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インどイツ物語ドイツ編(12)【ふたりのサンタクロース】 

       94年末記

 ドイツにはふたりのサンタクロースがいる。うまくすれば、子どもたちはクリスマスプレゼントを2回もらえる。そんな話をどこかで聞いていた。

 1994年12月2日、ボン独日協会主催のクリスマスパーティが市内の教会で開かれた。この協会は両国親善のための活動をしており、会員になると家族連れの日帰りバス旅行など楽しいイベントに参加できる。

 教会でのクリスマスパーティだからアルコール抜きの「健全」な催しかな、とあまり期待もしないで出かけると、うれしい方に予想がはずれた。

 大広間の壁際には料理やワイン、ビールなどがどっさり並んでいる。入り口でお金を払って入れば、席も飲物もまったく自由という。まず、料理に近そうな席を確保して、飲物のコーナーへ行くと、ボランティアでサービス係りをしてくれているある日本人の研究者が「どうぞ、どうぞ」とビールを2、3本も渡してくれた。

 会場は家族連れなどでにぎやかだ。200~300人はいるだろうか。お定まりの偉い人のスピーチやちょっとした出し物の後、赤い布地に白い毛の縁取りの服、白髭を付けた大柄なおじさんが登場した。

 一見サンタに似ているが、よく見るとあのハーフジャケットにズボンではなくロングコートをはおっている。これがサンタさんのお友だち(!?)、ドイツ独特の「聖ニコラウス」だ。

 10世紀ごろから舟乗りや商人、子どもたちの守護聖人として、民間習俗の中に生きているという。本来なら「聖ニコラウスの日」の12月6日やその前夜、子どもたちの前に現れるそうだが、この日は独日親善で特別に早めに来てくれたらしい。

 再び飲物コーナーに行くと「このまま持って行ったらどうです」と白ワインを1瓶そのままくれた。隣近所の席同士で注いで注がれて大人たちもけっこう盛り上がっている。なぜかワインの瓶を抱えて会場をうろついている外交官がいたりする。

 「子どもたち、みんな出ておいでーっ」。ニコラウスは明らかにドイツ人なのに、日本語も上手だ。すばしこい子はとっくにその足元にまつわりついている。プレゼントがたっぷり入った白い袋はサンタと同じだが、ニコラウスはさらに小枝の鞭を持っている。

 ドイツ通の解説によると、「本当は、子どもたち一人ひとりについて、今年1年いい子だったかどうか判決を下し、悪い子には何もくれない」と、かなり厳しいおじさんだ。

 それでも今夜は親善だから、みんなにお菓子の袋を渡してくれた。受け取った子どもたちは、駆け足で親のいる席に帰ってくる。

 「子どもたちには、さらにプレゼントがあります」。司会のおばさんは、お菓子の袋に入っていた番号札を見るように言った。これから抽選をして、ズバリ賞には会場に飾ってあるドイツ名物、手作りのお菓子の家をくれるという。グリム童話『ヘンゼルとグレーテル』でおなじみのあれだ。

 「222番」とマイクを通し1等の番号がドイツ語と日本語で読み上げられた。「おしーいっ、1番ちがいだ」と同じテーブルの小学五年のお兄ちゃんが叫ぶ。「だれも該当者はいませんか。それではもう一度。・・・333番の人」。司会者の声が終わるか終わらないうちに、5、6歳の男の子がステージへ駆け寄った。

 「やだぁ、優くん、当たってるじゃないの!」。テーブルの反対側の席で妻が叫んだ。優士は家では「ぼーちゃん」と呼ばれるくらいおっとりしたところがある。この肝心な時に自分の番号札をちゃんと見ていなかったらしい。「早く、早く、駆けて行きなさい」。妻に追い立てられ優士はステージに当たり札を持っていく。

 困ったのは司会のおばさんと、お菓子の家を作ってくれたというおばあさんだ。今さら「次点」の子に帰れとも言えないし、賞品はひとつしかない。「だいたい、すぐに次の番号を言ったりするからこんなことになるのよ」。妻は親善におよそ似つかわしくないレベルで憤慨している。

 「ここにあるお家は、最初に来た子にあげます。ぼくにはもうひとつ作って後であげるからね」。そういうことで決着した。

 お菓子作りの名人として知られたそのおばあさんは、こっちのテーブルにきてわざわざ名前と住所を聞き、ちゃんと作ってくれることを約束した。

 その10日後、日本大使主催の「天皇陛下誕生祝いレセプション」がボン市内で華やかに開かれた。その時におばあさんがお菓子の家を渡してくれることになっていた。各国外交団が詰めかけ混雑する会場で、おばあさんはわが夫婦を探しあててくれた。

 「うちの息子の車の中に置いてあるから、今持ってこさせますね」。息子というから30代くらいの男性を想像したら、紹介された人は50代も半ばくらいの上品な紳士だった。その人とぼくは、お互いグラスを手に立ち話をし、名詞交換した。

 「ではお約束の物を私の同僚に取りに行かせます」。同僚と呼ばれた筋骨隆隆、目付きのするどい偉丈夫の青年が、恭しくお菓子の家の包を捧げ来てくれた。

 帰宅して開いて見ると、庭付き一戸建ての堂々としたお家だった。「おばあさん、じょうずに作るんだねぇ」とみんなで関心しながら、壊れないうちにと記念写真を撮った。

 12月24日のクリスマス・イブ。ドイツでも「ふたり目のサンタさん」は来るのだろうか。優士は「ニンテンドーのファミコンソフト」が欲しいとお願いしていた。「でも、こっちのサンタさんは、そんな日本の物は持っていないと思うよ」と妻は予防線を張っている。

 結局サンタさんが枕元に置いていったのは、ドイツ製のテレビゲームだった。「同じようなのが、お友だちのところにもあったよ」と言いながらも、優士は喜んでいた。

 でも、聖ニコラウスのプレゼントの方がほんとは断然すごい、と知ったのはずいぶん日数が経ってからのことだった。お菓子の家を車に乗せてクリスマスパーティ会場まで運んで来てくれた「おばあさんの息子」の名詞をじっくり見た。

 「連邦刑事局長官 ハンスルートヴィヒ・ツァッヒャート」とあった! 日本で言えば警察庁長官にあたり、こっちの新聞でよく名前を見かける人だ。「お家」を恭しく運んで来てくれたのは、ドイツ警察の最精鋭SP(警護警察官)だったらしい。聖ニコラウスにはいろいろな人脈があるものだ。

 〔短期集中連載〕

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