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ドイツ人はビールを決して注ぎ足さない

 2011年夏、なでしこJAPANのW杯ドイツ大会優勝に沸く日本へ、ヨーロッパからもうひとつ大変なニュースが入って来た。でも、一部のネットニュースが伝えただけで、マスメディアは見向きもしなかった。

 『アサヒ スーパードライ』が、125年の歴史をもつ世界で最も権威のある国際ビール品評会で、最高の賞<チャンピオンビール>に輝いた。もちろん、日本のビールメーカーとしては初の快挙だ。

 この品評会は、イギリスで数年に一度、不定期で開かれる「ブルーイング・インダストリー・インターナショナル・アワーズ」(BIIA)といい、スーパードライは、42か国796銘柄の中から「樽詰めラガー」部門のチャンピオンとなった。

 ぼくはビール党ではないが、ビールを飲むとすればスーパードライを好む。ドイツに住んでいるときも、あのコクのあるスーパードライの味が懐かしかった。チェコやドイツ、ベルギーといったビールの本場の味と決定的にちがうのは、スーパードライにはコーンスターチが入っているからだそうだ。これは、アサヒビール本社に電話して確認したことだ。

 ドイツには、ビール純粋令というものがある。1516年、バイエルン公国のヴィルヘルム4世が制定したとされる。要するに「ビールは大麦、ホップ、水のみを原料とすべし」と定めたものだ。純粋令はやがて、ドイツ全土に広がった。統一後の1993年、ドイツ政府はビール純粋令をビール酒税法の一部として改めて法制化した。つまり、法律によってビールの質を確保しているわけだ。

 そういうなかにあって、ドイツ人に言わせれば“不純物”であるコーンスターチ入りのビールが世界的に認められたのはすごいことではないか。

 ドイツで暮らしていて痛感したことだが、ソーセージやシュニッツェルなど地元料理には、純粋令に沿って作られたビールが確かに合う。だが、寿司をはじめとする日本食がヨーロッパでもブームとなるなか、それに合うのはやはりスーパードライのようなコクのある味と舌ざわり、喉越しなのだ。だから、スーパードライの快挙は、ある意味、日本の食文化の勝利ともいえる。

 ドイツのビールを飲んで、「こんなものか」といまひとつピンとこなかった非ビール党のぼくとしては、今回の受賞に溜飲がさがる思いがする。やったね、アサヒ!

 それにしても、ドイツ人のビールの飲み方へのこだわりは、ぼくたちの想像を超える。ビールにまつわるエピソードにはこと欠かないが、たとえば、ミュンヘン大学神学部生のマーティン君を思い出す。ぼくが新聞社のボン支局で使っていた美人助手ザビーネ嬢の幼馴染で、ミュンヘンへ初めて出張したとき、現地に知り合いがだれもいないので紹介してもらった青年だ。

 「神学部とは立派だね」と感心していうと、彼は、「そんな大層なことじゃないんです」と照れた。ドイツ北西部生まれの彼は、憧れの古都ミュンヘンに住んでみたくて、進学のときミュンヘン大学を志望した。ところが、成績がいまいちで入れる学部は神学部だけだったという。

 まあ、敬虔な神学生ではないわけだが、それはさておき、ビールの飲み方へのこだわりには感心させられた。日本人なら、瓶ビールを飲むとき、グラスに向けて注ぐのがふつうだが、マーティン君はまず、グラスを瓶にかぶせた。そして、瓶とグラスを両手でそれぞれに持ち、一気にひっくり返す。ビールが3分の2ほど入ったところで止め、泡がおさまるのをじっと待つ。そのあと、ビールをさらに注いでグラスを一杯にし、それからぐっと飲むのだ。

 ビールのうまさを泡で閉じ込めるには、この方法が一番という。

 ぼくが試しにやってみると、ビールが大量にこぼれてしまい、マーティン君に笑われた。ドイツ人は、この注ぎ方を、ある年齢になったら大人に教えてもらって練習するのだそうだ。

 日本人は、誰かといっしょにビールを飲むとき、さあもうちょっといかが、と注ぎ足しあう。その話をマーティン君に話すと、一笑に付された。「ビールの旨さをぶち壊す飲み方じゃないですか」。まあ、あれはあれで日本の交際文化なのだが。

 ある夏の日、マーティン君が帰省のとちゅうでボンへ寄るという。ザビーネ嬢に「歓迎宴を開こうじゃないの」とぼくが提案し、彼女の恋人も入れて4人でライン河畔のビアレストランへ行った。

 ジョッキ生ではなく、あえて瓶ビールを注文し、みんながどうやって注ぐのかチェックした。やはり一番うまいのはマーティン君で、ザビーネ嬢の恋人も上手なほうだった。ザビーネ嬢は「ふだんあまり飲まないから」と、ぎこちなかった。

 からっとした夏のドイツの野外で、ビールを飲むのは最高だ。でも、今年は冷夏で最高20度前後と肌寒く、夏を待ち焦がれていたビール党には残念な状況だそうだ。

 ぼくがいたころ、ドイツで日本食ブームはまだ起きておらず、日本のビールを飲んだ記憶がない。いま、マーティン君らがコーンスターチ入りのスーパードライを飲んだら、どんな感想を持つだろう。

 --毎週木曜日に更新--

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