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暗闇をほんとに魔女が飛ぶ国

 ドイツのボンに住んでいるとき、隣の都市ケルンによく行った。ある日、用がすんで街をぶらぶらしていると、道端の老女に目がテンになった。

 その老女は、見た目で70歳くらいだった。だぶだぶの黒い衣装をまとい、パーカーのようにフードを被っていた。鼻は大きくかぎのように曲がり、顔はしわくちゃ、目も唇も薄かった。

 街に魔女がたたずんでいる! と一瞬ほんとに錯覚した。ぼくたちが、白雪姫の絵本やアニメで知っている魔女そのものだった。

 でも、街を行く人たちは誰も気にとめない。

 白雪姫の話などは、誰かが頭のなかで創作したものだとぼくたちは考えがちだが、少なくとも登場人物の風体は、今でもヨーロッパの光景のなかにある。

 たとえば、これもケルンでのことだが、やせ細って髪とひげが長くイエス・キリストそのものとしか思えない男性を見かけ、びっくりしたこともある。

 ドイツで、魔女の怪しげな話を耳にすることはなかったものの、ミュンヘンへ行ったときは、女子高校生を中心に黒魔術が流行っていて、先生たちが頭を悩ませていると聞いた。そのときは、極右・ネオナチの取材に集中していて、黒魔術がどういうものなのか、残念ながら調べる時間がなかった。

 それから10数年が経ち、朝日新聞の2012年3月9日の記事に目がとまった。東欧ルーマニアで魔女が騒動を起こしているという。

 それ以前にも、この国で、魔女たちが所得税を払う払わないで当局ともめている、という短い記事が載ったことがある。そのときは、魔女とは何かが書いてなかったため、税金以前の問題として、現代でも魔女がいるんだと不思議に思うだけだった。

 ルーマニアでは、呪術師や占い師をしている女性のことを魔女と呼ぶのだという。1965~89年のチェウシェスク独裁政権時代には魔女として投獄された女性もいたそうだ。そういう意味では、魔女裁判で知られる中世のころと大差はない。

 ぼくは、ポーランドやチェコには何度も行ったが、ルーマニアには残念ながら行く機会がなかった。でも、日本で記者をしているころ、独裁者チャウシェスクの息子ニックに単独インタヴューしたことがある。想像通りの馬鹿息子で、日本の北のほうの独裁者の息子を想像してもらえればだいたい当たっているだろう。

 ニックは、こっちの質問はまったく無視して一方的にまくしたて、もちろん、記事にできるような内容はなかった。あの馬鹿息子らがソ連の後ろ盾で「共産主義者」として権力を握り、横暴に振舞っていたころ、かの魔女たちは厳冬の時代を送っていのだ。

 魔女たちは、東欧革命でチャウシェスク一族が惨殺されいちおう民主化されたあとも、法律の枠外に置かれてきたという。一部は闇社会とも結びついているらしい。税金云々の話もそういうことを背景に出てきたのだろう。

 占い師と言えば、最近では日本でも、女性お笑い芸人のトピックが芸能マスコミをにぎわせたから、あまりよその国のことは言えないが。

 ルーマニアには2,000人以上もの魔女がいるそうで、話のスケールも大きい。朝日の記事によると、テレビにも出演する売れっ子の魔女ふたりが「呪い」をめぐり大金を得ていたとして逮捕され、芸能界にとどまらず、政治家も巻き込んだ大スキャンダルになった。

 ふたりの魔女は、人気女優(39)から相談を受け、遺産争いをしている母親が別の魔女に頼んで女優にかけた呪いを解いてやった。その報酬として多額の現金や高級車、マンションなどを受け取ったが、女優がふたりの魔女との関係と絶とうとしたところ、男たちを雇って脅迫したとされる。

 ある市長が選挙がらみで魔女を陣営に引き込んだり、現職のバセスク大統領が強力な魔女を雇っているとし、大統領選で敗れた候補が別の魔女に協力を頼むなど、魔女がらみの事件があいついでいるらしい。

 そうした件で、日本円にしてそれぞれ数千万円の金が動いている、とされる点がすごい。ルーマニアの平均所得から考えると、とんでもない額だ。

 魔女に課税する話も、政治家らが反発する魔女の呪いを恐れ導入を見送った、とメディアは伝えているという。

 世論調査では、魔女の力を信じる人が70%、呪いを信じる人も60%いるそうだ。いまでも中世か! と突っ込みを入れたくなるところだが、日本でも1000年以上前には、呪いや怨霊のたたりが非常に恐れられていた。

 最近、趣味で読んでいる古事記や日本書紀には、都に疫病が流行ったときなど、神のたたりを鎮めるためにあの手この手をつくしたことが記されている。その相手というのが、なぜか「出雲の大神」、つまり大国主命だ。記紀には触れられていないが、大和政権は出雲に対してよほど恨みを買うことをしたのだろう。それが古代史最大の謎だ。

 共産主義は宗教をアヘンだと言って弾圧した。その反動として、ルーマニアでは魔女が闊歩しているのかもしれない。

 まあ、日本にも、あの人魔女かもしれないなぁ、という女性がいたりする。

 --毎週木曜日に更新--

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