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計画停電で信号が眠った日に

 青空を背景に、赤、青、黄の光がない“眠る信号機”がポツンと立っている。不安感を抱くほどではないが、なんとなく落ち着かない。

 東日本を襲った2011年3月11日の巨大地震をうけ、その3日後からまず関東で、つづいて東北でも計画停電が実施されている。初日こそ首都圏の電車などが大混乱したが、その後は少しずつおさまっている。

 数1000万の人口を抱える広域圏で、計画的に停電を行える国が世界にどれだけあるだろう。21か国・地域を訪れたぼくの知るかぎり、できるとすれば国民性が日本に近いドイツくらいか。テレビのインタヴューを受けたニューヨーク在住のインド人男性は語っていた。「もし、アメリカや祖国のインドで実施すれば大騒ぎになるでしょう」

 しかし、そのインドでは、炎暑がピークとなる4~6月には停電など珍しくもない。ぼくがニューデリー特派員をしていたふた昔前、冷房設備が急速に普及する一方、電力供給はまったく追いついていなかった。ある日突然、ぽっと電気が止まる。それが何時間、何10時間つづくかもわからない。

 そのころ、ニューデリーで“眠る信号機”を見上げた記憶はない。炎熱のなかで、ぼくにはそんな悠長なことをしている余裕はなかったのだろう。

 インドは、いまや世界の新興国となったが、電力事情は変わらない。そこで政府は原子力発電所を一気に増やそうとしている。日本は<世界一安全な原発システム>を売り込もうとしていたが、その野望も東京電力福島第1原発の重大事故でふっとんだ。

 計画停電下、無信号で大きな交差点を渡るのは、正直言ってちょっと怖い。いつも聴いているポケットラジオのイヤホンをはずし、慎重に右を見て左を見てもう一度右を確認することになる。

 その緊張感から、ぼくは31歳のとき初めて海外出張したフィリピンを思い出した。一番戸惑ったのは言葉の壁でも食事のクオリティでもなく、道路を渡ることだった。車は右側通行で、まず左から見なければならない。その上、信号にはあまり関係なく、車はがんがん突っ込んでくる。慣れないうちは、怖くて最初の一歩が踏み出せなかった。

 「ドアに注意」「前の方につづいてください」「痴漢は犯罪です」

 日本でなら、当たり前のことでもいちいち注意書きがあったりアナウンスがあったりする。赤信号なら、まず、車は止まってくれる。

 フィリピンの国道を渡ろうとして渡れず、ああ日本人には動物本能が欠けているなぁ、と思ったものだ。これも平和ぼけの一種か、と。

 計画停電が導入されたいま、ウォーキングしながら観察していると、欠けていた動物本能が人びとのあいだで少しずつ蘇っているように見える。交差点ではみんなの表情が引き締まる。電気が回復し信号が点ったとき、赤信号でも左右を確認して渡る人が明らかに増えた。

 ぼくはフィリピンから帰り、日常的に動物本能をきたえるため、密かにキャッチフレーズを作った。

 <赤信号は歩いて渡ろう>

 日本の学校で、小学生からそれを実践させてはどうだろう。そうすれば、もっと緊張感のある日々を送れるのではないか。もっとも、被災地の多くでは、信号機そのものも大津波でさらわれてしまったかもしれないが。

 さて、巨大地震が起こって以来、ぼくは、だれがサムライでだれが非サムライかをウォッチしつづけている。

 サムライはたくさんいた。必死の救命、救援活動をする自衛隊員や消防士、消防団員、原発現場の東電技術者・作業員などは頼もしく頭が下がる。放射能のなかを闘った東京消防庁ハイパーレスキュー隊の石井泰弘隊長(47)は、サムライそのものの風格だった。

 わが郷里・島根県から原発事故の現場へ馳せ参じた男性(59)のニュースもあった。恐らく島根原発の技術者だろう。定年を半年後に控えながら、「今の対応で原発の未来が変わる。使命感を持って行きたい」と家族に告げ、志願して行った。その娘は、家ではあまり話さず頼りなく感じることもある父を誇りに思い、涙が出そうになったという。そういうサムライ技術者は、全国でかなりの数にのぼるだろう。

 わが息子も、職場で真っ先に志願し、4月、福祉のプロとして東北へ向かう。

 非サムライにもこと欠かない。この国難にあってこりもせずパフォーマンスに走る菅直人首相、「すぐに放水しなければ処分する」と現場のハイパーレスキュー隊を恫喝した海江田万里経済産業相はひどい。東電幹部はあまりにおそまつで、プロ野球開幕日程やナイター自粛問題でのナベツネはリビアの独裁者カダフィを思わせる。原発事故でマッチポンプ報道をするマスメディアもいい加減にして欲しい。

 とはいえ、計画停電さえできるわれわれは、必ず祖国を復興できる。サッカー日本代表監督は、イタリア紙に日本人の美徳として6つの言葉をあげていた。義務感、犠牲心、品格、秩序、組織力、相手を敬う心。

 ニッポンは大丈夫だ!

 --毎週木曜日に更新--

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