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海は死にますか 山は死にますか

 ♪おしえてください この世に生きとし生けるものの
  すべての生命に  限りがあるのならば
  海は死にますか  山は死にますか
  風はどうですか  空もそうですか

 この『防人の詩』は、日露戦争の激戦を描いた1980年の映画『二百三高地』の主題歌として、さだまさしさんによって作られた。

 ぼくの祖父も、陸軍士官学校出身の職業軍人で、二百三高地の戦いに参加し、三日三晩泥沼の中で立ち尽くして戦った経験を持っていた。そのため体を壊し、若くして病死した。

 映画では、ロシア文学を学んでいたあおい輝彦さん演じる小学校教師が召集され、小隊長(少尉)として戦う一方で、ロシア国民との友好を願う。しかし戦場は苛酷で、やがてロシア兵を心の底から憎むまでに変貌する。そして――。

 ぼくの実家に残る軍の礼服は、スクリーンで小隊長が着ているものとまったく同じで、映画を単なるフィクションとしては観られなかった。祖父は、戦後、国家から勲章ももらったが、父に「職業軍人にだけはなるな」と言い残して逝ったという。

 映画は、日本が勝った戦いを扱っているため、戦争を肯定する作品だという誤解が公開前から広まっていた。予告編などで『防人の詩』も戦闘の悲壮感を盛り上げるように使われ、戦争を感傷的に美化する歌と受け止める人たちもいた。

 さだまさしさんは「右翼だ」と批判された。しかし、歌詞をよく聴き映画をじっくり観れば、戦争の悲惨さと命の尊さ、儚さを描いたものであることはすぐにわかる。この映画が物議をかもした背景には、第2次大戦後の日本社会独特の風潮、つまり戦争アレルギーがあった。

 ♪海は死にますか  山は死にますか

 映画を観たぼくには、この言葉が深く胸に残った。人は死ぬが、海や山が死ぬことはあるのだろうか。その答えらしきものを、2010年秋の読書で知った。

 『宇宙は何でできているのか』(村山斉著、幻冬舎新書)という本だ。新聞の広告で知り、すぐに買った。2011年1月の時点で、すでに25万部のベストセラーになっているという。

 ぼくは高校時代、数学や物理を得意とし理数科で学んでいた。その1970年前後、級友のあいだでは理論物理学をベースとした宇宙論が流行った。ぼくも講談社ブルーバックス・シリーズで、アインシュタインの相対性理論や4次元、素粒子、統一理論などについて読みふけった。

 エネルギーは質量に光の速度の2乗をかけたものに等しい、というアインシュタインの有名な公式や、宇宙には「同時」という概念はない、光や空間は質量によって曲がる、などという話に心をときめかせた。

 だから、『宇宙は何でできているのか』という作品を手にとったとき、あれから40年経って物理学と宇宙論はどう変わったかを知りたくて一気に読んだ。

 宇宙の誕生についてはビッグバン(大爆発)理論がすっかり定着したようだ。1946年にこの理論の基礎となるモデルが発表され、65年には予測とぴたり当てはまる<ビッグバンの残り火>が発見された。最新学説で、宇宙は137億年前にできたとされているという。

 しかし、高校生のぼくたちが読んでいた一般向けの本には、まだビッグバン理論は紹介されていなかったように記憶している。

 宇宙創生は明らかになっても、それなら宇宙の終わりはどうなのか、が知りたくなる。われらが地球は太陽系にあり、太陽系は天の川銀河に属している。その天の川銀河は、45億年後にアンドロメダ銀河と衝突するという。

 地球の終わりはそれより前か、その衝突のときか。そして海や山が死ぬのだろうか。

 個々の星は寿命を終えると爆発し、それによってばらまかれた物質でまた次の星が生まれるのだという。この「超新星爆発」は万物流転、あるいは生きとし生けるものの輪廻転生を思わせる。「つまり、私たちの体は『星くず』でできているのです」と著者は書く。

 宇宙の73%は、まだ正体の解明されない「暗黒エネルギー」と呼ばれるものでできている。それが増えると宇宙の膨張が加速度を増し、やがてスピードが無限大に達する。それをビッグリップ(大引き裂き)と呼ぶという。

 「それは一体、何を意味しているのか。私自身もよくわからないのですが、『宇宙が終わる』のだとしか思えません」

 宇宙は死ぬ、というのだ。『防人の詩』の歌詞は、『万葉集』第16巻第3852番に基づいているそうだ。

  鯨魚(いさな)取り海や死にする山や死にする死ぬれこそ海は潮干て山は枯れすれ(大意:海は死にますか 山は死にますか。死にます。死ぬからこそ潮は引き、山は枯れるのです。

 7世紀後半から8世紀後半ころにかけて編まれた万葉集は、すでに21世紀の宇宙論を先取りしていたようだった。

 --毎週木曜日に更新--

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