとんどの焼肉店にレバ刺しがあり、はまるひとははまる。ひと口食べれば鮮度がすぐわかる一品だ。

 センマイは牛の4つある胃のうちの3つ目で、ひだがビラビラと千枚も重なっているような印象を持つことから、この名がついたそうだ。これの刺身も、近年はポピュラーになってきた。見た目はちょっとグロいが、こりこりと歯ざわりがいい。

 ミノは第一の胃で、焼肉のなかではもっともこりこりしていて、ぼくのお気に入りだ。でも、刺身で食べるのは初めてだった。

 ガツは豚の胃の俗称で、軽く湯通ししてあるかもしれない。これも鮮度が良くないと、独特の臭いがして、ちっとも美味くない。

 ハラミは、牛の横隔膜のことだ。カルビほどに脂こってりではないが、適当なサシが入っており、軽く焼いて食べるとうまい。その刺身も初体験だった。

 タンはお馴染みの牛の舌だ。すっかり名物となった仙台では、戦後、進駐軍のアメリカ兵が食べないゲテモノの舌を、なんとか食べられないかと工夫して、炒めたり焼肉の食材としたりしたといわれる。そのタンの刺身は、2、3度目の経験だった。

 さて、チリがオオトリに控える。その部位を聞くと、脾臓(ひぞう)だという。脾臓と聞けば、子どものころに読んだ武道マンガの「3年殺し」という技を思い出す。本当にそんな物騒な技があるのかどうかは知らないが、脾臓にある強度で蹴りを入れると、3年後にぽっくり死ぬというのだ。

 ぼくは、チリの刺身を口にして舌が“即死”した(笑)。ややもっちりとし、歯ざわりもいい。絶品という言葉しか思い浮かばない。

 食べなれたレバーやセンマイは当然として、7種すべて鮮度が抜群にいい。こんな生肉を仕入れるルートは、よほど特殊なのだろう。でなければ、他の星の数ほど増えている焼肉屋でも口にすることができるはずだから。

 41歳という2代目マスターが、フライパンを振って炒めてくれるシビレ、コブクロなどもすてがたい。でも、この店の王様は特製サラダかもしれない。ドレッシングには、醤油、砂糖、酢、ごま油、胡椒、それと少量の塩が入っていると読んだ。

 チリ万歳! チレ万歳!

 --毎週木曜日に更新--

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