« レバ刺しと消費増税ヒステリー | トップページ | 越後の隠れ宿 ビートたけしと満点の星 »

あなたは献血NG、だなんてふざけるな

 24歳の息子が、久しぶりに実家へ帰ってきた。「たまたま新宿の紀伊国屋書店のとなりに献血ルームがあったから、献血してきた。飲み物やアイスクリームもあるし、注射がちょっと痛いのをがまんすれば快適だよ」

 たしかに、最近の献血ルームではいろんなサービスが行われているらしい。ちょっと前だが、千葉県柏市の「柏献血ルーム」では、2010年1月中旬から2月初めまでの火、水曜日、献血者を対象に占いサービスを行った。占い師はそごう柏店で営業するプロで、四柱推命や手相、タロット占い、姓名判断などを体験できるというふれこみだった。 その効果は絶大で、「献血後に占いを待つ人が後を絶たない」状況だったそうだ。

 少子高齢化で血液の需要は増えているのに若い人たちの献血が減少しているらしい。とくに東日本大震災の後、被災した福島、宮城、岩手の3県では献血をする人が20%前後から30%も減り、輸血用の血液が足りなくて困っているという。

 だから、献血をするのは結構なことだ。わが夫婦も、献血ルームの近くを通りがかったとき時間があれば立ち寄った。

 しかし、それも家族でドイツへ赴任するまでのことだった。1997年3月に日本へ帰り、国際引っ越しの荷物も少し片づいたころ、池袋東口の献血ルームへ行った。そのとき、アンケート用紙を渡され、深い考えも持たずありのままにドイツ駐在のことを記入した。すると、担当の医師に「残念ですが、献血はしてもらえません」と言われた。

 突然のことで、ガーンという感じだった。健康なのになんで? 40歳くらいの男性医師が言うには、ぼくたちのドイツ居住歴が献血条件に合わないのだという。

 日本赤十字社のウェブサイトには「献血をご遠慮いただく場合」というのがある。

 <心臓病、悪性腫瘍、脳卒中など特定の病気にかかったことのある方><服薬中、妊娠中、授乳中、発熱などの方><エイズ、肝炎などのウイルス保有者、またはそれと疑われる方>

 まあ、こういう人は献血を遠慮してもらうというか、はっきり言って「お断り」なのは当然で、納得できる。

 <海外旅行者及び海外で生活した方>という項目もあり、わが夫婦はこれにひっかかったらしい。子どもたちはまだ小さかったから対象外だった。

 <海外からの帰国日(入国日)当日から4週間以内の方は、ご遠慮いただいております>。旅行先の国でウイルスなどの感染しているリスクがあるためだそうだ。海外と言ってもいろいろあるが、日本より衛生観念の高いドイツから帰って数か月になるのにだめなのか、と思うとそんな理由ではなかった。

  ぼくたちは、牛海綿状脳症(BSE)、いわゆる狂牛病に血が汚染されている可能性があるから献血はできないのだという。まあ、たしかにヨーロッパではBSEで大騒ぎとなり、ぼく自身、それについての記事を書いたこともある。イギリスが変異型クロイツフェルト・ヤコブ病発生の中心地で、それと狂牛病の関係が専門家のあいだで取沙汰されていた。

 というわけで<安全が確認されるまでの間、BSEが発生している下記の欧州諸国に滞在(居住)された方の献血をご遠慮いただいています>としている。

 <アイルランド、イタリア、ドイツなど9か国に、昭和55年(1980年)から平成16年(2004年)までに通算6か月以上の滞在(居住)歴のある方>

 これを知って、なんだかいやーな感じがした。じゃあ、5か月と29日の居住ならいいのか、と言いたくもなる。ことは血の問題だけに、ヒトラー率いるナチスが法律で「ユダヤ人の定義」をしたいまわしい出来事を連想した。

 ヨーロッパには、昔から反ユダヤ主義が根強くあった。そうした背景があるにせよ、ヒトラーらは、ユダヤ人を毛嫌いして段階的に迫害し、ついにはアウシュビッツのガス室に送るなどして大量殺戮した。

 それらは、ナチ政権下の法律によって遂行された。法律である以上、どんな人物をユダヤ人とするか、が問題となった。1935年9月15日に可決された法律によるユダヤ人の定義は次のようなものだ。

 1.祖父母にさかのぼり,4人の祖父母のうち3人がユダヤ教徒の場合はユダヤ人とする。この場合,両親の宗教は問わない
 2.祖父母のいずれか2人がユダヤ教徒で本人も同様の場合はユダヤ人とする。※信仰していないと1親等ユダヤ系混血児とされる

 以下は略すが、かなりややこしい。ナチスは本来,ユダヤ人を血統的なもの、つまり人種として扱ってきたが、この法律では宗教の属性によって分けている。ひと言で言えばナンセンスだ。

 献血の条件も、ユダヤ人の定義とどこがちがうのだろう。日本赤十字社にもお役所的発想の事なかれ主義がみられる。万が一にも狂牛病が国内で発生すれば、「除外規定を設けてはいたんですが」と言い逃れをするために。

 うちの息子はどうやって献血条件の網をかいくぐったのか。答えは明快だった。「ドイツ居住歴なんか書かなかったんだもの」

 --毎週木曜日に更新--

|

« レバ刺しと消費増税ヒステリー | トップページ | 越後の隠れ宿 ビートたけしと満点の星 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/540025/54562652

この記事へのトラックバック一覧です: あなたは献血NG、だなんてふざけるな:

« レバ刺しと消費増税ヒステリー | トップページ | 越後の隠れ宿 ビートたけしと満点の星 »