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香川真司に立ちはだかる数々の敵

 あ~ぁ、ザックJAPANが負けちゃった! 2012年2月29日は、日本人サポーターにとってショッキングな日となってしまった。

 ホームゲームで、しかも相手は主力6人を欠く2軍のウズベキスタンだった。テレビ観戦の前、かみさんは「ま、3点は取ってもらわないとね」と言っていた。「いや、5発で完封だよ」とぼくは言った。日本はほぼベストメンバーをそろえたんだから勝って当然という油断が、サッカー界にもサポーターにもあった。0:1の結果を誰が予想しただろう。

 でも、いやな予感がまったくなかったわけじゃない。その日朝届いたニューヨーク・タイムズには、香川真司選手のでっかい写真が載っていた。なんだろうと思って見出しをみる。「勝利は忘れて ただ、どうか無事に」

 ロンドン発の記事の書き出はこうだった。<リバプールの名トレーナーだったボブ・プレイスリー氏は、かつて言った。「長距離フライトは、選手という車のガソリンタンクにパラフィンを注ぎ込むようなものだ」と>

 <プレイスリー氏が活躍した30年前と現在のフライト環境はずいぶんちがう。だが、今週も、1,100人の選手たちが祖国へもどって代表戦を戦い、すぐに引き返して週末のクラブの試合に出場する>

 長距離フライトでは、関節が膨張し硬くなる恐れが強いという。記事では、特に心配なケースとしてMF香川真司選手があげられていた。左足首の靭帯損傷で戦線を離脱したあと、26日に復帰してハノーファー戦を87分間戦い、飛行機に飛び乗って14時間のフライトで帰国した。翌29日に日本代表としてウズベキスタンと試合をし、とんぼ返りで3月3日にはマインツと対戦しなければならない。

 ザックJAPANは、先発のうち8人がヨーロッパ組だった。ゲームの初め、香川選手は思い切ってファーストシュートを放ち、相手のペナルティエリア付近で華麗なボールさばきを見せていた。

 でも、25分を過ぎたころから、香川選手をふくめチーム全体の動きが重くなったように感じた。オランダから帰ってきた1トップのFWハーフナー・マイク選手など、SB長友佑都選手の鋭いクロスに滑り込んだが、足が届かない。「メタボのおじさんみたいねぇ」。かみさんが、ぼくのお腹をちらちら見ながら言った。

 フライトの負担と同時に、“時差の恐怖”もある。 日本からヨーロッパへ旅行したことのある人なら経験があるだろう。現地の夕方になると、やたら眠くなる。たとえばこの季節、日本とドイツでは時差が8時間あり、ドイツではまだ午後7時でも、日本ではすでに午前3時だ。

 ドイツで新聞社の特派員をしていたぼくにとっては、未明に電話でたたき起こされるのがなにより憂鬱だった。東京本社で夕刊の締切に向けて作業が佳境に入っているころ、ドイツではまだ午前3~5時なのだから。

 Jリーグからオランダのクラブに移って間もないハーフナー選手にとって、今回のような経験は初めてだろう。試合後、正直に語っている。「海外から帰ってきて代表でやるには、もっと体のことも考えないといけないですね。今日は体が重かった」

 イングランドのプレミアリーグで活躍する韓国のパク・チソン選手は、祖国代表チームから引退している。後進に道を譲ると同時に自分の選手生命を考えてのことだろう。

 香川選手が所属するドルトムントに限らずヨーロッパのクラブは、日本人や韓国人が祖国で代表戦に出ることにいやな顔をするそうだ。移動距離が長いという理由のほかに心理的な理由がある、と聞いたことがある。

 わが家の廊下には子どもたちの教育のために、ドイツで買ったヨーロッパ中心の世界地図が貼ってある。そこでは、右端に「極東」の日本や韓国が位置している。サッカーのクラブにとってもスポンサーにとっても、抱えている選手が、弾丸ツアーで“世界の果て”まで行って帰ってくることに、心理的抵抗があるのだという。

 ちなみに、「極西」という言葉はヨーロッパではふつう使わず、アメリカへの往復にはあまり抵抗感がないらしい。ヨーロッパ人の頭のなかではそういう世界観がしっかりあるという事実を、ぼくたちも知っておいたほうがいい。

 日本人選手にとっては、もうひとつ「祖国」という敵(?)もある。ヨーロッパ人選手以上に国を背負う誇りを感じ、日の丸の重みでつい無理をしちゃうのだ。

 ウズベキスタンは、控え組12人を代表に並べ十分な合同練習をしたうえ、韓国で親善試合をしてから日本に乗り込んだ。ザックJAPANも技術と体力に決定的な差をつけなければ、アジアのチームに足元をすくわれる。

 香川選手は、試合後、こう語っていた。「かなりハードな日程であることは間違いないし、それは避けて通れない。この中で結果を残してこそ、トップクラスの選手だと思うので、こういう経験を励みにしていきたい」

 香川選手は、ドイツに帰り、3日のマインツ戦で今季通算8得点目をあげマンオブザマッチと節のリーグベスト11にもなった。やったね、とは思うが、ぼくには不安もある。まだ22歳と若いから、数々の敵をなぎ倒してはいるのだが……。

 --毎週木曜日に更新--

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