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ドイツの脱原発トリックに引っかかるな

 自分の思考の柔軟性や冷静さ、先入観の強弱を測るにはいい作品かもしれない。映画『ピラミッド 5000年の嘘』を観た。上映館は少なくあまり話題にもなっていないが。

 エジプトのギザの大ピラミッドは、「紀元前2700~2500年に、20年かけて建造されたクフ王の墓だ」いうのが定説となっている。ほんとにそうなのかを映画は問う。

 この問題を37年間にわたって調査・研究した科学者があり、プーヤール監督はその人物に会ったのがきっかけで、自身でエジプトや世界の古代遺跡を調べ、各分野の第一級の専門家に取材し、6年間をついやして映像作品にしたという。

 映画は、数学や天文学などを駆使している。となりのかみさんは「ちんぷんかんぷんだわ」と言って、途中、爆睡していたが、ぼくは引きつけられた。

 作品中、ギザの大ピラミッドの建造年代を石から割り出すことはできない、と地質学者は証言する。重さ200~400トンの200万個もの石を、カミソリの刃も入らないほどきっちりと積み上げることは現代の技術でもきわめてもむずかしい、と建築の専門家は語る。わずか20年で作られたという記録、史料はいっさい残っていない。「王の間」と呼ばれている玄室からクフ王の遺体や遺物は発見されておらず、王の墓だという証拠はない。

 監督は、大ピラミッドは一種の天体時計ではないかとの仮説を打ち出し、「その設計者は、後世の人類に地殻大変動をめぐる大掛かりな警告メッセージを残してくれたにちがいない」とする。そして、世界各地にある遺跡と比較検証し、消えた歴史、いわゆる超古代史があったのではないか、と強く示唆する。

 内容や結論は、実はそう目新しいものではない。だが、従来のエジプト学を根本から疑い、各分野のプロを動員して検証し、コンピューターグラフィックスを駆使して作品化した。トンデモ話だと一笑にふすか、常識から距離を置き人類の歴史と未来を考え直してみたいと思うかは、人それぞれだろう。エジプト考古学者の吉村作治氏も、従来の学説にはそれなりの論拠があるとしながら「しかし、新説は面白い」とコメントを寄せている。

 作品ではほんのちょっとだけ登場するにすぎないが、沖縄の海底にも巨大な石造遺跡が沈んでいる。それなどが解明されれば、トンデモない真実が現れるかもしれない。

 映画を観ながら、ドイツの脱原発のことを連想した。ドイツは、国内にある17基の原発を2022年までに全廃することを決めた。日本には例によって、この決定を手放しで賛美する勢力がある。朝日新聞は2011年7月、ベルリン自由大学の教授を招いて講演してもらい、報道した。いわく、1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故による放射能はヨーロッパに達し、ドイツ国民にも深刻な事態となった。それをきっかけに脱原発の機運が高まり、今回、ついに原発全廃を決定するにいたった。

 朝日も講演会に参加した人びとも、教授の話に突っ込むこともなく“拝聴” したようだ。どうも、わが国には明治以来、欧米コンプレックスがあり、ドイツについても<自分の視点で批判的に考える>姿勢にかける。

 ドイツは第2次世界大戦後、戦争責任に正面から向き合い心から反省してきた、という都市神話などもその典型だ。ぼくは、ドイツや侵略されたポーランド、チェコで徹底取材し、2001年、その常識を打ち破る本を上梓した。『<戦争責任>とは何か 清算されなかったドイツの過去』(中公新書)だ。

 戦後の西ドイツは、ヒトラーとナチスを意図的にスケープゴートとし、一般国民や国防軍将兵の責任を棚上げにした。東ドイツもほぼ同じだった。そうした国家的トリックの仕掛け人と構造をあばき、戦後50年にあたる1995年以降それが崩れ出した事実を書いた。

 東京で開かれたあるシンポジウムでは、パネリストのぼくにドイツから参加した歴史学者が批判的な言葉を投げかけた。しかし、それ以降ドイツでは、歴史家らによって、事実上、国家的トリックを批判する研究発表や一般向け展示が相次いでいる。彼らもトリックにようやく気づいたのだ。

 エジプト学とおなじく、ドイツの脱原発についても眉につばをつけて見るほうがいい。

 山田衆三氏のブログ『ドイツの脱原発と日本』(2012年2月18日)では、以下のような指摘がなされている。

 (1)ドイツは、脱原発を掲げクリーンな太陽光発電などの普及に熱心な半面、電力の46%を温室効果ガス・大気汚染につながる石炭の火力発電で賄っている。(2010年時点。日本の石炭火力発電比率は27%)

 (2)ドイツは、脱原発で不足する電力のほとんどをフランスから輸入するが、フランス産電力の77%が原発によるものであり、原発依存からの脱却とは程遠い。

 (3)そもそもドイツが脱原発に踏み切ることができる最大の理由は、ヨーロッパ全域に国際送電網が張り巡らされており、国家間で電力を相互融通できるからだ。

 ぼくが知るかぎり、ドイツは指導者が仕掛け人となって良い国家イメージ=先入観を作り出し、それを知識人や一般国民がこぞって対外アピールする術にたけている。朝日の脱原発講演会など好例といえる。もちろん、原発の賛否とは別レベルの問題だ。

 山田氏は指摘する。「ドイツが選択した脱原発の決断は……遠大な社会実験ですが、これを日本が手放しで称賛することは軽率です」。まったく同感だ。

 --毎週木曜日に更新--

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