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ビール+焼酎 君は日の丸を背負って戦ったことがあるか

 すべては1本のまちがい電話からはじまった。ぼくが、新聞社のドイツ・ボン支局に駐在していたときのことだ。

 受話器をとると、日本人女性の声だった。ちょうど暇な時間帯だったので日本語で雑談をした。その女性Sさんは、長年、フランクフルトにあるドイツ人経営の会社に勤務しているという。特派員をしていてもドイツ企業の実態はあまり知らないので、どんな勤務をしているか、同僚と飲みにいったりすることはあるのか、など思いつくことを聞いてみた。

 「ドイツでは、会社の同僚と酒を飲んだりすることはまずないですね」。誰かの誕生日などに、缶ビールを買ってきてオフィスで乾杯し、30分ほど歓談してそれでおしまい、ということはあるそうだ。

 第2次大戦後かららしいが、ドイツ人、とくに旧西ドイツの人たちは個人主義を徹底してきた、と聞いたことがある。定時になると、さっさと仕事を切り上げ、家に直帰して家族と過ごしたり、自分の趣味の時間を持ったりする。飲みにいく相手は友人や趣味仲間がほとんどだそうだ。

 そういう話をしているうち、Sさんとすっかり打ち解け、「じゃ、今度、そっちへ出張したらお会いしましょう」と連絡先を聞いた。

 それから2、3か月後、フランクフルトへ取材にいく用ができた。夕方、Sさんに滞在ホテルへ来てもらった。

 「ビールのとってもおいしいところがあるから、ご案内しますね」。Sさんは、初対面のあいさつもそこそこに、タクシーをつかまえ、どこか目的地を運転手さんに告げた。

 20分くらい走っただろうか。そこは、ビールの醸造元だった。ビアレストランが併設されており、できたてを味わうことができる。店は細かく仕切られ、コの字型の長いすの中央にテーブルがあって、日本の居酒屋を思い出させる。

 店は混んでおり相席になった。いずれも巨漢の中年ドイツ人4人で、うちひとりは女性だった。

 Sさんとぼくは、簡単な自己紹介をした。先客はいずれも大ジョッキでがんがんやっている。「いける口ですか?」。Sさんはぼくにちょっと聞いてから、大ジョッキふたつとフランクフルトソーセージを注文した。

 本場のフランクフルトソーセージは、1人前が必ずペアになって皿に乗せられてでてくる。権威のある国際コンクールで優勝して、一躍、有名になり、世界中でソーセージの代名詞になったが、ヨーロッパ以外で本物を口にすることはめったにない。日本で「フランクフルトソーセージ」と俗に呼ばれているものは、本場物とは似ても似つかない。

 相席のドイツ人たちは、ぼくが日本から来て間もないことを知ると、ドイツのビールとフランクフルトソーセージについて、口々に講釈をはじめた。もちろんドイツ語だ。醸造用語などはむずかしいが、話の内容はだいたいわかる。

 最初から気になっていたのだが、巨漢のドイツ人たちは、ジョッキを傾ける合間にぐい呑みそっくりのものを口に持っていく。

 「あれ、なんですか?」。Sさんにこっそり聞いてみた。「ああ、あれは、焼酎を飲んでいるんですよ。ビールだけじゃアルコール度数が低くてそうそう酔わないから、ああやって焼酎をちびちびやるんです」

 ドイツ人客のひとりが、ぼくのジョッキが空きそうになるのを見ていった。「独日友好のために、1杯おごります!」。ぼくも中3からアルコールには親しんでいて、いささかの自信があり、受けて立つことにした。

 おごってくれた人のジョッキが空になるのを待ちかまえて、ぼくはいった。「日独の友情のために、1杯ごちそうします」

 それからは、他のドイツ人やSさんも巻き込んで、おごり、おごられの大宴会となった。ぼくはSさんに日本語でいった。「ぼくらはいま、日の丸を背負ってるんだから、最後まで戦い抜きましょう!」

 ドイツ式に、焼酎も注文した。これは効くぅーッ。無味無臭にちかく日本でいう焼酎甲類だ。酔いが回り、ドイツ語で会話するのが時々刻々おっくうになってくる。完全アウェイのなか、乾杯をくり返し、ジョッキとぐい呑みを何杯も空けていった。国の威信をかけるとはこういうことかッ。

 「あなたも、やりますねぇ」。巨漢たちは、もちろん降参はしないが、こちらをほめてくれた。Sさんは完全にできあがり、日本語で何か咆哮している。

 ぼくは巨漢軍団にお礼と別れの言葉をいい、精算をし、Sさんの肩をかかえた。思い切り戦った快さを胸に、滞在ホテルへと“凱旋”していった。

 Sさんは、ロビーのソファにぶっ倒れ、30分後、むっくりと起き上がっていった。「ここ、どこ? でも、私たち頑張ったのよね」

 ボンの郊外には、アーデンドルフという陶芸で知られた村がある。そこを家族で訪れたとき、ぐい呑みを見つけ、いくつか買った。東日本大震災でドイツ製ワイングラス類は壊れたが、ぐい呑みは生きのび、いまもリビングの来客用高級食器棚にある。

 --毎週木曜日に更新--

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