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1泊2食109円! の家族忘年合宿はアリか

 愛車は東名高速を快調に飛ばし、御殿場ICを下りて箱根方面へ向かった。「この乙女峠から仙石原にいたる付近には、埋蔵金伝説があるんだよ」。車内は一気に盛り上がった。時代劇の悪役で知られる徳川幕府の金山奉行・大久保石見守が、佐渡金山や石見銀山で発掘し幕府に納める金銀の一部をくすねて埋めたという。キーワードは<黒つつじ>とされるのだが、果たしてどこに――。

 師走の××日、ぼくは入念な仕事の打ち合わせをして、そのまま忘年会に突入するはずだった。それが突然延期になった。そこへ1本の広告メールが届いた。いつもなら読みもせずに削除するが、ちょっと目を引くタイトルだった。「1泊2食109円~」

 ほんとかよ。R社の箱根、京都、伊豆、軽井沢などの人気リゾート施設に、1日20組限定で体験宿泊できるのだそうだ。ぼくのスケジュールがぽっかり空いたので、かみさんに相談すると「いくいく!」。彼女もその日はちょうど休みだった。

 「だめもとで、子どもたちにも電話してみようか」。都合を聞くと、たまたまふたりとも連休だという。シフト勤務だから年に1度くらいは家族の休みが一致することがある。「ちょうどその夜は、ふたご座流星群がピークだそうだからばっちり見られるかもよ」。こどもたちは、それに食いついた。

 R社に電話を入れると、すぐに予約が取れた。師も走る時節だからだろう。

 指定のリゾート施設は、仙石原高原にある。枯れ草の野原をゆっくり進んでいくと看板があってすぐにわかった。担当の営業マンが部屋へ案内してくれた。

 「福西さんにそっくりだね」と息子がささやく。サッカー元日本代表MFで解説者の福西崇史さん(34)のことだ。つまり、かなりのイケメンでもある。

 通された部屋は、3LDKに本格的ジャグジールームもついていた。聞くと100㎡あり、箪笥などはないから相当ゆったりしている。一休みしてから、「リゾートクラブのご説明」がある。それに90分間つきあうのが、宿泊の条件だった。

 「ま、子どもたちは同席しなくていいんじゃない」。息子は温泉大浴場に入ったあと、周辺を一眼レフで撮影しにいくという。娘は、ベッドルームのドアを閉めて昼寝をした。

 まず、R社のシステムと施設紹介のビデオを30分間見なければならない。たいくつで眠くなったころ、福西さん風が立て板に水でセールストークを始めようとした。

 「ちょっと待って。こっちの個人情報は御社のアンケートで開示しているわけだから、あなたの情報も教えてください」

 年はいくつ? どこに住んでいるの? ノルマはどれくらい? 社歴は? それで年収は?……。カウンターアタックを繰り出すと、福西さん風は出鼻をくじかれてリズムを狂わせた。サッカーに限らず、真剣試合はこうやらなくちゃいけない。

 「当社は2004年に設立しまして、現在12の施設があります。キャッチフレーズは“日本をまるごと別荘に”でして、車1台分のコストで高級コンドミニアムを利用できる会員になれます。ペットや飲食物の持ち込みは自由です」

 まあ、いちおう熱心に聞くふりをしておいて、肝心のコストを尋ねた。施設利用はポイント制で、当然ながら盆正月、週末や連休はポイントが高い。1年に平日8泊利用するとして、試算してもらった。

 「それですと、入会金が260万円、会員登録料が10万円、年会費は毎年8万円ずつですから、当初費用は286万円ほどになります」

 素泊まりの値段だから、実際には食材費や清掃費がかかる。調理の手間などを考えると、ホテルや旅館に泊まったほうがはるかによくはないか。「ご説明」は60分で終わった。「何しろ109円でご提供していますので、夕食はあまり期待しないでください」

 部屋に運ばれてきた夕食は和風御膳で、ハードルを下げられていた分、結構いける。食後、娘が「ねぇ、みんなでカラオケに行こうよ」と携帯電話で探すと、箱根に1軒だけあるという。真っ暗な山道を探し探しいったが、ついに見つからなかった。曇っていて星も見えない。

 あきらめて引き返し、持参の牌で麻雀をすることにした。リビングのテーブルはたまたま正方形でうまくできている。ぼくは、忘年合宿だから、とトップ賞の金一封を用意していた。抜きつ抜かれつの展開から、オーラスで息子が上がり賞金をゲットした。

 睡眠時間が極端に少なく“信州のナポレオン”の異名を持つかみさんは、午前2時に廊下の窓から、ふたご座流星群をばっちり見たという。

 翌朝、子どもたちは「なんで起こしてくれなかったの。そのためにきたのに」。福西さん風が、入会するかしないか決断を聞きにきた。「会員にはなりません」。てっきり成約を取れると思っていたようで、ぼくの言葉に顔が引きつった。

 「ご家族の集いのきっかけを提供するのが、当社のモットーですが」。でも、こんな退屈な山中施設のリピーターにはなれない。2回目からはわくわく感もないし。妻子も「こんなマンションなら、家にいるのと同じじゃない。旅行のほうがいい」」と言った。

 「ところで、なぜ109円なんですか?」。「はあ、10+9でトクです」。徳川の埋蔵金探しより、宿泊体験のほうが確実にトクではあったが。

 --毎週木曜日に更新--

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