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不気味悪い岩山を目にした日に

 愛車は、上信越自動車道を快調に飛ばしていた。車窓からは、白銀に光る浅間山が見え、最高のドライブ日和だった。車内にはチャイコフスキーの『イタリア奇想曲』が流れている。メランコリックな作品の多いチャイコフスキーの曲の中では、珍しく明るい曲だ。

 小諸トンネルにさしかかった。2車線で左側の走行車線は車が詰まっている。いつも長距離のときアッシー君を務めるかみさんは、何気なく追い越し車線を突っ走っていった。

 トンネルのなかほどまで来たとき、突然、サイレンが鳴った。ぼくは、一瞬、なにが起こったのかわからなかった。かみさんは左に急ハンドルを切り、走行車線に入った。

 右後ろに赤色灯をつけた車が走っている。「覆面パトよ。わたしが狙われたの」「さっき、何キロ出してたの?」「140キロは出てたかもしれない。免停だよね」

 覆面パトカーはぼくたちの車の前方に入り、助手席の窓から警察官が手を出して、ついて来いと合図を出している。トンネルを出てしばらくすると、インターチェンジへのわき道に誘導された。

 「あーあ。せっかく、今度の更新でゴールド免許になると思ったのに」。かみさんは、あるとき、どうでもいいところで駐車違反になり、ブルー免許になっていた。それが、無事故無違反ならゴールドに変わるという直前で、またも捕まってしまった。

 しかも、今度は免停だろう。毎日、通勤に車を使っている。それはどうなるのか。

 嫌な予感はあった。群馬県内を走りもうすぐ長野県に入るというところで、かみさんが言った。「あの岩山見て。魔物が棲んでるみたいで気持ち悪い」。ぼくも一瞬、その岩山を見て、すぐに目をそむけた。

 上信越道は数え切れないほど走っているのに、あんな山を見たことはない。妙義山山系のひとつだろうが、たまたま、残雪と光線の加減で、ぞっとする光景になっていた。うちの子どもたちが小さいころ、不気味なと気味が悪いとをあわせて<不気味悪い>という造語を考え出し、ふたりで盛り上がっていたことがある。まさに、その不気味悪い悪夢にでも出てきそうな岩山だった。

 覆面パトカーは、料金所の手前を左に入っていった。こういう検挙のときに使うのか、広いスペースがあった。かみさんは、パトカーの横に愛車を停めた。

 「長野県警高速警察隊の○○です。トンネル内は時速80キロ制限ですが、113キロで走っておられました」

 言葉遣いはていねいだが、うむを言わせぬ口調だった。こちらとしても抵抗するつもりはない。140キロじゃなかったのか。それなら、免停はないかもしれない。少しだけ明かりが見えた。

 かみさんは、パトカーの後部座席に“連行”された。説諭をされ検挙の書類に署名捺印を求められた。かみさんは、ぼくのところへもどって来て「印鑑ない?」と聞いた。「ああ、あるよ」と、ぼくはショルダーバッグから取り出して渡した。

 かみさんはいつも、140キロは平気で飛ばす。ドイツに住んでいたときは、家族を乗せ速度無制限のアウトバーンを186キロで飛ばしたこともある。“信州の中高年暴走族”の異名をとった父親のDNAを受け継いでいるのだ。だから、日本へ帰ってからも、東北道で160キロを出したことがあり、「ここは日本だぞッ」とたしなめた。

 そのかみさんも運転歴30年近くになるが、スピード違反で捕まったのは初めてだった。もちろん、悪運の強いぼくもない。それにしても悔しい。

 「反則金2万5000円だって。高いわよねぇ」「それでも免停になるよりはましだよ」。駐車違反を取られたときには1万5000円だったから、相場としてはそんなものか。反則金は、近日中に銀行振り込みをしなければならないという。

 東ヨーロッパ某国で聞いた話を思い出した。経済難にあえいでいて、警察官の給料も少ない。警察官らは、夜の盛り場から郊外へ通じる道で待ち構えていて、飲酒運転者をはしから検挙する。ドライバーは心得たもので、罰金を払う代わりにワイロを手渡して見逃してもらう。警察官のほうも最初からそれが狙いだ。ワイロは仲間うちで山分けにして生活費や晩酌代に当てるのだという。そういう国は少なくない。

 長野市のかみさんの実家で用を済ませ、ふたたび上信越道を東京方面へ帰っていった。車中、<日本の高速道路におけるスピード取締り――その傾向と対策>をテーマにかみさんと考察をした。そこで得られた結論はこうだ。

 覆面パトは、トンネル内に限らず走行車線を車にはさまれてほぼ法定速度で走り、追い越し車線を1台だけで突っ走る車を狙う。対策としては、運転中、前後をよく注意することだ。そして、走行車線にも車がいなければ大丈夫だろう。もちもん、固定式のスピードカメラにも気をつける。

 義弟に聞いたら、トンネルの出口、下り坂も注意スポットと言っていた。

 おまわりさんにもノルマがあり、「本日のカモ2羽目ゲット!」とか言ってサイレンを鳴らすのだろうなぁ。

 もう、『イタリア奇想曲』を流すのはやめた。あの曲はやたら軽快で、ついスピードが出過ぎてしまう。

 --毎週木曜日に更新--

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