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野球にかぎらず基本は進化する ある革命的な技術論

「球春」という言葉は、俳句やメディアで季語となっているそうだ。毎年2月1日には、プロ野球がいっせいにキャンプインする。まだ、♪春よ、遠き春よ♪ といった感じだが、寒さも底を打ち、早春のときめきを予感させてくれる。

 やがてオープン戦がはじまり、梅のニュースで春の足音はいちだんとちかづく。さらにセンバツ高校野球が開幕する。

 今年2012年のセンバツをテレビでちらちらと観ながら、ぼくは各チームのショートの守備に注目している。1回戦のある試合では、ショートが三遊間寄りに移動して、「体の正面」で捕球し、一塁へ投げた。ぼくも、中学の3年間、野球部に所属していたが、このプレーは基本にとても忠実ではあった。

 でも、そういった基本は、21世紀のいま、どうやらまちがいらしい。どこの高校チームの監督も「ゴロは正面で」と教えているだろうが、そういう指導法はすでに昭和の遺物となりつつある。

 テレビ朝日系の深夜番組『Get Sports』(3月19日放映)で、プロ球界ヤクルトスワローズの宮本慎也選手が、ショートの守備の極意を、インタヴュアーの野球解説者・古田敦也さんに熱く語っていた。

 宮本選手は、ゴールデングラブ賞を9回獲った球界一のショートとして知られる。シーズンを前に、巨人の原辰徳監督にたのまれ、巨人の坂本遊撃手に捕球のいろはを指導していた。プロの現役選手が他チームの選手を個人的に指導するというのは、とても例外的なことだろう。打撃は非凡ながら守備に難のある坂本選手は、野球少年のように、手取り足とり教えてもらっていた。

 『Get Sports』は、月曜午前0時45分から2時間ちかく放送される番組で、なかなか生で観るのはむずかしい。ぼくも録画しておいて後で観る。さまざまなスポーツをとりあげ、中でも一流のプロによる技術の解説がとても興味ぶかい。

 知られざる奥義について古田さんが宮本選手に極意を聞くというその回も、ほかではまず観られない内容だった。野球少年や中学、高校の選手、というよりむしろ指導者にとって必見の番組となっていた。

 宮本選手は、あれほどの実績を持つというのに一種の精神論を第一にあげる。「派手なプレーはいらない。投手が打ち取った打球を必ずアウトにし、堅実なプレーをして仲間の信頼をえる」

 そして、数々の野球界の神話、都市伝説を否定していった。

 たとえば、内野手は「ゴロが来たら前へ出ろ」と教えられた。ぼくもいまにいたるまで、それは正しい捕球法だと信じ、草野球でも実践していた。でも、宮本選手はちがうと言う。

 「なんでもかんでも前に行くと、ボールとの距離が縮まりすぎ判断ができづらい。引くか前へ出るかは打球の質を見て判断する。ボールに合わせて守備をする」

 古田さんは「それはよくわかるわぁ」と、深くうなずいていた。

 宮本選手によると、ボールが正面から飛んできたら、体をずらすようにしてボールの右側に入るのが正解という。「打球を右に見て、捕るときは正面に入る。右肩を前に出すようにして捕ると、万一、はじいても体の左前にボールが落ち、次の送球動作がしやすい」。その際、タイミングを右足の踏み込みでとるのがコツという。

 「正面伝説があるから、何でも正面、正面。でもそれは、よけい距離感をとりにくい」。古田さんも相槌を打つ。

 プロ野球でも、捕球をした瞬間にグラブを寝かせ下側に返すくせがついている選手がいる。「そうとすると、捕球が『点』になりエラーしやすい」。正しくはグラブを開き垂直にちかく立てることだそうだ。そうすると、ボールの威力を吸収できイレギュラーバウンドにも対応しやすいという。

 宮本流守備教室のハイライトは、体を横向きにして左手のグラブを右に差し出す逆シングル捕球をめぐる技術論だった。

 古田さんによると、海外では逆シングルのほうが回り込んで体の正面で捕ろうとするより「送球動作が速くなる」と、子どものころから推奨されている。だから、古田さんは各地の野球教室などで逆シングルを提唱しているが、コーチらから「基礎に反している」と怒られるという。

 これについて、宮本選手は「子どものころからやったほうがいい」とあっさり古田さんに軍配をあげた。「ああ、よかった」と、古田さんは満面の笑みを浮かべた。これは、日本の野球界にとっては革命的な技術論だろう。

 サッカーでも、日本の古い指導法はガラパゴス化していた。ヨーロッパなどの少年サッカーでは、8人制にしてボールにさわる回数を増やすことが、上達への近道として実践されてきた。日本では相変わらず11人制で、8人制が採用されたのはほんの近年のことだ。

 どの分野にかぎらず世界と戦うには、神話、伝説を疑い目を世界に向けて、基本技術を進化させていかなければならない。それは、もちろん、基本をおろそかにすることとは対極にあり、基本を創ることだ。ね、宮本さん、古田さん。

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