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なぜ、日本には<反日日本人>がたくさんいるのか=後編

 「うちの父親は、犯罪者なんです。誰かその被害者を知りませんか? 裁判の原告になってもらおうと、いま探しているところなんですけど」

 知らない人物からこんなことを言われたら、人はどう思うだろう。「訳がわからない。この人は少し精神を病んでいるのでは」と受け止めるのがふつうだろう。

 しかし、日本社会では戦争責任の問題をめぐって、こんなことが現実にある。やや古い話だが、毎日新聞1993年9月9日朝刊「記者の目」欄には、こんなくだりがある。

「韓国人の戦争犠牲者を探している。韓国側から日本政府に謝罪と賠償を(求めて)行う裁判を起したい。韓国人犠牲者を原告にしたい」

 記者は「歴史の発掘という努力はともかく『原告を探す』という発想には驚いた」と率直に書いている。

 いわゆる従軍慰安婦騒動も、おなじプロセスで国際問題化した。祖国日本を貶めるために、わざわざ周辺国へ出向いて“犠牲者”を探し出し、日本政府相手の訴訟を起させる。

 歴史的事実ならともかく歴史を捻じ曲げてまで槍玉にあげ、日本を攻撃して快哉を叫ぶのだ。ぼくは、こういう人びとを<反日日本人>と呼んでいる。

 どんな国にも、左翼とか反体制派というのは存在する。しかし、<反日日本人>のような存在は、世界を見渡してもきわめてユニークだ。

 ろくに日本語の史料や文献を読めない外国人は、日本人がそう言っているのだから事実なのだろう、と信じてしまう。心ある日本人の歴史家らが、厳密な歴史考証に基づいて「それはちがう」とアピールしても、<反日日本人>の叫び声にかき消されてしまう。

 国のイメージは損なわれ、名誉はぼろぼろになる。国民の誇りも傷つけられる。それが日本の悲劇であり、いまもつづいている。

 なぜ、日本にはこんな特殊な人種がいるのだろうか。ぼくの知るかぎり、誰もこの難問を正面から取り上げ、的確に分析した人はいない。だが、ぼくは、第2次世界大戦の2大敗戦国の一方であるドイツの戦争責任問題を徹底取材するなかで、その謎というか<反日日本人>の心理メカニズムがわかったように思う。

 かつて上梓した『<戦争責任>とは何か 清算されなかったドイツの過去』(中公新書)で、戦後の(西)ドイツの国家的トリックをあばいた。その要点をまとめておく。

 ヒトラー時代は1933年から45年までつづいた。僕がインタヴューしたドイツ人やポーランド人、チェコ人の歴史家らによれば、ヒトラーの全盛期には、ドイツ人の85~90%はナチズムに同化しヒトラーを支持していた。ナチスとは、ナチ党に所属していたかどうかではなく、ナチズムに染まっていたかどうかで定義される。つまりドイツ国民の圧倒的多数は思想的にナチスだった。

 しかし、戦後は東西冷戦がはじまり、アメリカをはじめとする西側は西ドイツを自陣営に組み込む必要から、ドイツ国民のナチスの過去を事実上、不問に付すことにした。それに便乗し、ドイツ人たちはかつてヒトラーとナチズムに心酔していた自分の過去を隠し、あるいは忘却していった。

 戦争犯罪やホロコーストにかかわったのは<悪いドイツ人>であるヒトラーと親衛隊員などのナチ党員であり、形の上でナチ組織ではなかった国防軍の兵士や一般国民は<善いドイツ人>だった、という神話を作り上げていった。ドイツ国民はヒトラーとナチスをスケープゴートにしたのだ。戦後の大政治家である首相アデナウアーなども、そうした神話作りを意識的に進め、米ハリウッドやドイツの映画でもその神話が喧伝されていった。

 史上最大の国家的トリックといえるが、いつまでもごまかせるわけがない。まさに、戦後50年に当たる1995年を境に、音を立ててトリック崩壊が起こりいまに至る。

 ドイツの主要戦犯がニュルンベルク裁判で裁かれたように、日本のA級戦犯も東京裁判で裁かれた。それはある意味で、大日本帝国主義時代の日本と日本人を断罪することになった。国民全体が、国際社会から<悪い日本人>と決めつけられたようなものだった。

 侵略戦争をしたのも、戦争犯罪を犯したのも旧日本軍であり、日本にはドイツのようにナチ党やナチ軍事組織などのようなものは存在しなかった。つまり、戦争の罪をきせるスケープゴートが日本にはなかった。

 しかし、自己愛の強い人、自尊心の強い人は、国際社会から<悪い日本人>とみなされることに耐えられなかった。だから、戦前は軍国主義に染まっていたのに、戦後は平和主義者に変身した人びとや組織であふれた。朝日新聞が<反日日本人>の典型になったのはそのためだ。進歩的文化人と称する人びとの大半は、そういう変身組かその類だった。

 積極的に<善い日本人>になるには、日本の過去の悪を糾弾すればいい。帝国主義の犠牲となった周辺国の人びとと手を組んで、日本政府や<悪い日本人>と戦えばいい。そういう心理メカニズムが働いた。そして、手段を選ばず行動をエスカレートさせていった。

 こういう人びとのことを、日本の保守派は「自虐的だ」と批判する。そうではない。彼らの動機は自己愛、自衛本能であり、自分を“日本と日本人の外”に置く自己欺瞞なのだ。

 残念なことに、ドイツとちがって政治家の力量もなく、それを正したりごまかしたりすることができない。スケープゴートのない敗戦国ならではの病理がそこにみえる。

    ――本稿は2011年6月16日付け「前編」の完結編です。

 --毎週木曜日に更新--

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