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日の丸を背負い、カンボジアの地雷原に挑む①

 地雷ふんじゃったみたい、などと若者は言う。触れてはいけないことを口にしたときなどに使う。

 しかし、本物の地雷は、そんな軽いものじゃない。戦車をぶっとばす強烈なものや、人間を殺傷する対人地雷などがある。

 ドイツで特派員をしていたとき、元東西ドイツ国境での地雷処理現場を取材したことがある。ドイツ統一からすでに4年が経っていたが、旧東ドイツが埋めた地雷はまだ160Kmにわたって埋まったままだった。

 国防省が設立した地雷処理専門会社が作業にあたっていた。現場責任者は、かつて東ドイツ国境警備隊の下士官として、市民が東から西へ向け“国境破り”するのを監視していた。それが、今では“国境を消す”任務に追われている。「それまでの人生を否定する仕事だけに・・・」と、複雑な思いを語っていた。

 「この作業用道路からは、一歩たりとも脇にそれてはいけません。まだ、地雷がたくさん埋まっている可能性がありますから」。そう忠告され、恐る恐る、トラクターに似た地雷除去機や手作業での地雷探知の写真を撮った。

 先ごろ、カンボジアから突然メールが届いて、畏友とも言える親しい知り合いが、いま、地雷処理作業を現地で統括していることを知った。

 元在インド日本大使館駐在防衛官で、陸自一佐(大佐)だった谷川保行さんだ。ぼくがニューデリー特派員だったとき、公私にわたって大変お世話になった。

 日本政府のODAなどによって設立されたJMAS(日本地雷処理を支援する会)のカンボジア現地統括代表となり、この2012年3月に赴任したという。

 陸自を退官したあと日本赤十字社に勤めておられたから、第3の任務ということになる。日中は40度以上になる炎天下、地雷処理現場を回り、関係機関との調整、事務作業などに追われているらしい。

 現場では陸自のOBであるJMAS地雷処理専門家の指導のもと、カンボジア人スタッフが黙々と作業をしている。毒ヘビやサソリのいる地帯だ。

 地雷を取り除いたエリアには、道路が建設され、たくさんの住居が建てられ、キャッサバやサトウキビ、マンゴー、バナナなどの果樹園が広がる。日本企業も続々と進出しつつあるそうだ。

 住民の生活は以前より格段に向上している。<JMASはカンボジア国民のために善をなしているとの思いを強くしました>。メールにあったこの一文に、心を打たれた。

 日の丸を背負って闘っているのは、オリンピック選手やサッカー日本代表だけじゃない。

 カンボジアでは、1993年の総選挙で一応の民主政権が誕生するまでの長い間、勢力が入り乱れる内戦がつづいていた。いまも無数にのこる地雷は、そのころ敷設されたものだ。

 アフガニスタンなどもそうだが、地雷は街や農地を奪っている。地雷を取り除くには専門技術と細心の集中力が必要となる。

 谷川さんが統括しているカンボジアでのJMASの任務は、現地の作業員にその専門技術を伝授し、やがては自力で作業できるようにするのが目的だ。

 ぼくはインドに駐在しているころ、東南アジアをしょっちゅう訪れた。でもカンボジアにはまだ行ったことがなく、どんなお国柄か、谷川さんがどんな日常を送っているか、大いに興味がある。

 まず住居だが、首都プノンペンに構えた事務所の2階にある、25畳くらいのバストイレつきの部屋に暮らしている。キッチンは1階にあるが、食材や食器、調理器具は「管理上」2階の自分の部屋においているため、不便なことこのうえないようだ。

 ある週末には、汗だくになりながら、プノンペン市内を3時間ほどかけて歩き回った。<まあ、無秩序、喧噪で汚く、モラル崩壊。歩行者優先という考えはつゆもなく、何回か車やバイクにはねられそうになりました>

 <日本の常識は非常識。カンボジア人の行動スタイルに切り替え安全を保っています>

 ぼくも、初めての海外出張でフィリピンへ行ったときに、混沌、無秩序の洗礼を受けた。「赤信号では車が止まる」などという常識は通じず、交差点へ猛スピードで突っ込んで来る車のあいだを縫って反対側へ渡るしかない。

 信号のないところで横断しようとすれば、さらに命がけの緊張を強いられる。

 そのとき、日本人の野生本能がつくづく失われていることを痛感した。途上国では、ふつうの日本人が交通弱者になる。生き馬の目を抜くのは、東京ではなくプノンペンのようなところなのだ。

 救いは、首都に日本人医師、歯科医がいることと、日本料理店や日本食材販売店があることだ。途上国での生活で、これはとても重要なポイントとなる。

 <昨日は、カンボジアへ来て初めて、しめサバとサケのハラスで冷酒を飲みました。タイミングよくNHK国際放送で、隅田川の桜の情景に滝廉太郎の『花』が流れており、思わず目頭が熱くなってきました>

 わかる、その気持ち。

 --毎週木曜日に更新--

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