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“国境オンチ”の日本が、尖閣紛争に勝てるか

 かつてぼくは、インドとパキスタンの国境線にまたがって、インドの国境治安部隊とパキスタン・レンジャーの兵士による、国旗降納セレモニーの写真を撮ったことがある。

 ニューデリー特派員をしていて、パキスタンに13回も出張したころのことだ。場所は小さな村ワーガーの国境検問所だった。

 印パ両国が分離・独立した1947年、村は分断され、東半分はインド、西半分はパキスタン領となった。冷戦によって東西に分断されたドイツを連想させることから、「アジアのベルリンの壁」と呼ばれることもある。

 儀式に参加する両国兵士の集団は、身長が高くみなイケメンだった。カラフルなターバンを巻き、双方から検問所に向かって勇壮なパレードを行い、まったく同じ手順でそれぞれの国旗を降ろしてたたむ。国境線の両側には観客席が設けられており、観光客のためのエンターテインメントではあるが、国威を競い合う日課となっている。

 ぼくは両国政府公認の特派員証を持っていたから、国境線として道路に引かれた白いラインを文字通りまたいでシャッターを切った。

 印パ関係が緊張するとこの検問所は閉じられ、平時には国際路線のバスなどで通行できる。まさに、国際関係をこの目で体験できる、不思議な空間だった。

 ファインダーをのぞきながら、つくづく思ったことがある。――島国に住みほぼ単一の民族である日本人は、国境、人種、宗教の3つには疎いと言われる。印パは過去3回も戦争したが、日本人に国境問題で戦火を交える心構えなどないだろう――と。

 しかし、2012年後半のいま、領土問題が持ち上がり、万に一つは尖閣諸島をめぐって中国とことを構える事態がないとも言い切れない。

 日本国内では、中国や台湾が尖閣の領有権を主張しはじめたのは、一帯海域に海底油田があることがわかった1970年代以降のことで、その言い分に歴史的根拠はないはずだ、と一般に思われている。

 反日暴動も、愛国教育という名の反日教育の結果であって、悪いのは中国であり、国際社会は日本を支持してくれるはずだ、とも。

 だがそれは、日本人の希望的観測にすぎないようだ。

 ニューヨーク・タイムズ電子版に、9月19日、台湾・国立政治大学の邵漢儀教授が書いた「釣魚/尖閣諸島の背後にある不都合な真実」という論文記事が掲載された。日本政府は1895年に尖閣諸島を、どの国も領有権を主張していないことを確認し、日本領に編入したとしている。だが、記事では「日本は尖閣諸島が中国領であることを最初から知っていながら、不当に占拠した」と論断しているという。

 <1885年当時、日本の外務大臣はこう記している。「台湾に隣接する中国の島々(駐・尖閣諸島)にわれわれが関心を持っているという噂を、中国の新聞が報じている。いまこれを公に国有化すれば、中国の疑念を招くのは必至だ>

 ぼくはニューヨーク・タイムズの紙のグローバル版を定期購読しているが、この論文は載っておらず、週刊現代10月13日号で知った。雑誌には、ニューヨーク・タイムズ元東京支局長で、邵教授の論文の掲載を決めたニコラス・クリストフ記者のコメントも載っている。

 <邵氏が今回提示した、『日本は尖閣を日清戦争の戦利品だと認識していた』という史料は説得力があった>

 このコメントがどれほど重要か、週刊現代のくだんの記事には解説がないのでわかりにくいが、おなじ号の別の対談記事で、孫崎享・元外務省国際情報局長はこう語っている。

 <忘れてならないのは、日本は連合国が1943年に発表した『カイロ宣言』を順守するとしていることです。同宣言は清朝の時代に日本が占拠した領土はすべて返すこととされています。尖閣諸島が日本に編入されたのは1895年。すなわち清朝時代です。これらの経緯を踏まえれば、尖閣諸島は日本の領土と言い切れるかどうか>

 クリストフ記者は、以前から、中国側の論拠に分があるとする記事を書いているという。

 在ニューヨーク総領事館の川村泰久総領事は10月3日、この電子版記事に抗議のコメントを寄せ、「尖閣諸島は日清戦争の『戦利品』だった」という説を否定した。

 野田政権は、尖閣国有化に踏み切るさい、歴史的考察を十分にしただろうか。

 橋下徹大阪市長のコメントはもっともだ。「竹島問題では国際司法裁判所(ICJ)に提訴するとしながら、尖閣問題での提訴は受け入れないという姿勢はおかしい」

 もし、中国が提訴したら、カイロ宣言のために日本は負けるかもしれない。

 南ドイツ新聞は、9月19日、日本を正面から非難した。<日清戦争のさいに尖閣諸島を占領したことこそ、日本が中国に与えた恥辱の発端である>

 このさい、諸外国の報道内容が正しいかまちがっているかは問題じゃない。どう伝えられ、国際社会にどう受け止められているかが問題なのだ。それはICJにも影響する。

 島国ニッポンに住んでいて、日本の新聞やテレビだけの情報しか知らないと、思考もガラパゴス化する。政治家も国民もおなじだ。

 やはり、日本には、国境問題などで丁々発止する能力はないのかもしれない。

 --毎週木曜日に更新--

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