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目に見えないもの 『ゴーイング マイ ホーム』

 わが家のテレビに接続されているHDDレコーダーの【録画一覧】ボタンを押すと、韓流ドラマのタイトルがずらーっと並んでいる。そのあいまに、日本のドラマ、バラエティ番組が、肩身を狭くしておさまっているのだ。

 かみさんは、会社での仕事と家での家事をしている以外は、寝ているか韓流ドラマを観ているか(~_~)というシンプルな生活を送っている。

 そのかみさんが録画しておいてくれたフジテレビ系列『ゴーイング マイ ホーム』を、何気なく再生してみた。タイトルから考えて、よくある退屈なホームドラマだろうと勝手に思っていたのだが、第1回を観て引き込まれた。

 CM制作会社で中間管理職の悲哀を味わっているプロデューサー坪井良太(阿部寛)が、1週間の有給休暇を取り、小学4年生のひとり娘萌江(蒔田彩珠)を連れ、長野県で倒れ入院している老父栄輔(夏八木勲)のお見舞いに行く。

 妻の紗江(山口智子)はCM制作などで活躍している人気フードコーディネーターをしている。今度は映画で使う料理を作るためロケに帯同するので、その間、良太が萌江の面倒を見ることになったのだ。

 萌江は、料理のプロ紗江が作ってくれた弁当のおかずをクラスメートに売ってお小遣い稼ぎしていたことが担任にばれ、1週間の“謹慎”を言い渡されていた。

 父娘が訪れる信州の場面は、エンドロールを見ると、南部・伊那谷にある伊那市と辰野町で撮影されている。制作は、なぜか関西テレビなのだが。

 映像が素晴らしい。山懐に抱かれた田舎の町で、父娘は地元の人たちと知り合う。会話のシーンでも、あえて顔をクローズアップせず、カメラを遠くに引いて風景のなかで撮るケースが多い。それが、なんとも言えない抒情性を醸し出している。

 是枝裕和監督の描こうとしている世界観が、ぼくには染み渡る。特に、27~28歳の丸2年間、伊那市に新聞記者として駐在し、暖かい地元の人たちと触れ合った体験があるからかもしれない。

 良太と萌江は、大地という少年(大西利空)とその母親菜穂(宮崎あおい)と出会う。大地は人の形をした未確認小動物「クーナ」を捕まえようとしている。というか、地元の人たちはクーナの存在をなんとなく信じているようなのだ。

 良太、萌江、菜穂、大地の4人は、通称「クーナの森」へ探しに行き、小さな赤いとんがり帽子が大木の幹に引っかかっているのを見つける。子どもたちは「クーナが被っていたものでは」と胸をときめかせる。

 良太は「誰かのいたずらかもしれない」と言いながらも、ひょっとしたらと思い始め、上着の内ポケットに大切に仕舞う。

 ドラマの第3回で良太は、『古事記』の出雲神話で、オオクニヌシが国造りをしたとき、小さな神様スクナヒコナが一緒に活躍をし、そこから日本各地に小人伝説が生まれたことを知る。

 『古事記』上巻によると、スクナヒコナはカムムスヒという神の「手の指のあいだから漏れこぼれた」子どもで、小人神とされる。

 ドラマで出てくる「クーナ」は、スクナから名付けられたのかもしれない。

 たまには、テレビでリリカルな物語を観るのも悪くない。阿部寛さんがお得意のユーモラスな味を醸し出し、宮崎あおいさんがファンタジーに一段と彩りを添えている。

 うちのかみさんや全国の韓流ファン・オバタリアンには悪いが、韓流現代ドラマをチラチラ観る限り、『ゴーイング ー』のような感性あふれる作品には出会ったことがない。

 ドラマとしては、フジテレビ系列で2008年秋に放映された倉本聰脚本の『風のガーデン』以来の秀作だと思う。あのドラマは中井貴一さんががんに冒され、それを父親役の緒方拳さんが看取る話だった。放送開始直前に緒形さんが急逝し、遺作となった。

 2012年10月30日の読売夕刊が、秋の連ドラ記者座談会を載せていた。恒例の企画で、今回は34歳から48歳までの男性記者5人が、5点満点で15の作品を評価している。

 『ゴーイング ー』は、20点で2位だった。

 「映像とテンポが新鮮で、ドラマに対する固定観念を払拭してくれた」
 「状況説明のためのセリフが極力排されているし、ファンタジーの予感もある」
 「さえない中間管理職でパパ役の阿部寛が滑稽で、ずばぬけてるね」

 高評価がつづくが、「でも、彼らが未確認生物探しに奔走する設定はビミョー」という声もある。座談会に女性記者が参加していれば、またちがった感想もあっただろう。

 ぼくたち一家がドイツのボンに住んでいたとき、わが家から「七つの山」が遠くに見えた。『白雪姫と七人の小人たち』の舞台になったところだ。コロボックル、ドワーフ、ホビットなど、小人伝説、小人の童話は世界中にある。

 日本の芸能人でも、小さいおじさんを見たことがある、などと言う人はたくさんいる。ひょっとしたら、ひょっとして――。

 病床で意識を回復した老父栄輔は、息子の良太に言う。

 「世界は見えるものだけで出来ているんじゃないんだよ」

 --毎週木曜日に更新--

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