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北朝鮮を嗤えない すぐそこにもある独裁メカニズム

 読売グループをめぐる“清武の乱”が世間を騒がせている。これを横目でみていて、1944年7月のヒトラー暗殺未遂事件を連想した。

 第2次大戦中、敗色濃厚となったドイツ国防軍のシュタウフェンベルク大佐が、ヒトラーのいる総統大本営会議室に爆弾をしかけた。爆発はしたものの、ヒトラーは危うく難を逃れた。実行者の大佐や同志の反ヒトラー派将兵グループは、身柄を拘束され、惨殺された。

 戦後、ヒトラーは<悪いドイツ人>の象徴=絶対悪とされ、それを排除しようとしたグループは、(西)ドイツで<善いドイツ人>として英雄視された。

 国防軍は正規軍であり、ナチス親衛隊などナチ組織とは、いちおう一線を画していた。したがって、シュタウフェンベルク大佐らはナチスではなかったが、生粋の軍国主義者であり、ヒトラー亡きあとも民主的な国家再建を目指していたわけではない。ヒトラーがトップにいる限り敗戦は免れない、とし国防軍が戦争を主導するため決起しようとした。

 そういう意味では、どっちもどっちだ。しかし、トム・クルーズ主演の米映画『ワルキューレ』(2008年)でも、大佐らを美化して描いていた。

 “乱”に失敗し巨人軍の代表兼GMを解任された清武氏とは、ぼくは30歳前後のころ机を並べて仕事をした。敏腕記者として鳴らし、巨人軍に移ってからも数々の新機軸を打ち出してきた。

 清武氏は、ナベツネこと渡邉恒雄・読売グループ会長のコーチ人事介入に耐えられず、その独裁体制に風穴をあけようと決起し、つまづいた。

 世界の独裁体制には、大きく分けて北朝鮮型とナチス型があると思う。北朝鮮では、抗日パルチザンのリーダーだった金日成が、大戦終結直後、ソ連の支援を受けて北朝鮮労働党を組織し、北朝鮮の指導者となり、やがて72年に独裁者となった。2011年12月19日に急死した金正日は、父親の独裁権力を世襲した。

 つまり、北朝鮮では、民衆があずかり知らないところで、上からの独裁体制が築かれた。 これに対し、ヒトラーは一兵卒からのなり上がり者だった。巧みな演説と不思議なカリスマ性で人心を掌握し、選挙によって第1党の党首となり、首相の座についた。ナチ党を基盤として国民をつぎつぎとナチ化し、独裁体制を固めていった。出世しようと思えばナチになるになるのが一番であり、一般国民のほとんどもナチズムに酔った。

 つまり、ナチスドイツは、下からの独裁だった。

 ナベツネ独裁体制は、ナチス型だ。もちろん、読売新聞が戦争や大虐殺をしたわけではない。あくまで、組織論から考えればパターンがよく似ているということだ。

 ナベツネが大学生時代、共産党員だったことは一般に知られている。ある事件で宮本顕治の逆鱗にふれ、党を除名された。その後、保守に傾くようになった。

 読売に入ると政治部に所属し、自民党・大野伴睦の番記者となった。中曽根康弘氏とも盟友関係となり、政界、社内で影響力を持つようになった。そのころ「組織は5%の人間を押さえれば、全体を牛耳れる」と語っていた、とぼくはある人物から聞いたことがある。それは、共産党のシンパ作りの手法そのものだという。

 ナベツネは、まず、政治部の5%を確保し、それから部全体を掌握した。つづいて、経済部を手中に収めた。社会部とはまだ敵対していた。

 だが、社長になって少し経ったころからか、社会部、社会部出身の幹部を篭絡していった。出世しようと思えばナチになるになるのが一番、という原則がここにもある。

 清武氏も、その当時は「あの人も、ナベツネの軍門に降ったか」などと言っていたのを思い出す。編集局でも、ぼくがいた外報部(現国際部)をふくめ、大多数の記者はナベツネに反感を持っていた。

 なにしろ、言論機関でありながら、紙面には言論の自由などなかった。なにか核心を突くスクープ記事の原稿を書いても、社論や社の政治利権に反すれば、ナベツネ自身ではなくナベツネ体制の尖兵となった幹部が握りつぶしてしまう。清武氏も社会部などにいてそういう経験をしたことを、本人の口から聞いたことがある。

 社内で出世するということは、ナベツネの軍門に降ることとほぼ同義語だった。そして、社内にはミニナベツネがいくらでもいた。

 ナベツネは、ぼくもメンバーだった社内の「憲法研究会」にほぼ毎週顔を出した。頭のキレはずば抜けていたが、権力志向があまりにも強く、方向性をまちがえていると思う。

 ある週刊誌は今回の“乱”をめぐり、「清武氏が巨人軍内でミニナベツネになっていた」と報じた。彼自身は、ナベツネの軍門に降ったわけではない、と思っていたのかもしれないが、はたから見ればヒトラーの威を借るナチ幹部と同じだっただろう。

 独裁体制下で、人がどんどんナチになっていくのは、読売に限ったことではない。たとえば、創業家出身の前会長が不正に106億円もの借り入れをしていたとして大騒ぎになった大王製紙でも、「絶対的に服従する企業風土があった」と朝日新聞は伝えている。

 権力者の軍門に降るのは、人の習いなのだろう。つまり、ナチはあなた自身かもしれない。少なくとも、あなたのそばには、ナチがたくさんいる。

 --毎週木曜日に更新--

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