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沈滞ニッポンに元気の出るエールを

 「失われた30年」という見出しをみて、おいおい、いい加減にしてくれよ、と思った。2010年12月10日、朝日新聞の朝刊株式欄の下にある小さなコラムだった。バブル崩壊からこれまでの日本経済を「失われた20年」と呼ぶ。それはまあしかたがない現実だが、さらに10年もこの状態がつづくというのか。

 「政府も民間も、自らリスクをとることなく、他者や将来世代の負担・犠牲の下で、現在の自らの利益を守ろうとしている」。政府も企業も個人も現状を拒否しそれを変える大きな戦略を持ち、自らできることを地道にやりつづけなければ、日本は失われた30年になってしまう、とコラムは指摘する。

 その通りだとしても、見出しがあまりにネガティブではないか。メディアの伝えるそういう負の観念が、知らず知らずのうちニッポン人に刷り込まれていく。

 シンガポールのリー・クアンユー公共政策大学院長で、元国連大使のキショール・マブバニ氏は、来日して2日間滞在しただけで、日本を覆う悲観的な空気に驚いたという。「平和で安定した社会と、素晴らしい文化。アジアの繁栄という大きな波に乗る準備が最も整っているのは日本だ」とエールをくれた。

 この列島の人びとには、世界を冷静に大局的にみる意識があまりにも欠けている。ぼくがベルリンに駐在しているとき、東京から労働界のトップがやってきて、「日本は小国ですからねぇ」と嘆いた。

 日本のどこが小国なのか。その人は、どうやら日本中心の世界地図にだまされて、祖国を矮小化して考えているらしかった。ぼくは<日本大国論>をぶった。

 たしかに、日本でふつうにみる地図では、北にロシアと中国、東にアメリカ、南にオーストラリアとたまたま大きな国に囲まれている。でも、子どもたちの教育用にわが家の廊下にあえて掲げてきた、ヨーロッパ中心の世界地図をながめればどうか。

 日本は堂々とした大国だ。ヨーロッパ随一の国ドイツと面積では互角であり、人口でも国家予算、GDPでも1.5倍だ。防衛力も、楽々世界の10指に入る。

 海外視察というのは、外国事情を肌で感じ、いいところは参考にすると同時に、祖国の国際社会での立ち位置をたしかめる機会のはずだ。正当な自国評価ができず真の国際感覚がない人には、トップになって欲しくない。

 あるドイツ人歴史家は、戦争責任と現代ドイツ社会について取材しているぼくに、こんなことを言った。「ドイツには、コップにまだ半分も水が残っている、という考え方があります。コップの水が半分に減ってしまっている、と考えるよりずっと前向きでしょ」

 英国ケンブリッジ大学の「奇才」とも「鬼才」とも呼ばれ、ノーベル経済学賞にもっとも近い男とされるハジュン・チャン准教授は、邦題『世界経済を破綻させる23の嘘』で、日本をとても肯定的に評価している。一般に「日本には起業家精神がない」とされるなか、チャン氏は「終身雇用の下で全従業員に発案させ、起業家精神を組織化させている」とし、「経済学の特定の流派を過信せず、経済政策を経済学者ではなく、法学や工学の分野出身の官僚が担っている」点に注目する。

 持ち上げすぎかもしれない。でも、チャン氏が、なにかと言えば反日に傾きがちな韓国人である点が面白い。ぼくたちは、コップにはまだ半分も水が残っている、と楽天的になればいいのだ。

 週刊現代は、2010年11月以降、“日本の応援歌”を相次いで特集している。いわく「円高も中国も怖くない 本当は凄い日本の底力」とタイトルでぶちあげる。

 「10月25日に中国政府直属のシンクタンク『中国社会科学院』が発表した報告書で、日本の国際競争力はアメリカ、EUに次ぐ世界第3位とされた。中国は17位。報告書は日本について『アジアでは絶対的なトップの地位を保っている』と記している」

 この特集記事では、資源小国と思われがちな日本が、たとえば海水からウランを抽出する技術で抜きん出ていることを紹介する。黒潮が毎年日本に運んでくるウランは、国内の全原発で消費する量の600年分以上だという!

 筑波大学の研究チームは、12月14日、化石燃料の重油に相当する炭化水素を作り、細胞内にため込む性質がある藻類を沖縄で発見し特許申請した、と国際会議で発表した。従来知られていた藻類より10倍も石油の生産能力が高い。「国内に約2万㌶の生産施設を作れば日本が石油を輸入する必要はなくなる」とし、「車の燃料として1㍑50円以下で供給できる」と試算している。こんな画期的発見をメディアがあまり伝えないのはなぜか。

 「平和で安定した社会と、素晴らしい文化」というシンガポール人識者の声に、自信を持って耳を傾ければいい。1985年、神戸でユニバーシアード大会が開かれたとき、ぼくは会場間を走るシャトルバスでカナダの選手団と乗り合わせた。彼らは、街中に自動販売機がたくさんあるのに感嘆していた。「カナダだったらすぐに壊されて中のお金を盗まれるだろうに、日本ってなんて平和な国なんでしょう」と言った。自販機はその後、増えることはあっても減ることはない。さりげない景観にも、日本の国力が表れているのだ。

 半面、平和ボケがボケ政治家を量産してきた。でも、日本と日本人の底力を信じて、楽観的にいけばいい。まちがっても、失われた30年、などという見出しを使ってはいけない。

 --毎週木曜日に更新--

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