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ピッチは光り、なでしこは輝く

 スペースが光って見えたので、そこへ思い切り走りこみました――。美形スーパーサブのFW丸山桂里奈さん(28)は、そう語った。それを比喩と受け止める人も多いだろう。しかし、そうなのだろうか。

 2011年7月9日、サッカー女子W杯準々決勝の対ドイツ戦で、丸山さんは途中から出場した。0:0の延長後半3分、バックからのロングパスをちびっこFW岩渕真奈ちゃん(18)が、ポンと主将のMF澤穂希(32)さんに渡した。澤さんもワンタッチで、右サイドの相手ディフェンス裏にあったスペースへ浮かし球を送った。

 丸山さんは、すでにその光りのなかへ突進していた。トラップし、角度のないところから右足を一閃させた。ボールは、タックルしてきた相手DFとGKをかすめ、ゴールのサイドネットに突き刺さった。

 世界ランク4位のなでしこJAPANにとって、グループリーグ突破はまあ予定通りだった。しかし、突破を決めたあとの3戦目でイングランドに0:2と完敗し、決勝トーナメントのドイツ戦でどこまで建て直せるかが注目された。

 ドイツは優勝候補筆頭であり、日本はまだ一度も勝ったことがなかった。丸山さんのゴールは決勝点となったが、それだけではない。大会をふりかえれば、なでしこが優勝するための最大の突破口だった。あれは、絶対に必要不可欠の1点だった。

 ピッチの特定の場所が光るなんてことがあるだろうか。

 ぼくは、新聞記者4年目だった1981年の体験を思い出す。長野県箕輪町で町長以下役場ぐるみの不正が行われているという情報をつかみ、取材をはじめた。役場の外で十分な周辺情報を集めたあと、町役場で最高幹部に取材しているときだった。町の事業一覧書を出してもらい、それを端から見ていった。そこには事業名と場所、予算額、概要などしか書かれていない。相手の幹部は、そんなものを見ても不正がわかるはずはない、とたかをくくっていたのだろう。

 ぼくは、この事業一覧のどこかに不正があるはずだと確信していた。上から見ていくと、ある事業のところがぽっと光った。ぼくは迷うことなく言った。

 「この事業の詳しい資料を出してください」

 幹部は、その瞬間、青ざめた。国からの補助金の不正受給をしていた典型的なケースが、まさにその事業だったのだ。幹部はぼくのひと言で“落ちた”。それをきっかけに、不正がいもずる式に出てきた。

 ぼくはその町での調査報道に丸2年をかけ、ある日の朝刊1面トップでスクープした。不正は数十件におよんでおり、溜めにためたネタを次々に特報していった。会計検査院が入り、長野県警も動いて幹部は逮捕され、町の悪名は全国に知られた。

 事業一覧書の一画は、たしかに光ったのだ。

 スポーツで、超一流の選手はある体験を「ゾーンに入る」と呼ぶ。厳しい練習に耐え本番にのぞんでぎりぎりの勝負をしているとき、神がかりのような感覚に入ることがあるのだ。ぼくの体験も、スポーツではないがまさにそれだったのだろう。取材でそんな体験をしたことは、後にも先にもそれ1回きりだが。

 だから、「スペースが光って見えた」という丸山さんの言葉は、実感としてわかる。その瞬間、サッカーの神さまが降臨し優勝が約束されたのかもしれない。なでしこJAPANは、準決勝でスウェーデンを3:1で撃破し、決勝戦では、女子サッカー界に君臨するアメリカをPK戦の末破った。

 なでしこJAPANという素敵な名は、2004年、公募されたなかから当時の川渕三郎・日本サッカー協会会長が選んだ。「期待せずに名づけた」と、今になって川渕さんは本音を明かしている。

 でも、かみさんとぼくは、そのころからずっと、なでしこの熱心なファンだった。「横パスばっかりでゴールに向かわない岡田JAPANなんかより、ずっと面白い」とかみさんは言いつづけていた。

 しかし、マスメディアは冷たかった。重要な大会でもあまり中継されない。今回のW杯も、当初は、かろうじてNHKのBS1とフジのCSが扱っただけだった。メキシコ戦で、澤さんがハットトリックをしたときも、テレビ朝日系『やべっちFC』なんか、映像も使わずスチール写真1枚を見せ、「澤選手すごいですね」のひと言で片付けた!。「日本サッカー応援宣言」をしているこの番組でさえ、つい数日前までそうなのだった。

 テレビ局は、BSやCSなどいたずらにチャンネルをふやし「いい番組ソフトが少ない」と嘆いている。でも、たとえばすごい努力で実績をあげているなでしこJAPANをもっとフィーチャーすればいいではないか。肉弾戦のサッカーで、身長10センチ、体重10キロも上回る敵を相手に、世界ランク4位ってほんとにすごいことなのに。

 それが、ドイツ戦に勝ったあたりからとたんに大騒ぎし、なでしこチームが凱旋帰国すると各チャンネルが争奪戦をくり広げている。

 なでしこの勢いが一過性に終わってほしくない。輝きつづけろ。かみさんとぼくは、心からそう願っている。

 --毎週木曜日に更新--

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