« カレーライス | トップページ | 死ぬのが楽しみになりそうな本がある »

命とは、記憶とは 赤ちゃんの不思議

 友人知人に孫がつぎつぎと生まれている。かみさんの姪も女の子を出産した。ぼくは、こういうとき、必ず次のように言うことにしている。

 「おしゃべりできるようになったら、聞いてみて。お母さんのお腹から生まれたときのことを覚えてる? 生まれるよりずっと前のことも覚えてる? と」

 こんなことを話すのは、2011年後半から、最新の赤ちゃん学をかじったからだ。

 ある日、小学生のシンガーソングライター水谷ゆうさんが、テレビで『いっぱい大好き』という歌をうたっていた。

 ♪ねえママ わたし 生まれる前 ママを空からずっと見てたよ
 やさしそうだなって ずっと見てたよ だからわたしは ママを選んだよ
 ああ やさしそうだね 神さまわたしは あの人の子どもに なりたい なりたい
 そうしたら ちっちゃい シャボン玉に入れられて ゆっくりわたしは 透明になって
 降りていく 降りていく♪

 ぼくは水谷さんに、所属事務所を通じて手紙を出した。「実は、いま、<赤ちゃんは親が作るのではなく、赤ちゃんのほうが親を選んで生まれてくるのではないか>というテーマで取材をしています」。そして、この歌詞を書いたいきさつを尋ねたのだが、残念ながら返事はなかった。しかし、自分の記憶に基づいている可能性はじゅうぶんあるだろう。

 産科の現役の医師・池上明さんが、『子どもは親を選んで生まれてくる』(日本教文社)という本を出している。出産の現場に数多く立会い、また、ぐんぐん育つ赤ちゃんに接するうち、その能力が常識を超えていることに気づき、研究を進めてきたという。

 胎内記憶・誕生記憶については、100年くらい前から報告がある。だが、科学的な研究がはじめられてからはまだ日が浅い。池上医師自身は、2001年、全国保険医団体連合会で胎内記憶について発表し、全国紙に掲載されて大反響を呼んだ。

 2003~04年には、長野県の諏訪市と塩尻市のすべての幼稚園、保育園に協力してもらい、3601組の親子にアンケートを実施した。対象は3~4歳で、ほぼ3人にひとりが記憶していた。胎内記憶をもっていたのは30数%で、誕生記憶は20%前後だった。「子どもがまだしゃべれないので答えられない」「子どもが話したがらない」「子どもに質問したことがない」などのケースもあり、実際の記憶保有率はもっと高い可能性もある、としている。池上医師は、2005年、アメリカで開かれた国際学会で発表した。

 「こうした記憶は人に語ると消えていくようなのです。まるで、誰かに知られることで記憶の役目が果たされたかのように」としている。

 ぼくが知る限り、作家の故・三島由紀夫は自分の誕生記憶について書き残している。それを読んだときには、さすが天才だからか、と思ったが、池上医師によると、大人でも100人にひとりくらいは、生まれる前後の記憶を保っているそうだ。

 子どもたちの語る内容は、細かい点はちがっていても、だいたいのイメージは共通しているという。「生まれる前は雲や空の上にいて、何人かの友だちとのんびりすごしていました。その世界は平和で穏やかで、神さまや天使や妖精たちが住んでいます。そしてふさわしい時期がくると、どのお母さんのもとに生まれるかを決めて、トンネルやはしごを通っておなかの中に入るというのです」

 この情景は、水谷ゆうさんの歌『いっぱい大好き』そのものではないか。

 川上医師によると、おなかにいたときお母さんに話しかけられた赤ちゃんは、胎内記憶・誕生記憶ともに保有率が高いというデータも得られた。お母さんが赤ちゃんにひんぱんにおなかに話しかけていると、「あったかかった」「たのしかった」といったポジティブな記憶が多く、あまり語りかけないと「さみしかった」「早くでたかった」というネガティブな回答が多くなるという。

 東洋では胎教という考えが昔からあったが、母は出産するより前から子どもと絆を持っているということだ。そして、胎内のときから父親の影響も大きいという。

 ある小学生はこう語ったという。「虐待されることも全部知って生まれてきます。それは、親に『そんなことをしてはいけないよ』と教えるためです」

 赤ちゃん学、発達認知神経科学などを専門とする開一夫さんは、『赤ちゃんの不思議』(岩波新書)を書いた。口を開けたり閉じたりする、唇を突き出す、舌を突き出すなどの表情を新生児にしてみせると、それをまねるのだという。生まれて数時間しか経っていない赤ちゃんが、人間の顔の絵とそうでない絵とを区別することもできるそうだ。

 赤ちゃんは、高度で多彩な認知能力を非常に初期から持ち合わせている、と開さんは述べている。

 池上医師はさらに、「イトミミズみたいなのになって」お父さんからお母さんのお腹の中へ入り「たまごになった」と話す子どものケースなどを紹介している。つまり、精子と卵子の記憶で、その子は、受精から誕生までの産科医師も知らない発達のようすについて克明に語ったという。

 命とはなにか、記憶とはなにか、とつい考えさせられる。

 嗚呼、ぼくにも早く孫が生まれないかな。実験台としても楽しみだ。

 --毎週木曜日に更新--

|

« カレーライス | トップページ | 死ぬのが楽しみになりそうな本がある »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/540025/53719717

この記事へのトラックバック一覧です: 命とは、記憶とは 赤ちゃんの不思議:

« カレーライス | トップページ | 死ぬのが楽しみになりそうな本がある »