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<絆>をめぐり、母は跳ぶ

 2011年の年頭にあたり、天皇陛下は「家族や社会の絆を大切に」というメッセージを発表された。ここ数年、<絆>という言葉が日本社会のキーワードになっている。

 朝日新聞は、年をまたいで、『孤族の国』という連載をつづけている。家族も友だちも恋人もいながら本当に話したいことを話せず、10分1000円の有料電話サービスで面識のない人に話を聞いてもらう青年のエピソードなどを紹介し、今の社会のありようをつづっている。「孤族」という造語は、絆を失いつつある人たちを示しているのだろう。

 ぼくの家族にとっても、この3年、絆という言葉はキーワードとなってきた。

 「NHKのテレビで『私の絆』の投稿を読んでくれたよ!」。2010年12月28日夕刻、郷里・出雲の母からはずんだ声の電話がかかってきた。NHK松江放送局は、「私の絆」というテーマで投稿を募集していたそうだ。かつて板東英二さんのラジオ番組に電話出演し長々としゃべったこともある母は、好奇心が強く何にでも挑戦したがる。

 「私の絆」の原稿を便箋に書き、年末のくそ忙しいときにぼくのところへファクスしてきて、手直しをしてくれと言う。

 ぼくは、2008年、父の短歌と母の俳句、書を編集して『おもひで絆』という本にした。タイトルは母が「うちは子どもや孫が遠くにいるから絆を大切に」とつけた。

 1922年(大正11年)生まれの父は、誰かの姓名の字を短歌に盛り込んで詠む特技があった。それを自分では「名字歌(なじか)」と呼んでいた。例えば、1959年(昭和34年)の皇太子ご成婚に際しては6首を作り、美智子妃殿下の実家に送ってご母堂からお礼の葉書をもらった。

  明るくて 仁義しもあれ 貞節に 睦びて国の 平和成しとぐ
  昭く和し 仁に厚くば 貴き身に 成るとも正に 裕かにて良し

 この2首には、裕仁、良子両陛下、明仁、正仁両殿下、成子、和子、厚子、貴子各内親王の計8人の字が織り込まれている。

 1929年(昭和4年)生まれの母は、40代半ばから俳句と書道を始め、西中国俳句大会で特選になったこともある。パーキンソン病に苦しむ姉の介助を詠んだ。

  虫の夜の 口述筆記 はかどらず

 母は、書道師範の免状ももらった。

 ぼくは2010年、両親にロングインタヴューし家族の歴史を『続・おもひで絆』という一冊にまとめた。タイトルはいろいろ考えたが、絆という言葉をもう一度使ったほうがいいだろうと思った。

 そのいきがかり上、「私の絆」の投稿原稿もささっと手を入れてファクスで送り返した。

 12月28日の放送日、母は家事を早々に片付けてテレビの前に座った。地域情報番組『しまねっと』の年末スペシャルだった。

 番組では、まず、地元の1年のニュースを振り返った。最年少で将棋の女流三冠を勝ち取った里見香奈さん(18)、日本テニス界のプリンス錦織圭選手(21)、幕内力士の隠岐の海関(25)の活躍が紹介された。つづいて、自伝『ゲゲゲの女房』で知られる武良布枝さんの、島根県安来市の実家から中継された。

 そして、視聴者からの「私の絆」の投稿をスタジオで女性キャスターが読む段にいたった。母が固唾を呑んで観ていると、2番目に母の投稿が読まれたのだった。やった!!

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    私の絆(投稿)

 平成二十年十一月、私たち夫婦は結婚六十年のダイヤモンド婚を迎えました。それを機に身の回りを振り返ってみようと思い、主人が書き溜めていた短歌、私の俳句と書を整理して本を作りました。

 子や孫たちはほとんど県外にいて離れています。短歌や俳句は家族を詠んだものも多く、本の題は『おもひで絆』としました。家族が少しでもつながっていることを望んでつけました。

 子や孫たちはもちろん、教師をしていた主人の知人や教え子、私たちの兄妹、私の句友、書道仲間の人たちに届けました。それらの方々との関係も、私たち夫婦にとっては大切な絆です。

 その後、息子が「家族の歴史を本にまとめておきたい」と申し出、私たち夫婦に長時間の聞き取りをし、生い立ちから戦争体験、現在に至るまでを本にしてくれました。この二十二年秋に完成したその本の題名は『続・おもひで絆』としました。最初の本の続編、完結編です。

 木佐家や私の実家の系譜、私たち夫婦の親兄妹のことなども書かれているので、本が一族の絆を確かめました。親戚の方たちからも喜んでもらえたのが何よりと思っています。

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 --毎週木曜日に更新--

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