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アナーキストでなにが悪い

 2010年の世界を振りかえると、もっとも重大なニュースはウィキリークス事件ではないか。後世の歴史家は「あの事件が世界史の分水嶺だった」とつづるかもしれない。

 日本の国民のあいだではいまひとつ関心が低いようだが、世界ではすごいことが起きている。「情報をめぐる世界大戦」だと呼ぶ人さえいる。

 インターネットを駆使し、内部告発や情報提供を求め、それをチェックした上で公開する。誰でも考えつきそうなことで、実はぼくも、2001年に日本初の有料ウェブマガジン『RABタイムリー』を創刊したとき、それを究極の目標にしていた。しかし当時は、まだインターネットの普及率も低く、有料コンテンツなどほとんどなかった。それもあって事業はうまく行かなかったが、方向性としてはまちがっていなかった、と自負している。ウィキリークスなる破壊力抜群のサイトが登場して、その意を強くした。

 ウィキリークスは、2006年に創設されちょこちょこと国際社会を騒がせてきたが、「世界大戦」の火蓋を切って落としたのは2010年11月末だった。約25万件にものぼるアメリカ外交公電を入手し、それを小出しにしてアメリカ外交の内実を暴露し始めた。アメリカや同盟国の当局者はたまったものじゃない。

 アメリカ議会は、ウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジ氏(39)を「ハイテク・テロリスト」と呼んだ。「非国民」という声が上がったのには笑わせられた。アサンジ氏はオーストラリア人だから、もともと非国民なのだ。「スパイとして軍事法廷にかけるべきだ」という強硬意見も聞かれる。ロシア政府は「アサンジにノーベル平和賞を」と提案し、自称「言論・報道の自由の国」を皮肉っている。

 アサンジ氏は、旅芸人の両親の影響で反権力思想に傾倒し、16歳のころから天才ハッカーとして大手のネットワークに侵入した経歴を持つ。だからか、アメリカでは「アナーキスト」と非難する者もいる。つまり、無政府主義者だというわけだ。アナーキストにもいろいろいて、本当のテロリストも少なくないが、アサンジ氏は、合法的にというか盲点を突いて、ドン・キホーテのように超大国に立ち向かっている。

 ぼくはウィキリークスのことが日本でも少しずつ報道され始めた4月ごろから、誰がこの画期的なサイトに援護射撃をするか注目していた。

 アサンジ氏は、スウェーデンでふたりの女性を「強姦」したとして滞在中のイギリスで逮捕された。アノ最中にコンドームがはずれた、女性がコンドームをつけてするよう求めたのにつけなかった、というあきれる容疑だ。それでも、かの国では微罪になるらしい。

 公電の暴露そのものでは罪に問えないということを意味する。イラク戦争の告発ドキュメンタリーで知られるマイケル・ムーア監督が保釈金を出し、保釈された。「ウィキリークスがあればイラク開戦はなかったかもしれない」と監督は言う。かつて機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」をニューヨークタイムズにリークしたダニエル・エルズバーグ博士もアサンジ支持を表明した。

 世界のネットユーザーの多くとかなりの割合の報道機関も支持しているようだ。約400人のハッカーがサイト運営に協力し、「アノニマス」と名乗るゆるやかなハッカー集団が、当局からの圧力を受けてウィキリークスとの提携を断ち切ったアマゾン社などに、のべ数千件のサイバー攻撃をしかけている。

 ぼくは外交公電の暴露と聞いて、ボン特派員時代に知り合ったアメリカ大使館の通信技官のことを思い出した。技官は、1994年のクリスマスにぼくの家族を自宅に招待し、巨大な七面鳥を自分で焼いてご馳走してくれた。

 その彼が、通信技官になるための採用テストについてこっそり教えてくれた。アメリカ人の外交官が作成した公電を暗号化して国務省に送る職務だから、当然、内容に触れることになる。中身が絶対に漏れないよう、テストでは個人の人格や交友関係、家族、親族などの実情についても徹底的にチェックされる。

 そこまではぼくも想像していたが、それから先がすごかった。1週間の泊り込みテストがあり、寝言で情報をもらしたりしないかを試されるのだという。夫婦の寝物語で秘密を漏らしてはならないのはもちろん、寝言さえ言ってはいけないのだ。その代わり待遇は破格で、夫婦と子ども4人で400㎡(!)の官舎が与えられていた。

 そこまでしてガードが固められている公電の山が、いとも簡単に、当局共有サイトからダウンロードされ、ウィキリークスに持ち込まれた。陸軍上等兵(23)の行為とされる。

 ジャーナリストの上杉隆氏は、この事件が「現在のパックス・アメリカーナともいうべき世界秩序の崩壊を意味する」と書いている。しかし、もっと高いところから俯瞰すれば、大アメリカ帝国の覇権の終わりというだけにとどまらない。ウィキリークス事件が示しているのは、「このインターネット時代にあって、どんな機関のどんな情報もときによってはだだ漏れする」という現実ではないか。寝言をチェックして済む話ではない。

 第2、第3のウィキリークスは次々と現れるはずだ。日本でも、そういうサイトが出てきて欲しい。アナーキストと呼ばれれば、それはそれでいいではないか。

 アサンジ氏、早くUFOがらみの情報を暴露して。そうすれば、援軍も世界中でぐっと増えるだろう。

 --毎週木曜日に更新--

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