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馬肉はNG、馬肉はOK

 混み合う店内では、そば打ちの実演が行われていた。長野県から、信州そばの職人さんたちが、空路、そば粉や道具を持参したという。それだけではない。テーブルには馬刺しが出て来て、集まった人たちは思わず声を上げた。

 ぼくたち一家がドイツのボンに住んでいるとき、ヨーロッパ屈指の日本料理店『上條』で、ドイツ長野県人会の発足記念パーティーが開かれた。その店のマスターは、長野県塩尻市の出身だった。

 ぼくのかみさんは長野市出身で、その夫も“準長野県人”と、パーティーに招かれた。『上條』には40人くらいが集まり、もちろん、県歌『信濃の国』を大合唱した。

 「ドイツで馬刺しが食べられるなんて思ってもみなかったな」

 「手打ちの信州そばがあるだけでもすごいのに」

 「いったいどこで手に入れたんですかね。信州からわざわざ持って来たんだろうか」

 話題は、テーブルの馬刺しに集中した。マスターの上條さんは、少し得意そうな顔をして言った。

 「実は、ケルンで馬の生肉を売っているんですよ」

 大聖堂で有名なボンの隣の都市だ。

 その時まで、ぼくは、ヨーロッパの人たちが馬肉を食べるとは知らなかった。どこの国へ出張しても、馬刺しや馬肉料理にはお目にかかったことがない。しかし、探せばあるものだ。さすが、食にこだわるマスターだった。

  ぼくにとっても、馬刺しには懐かしい思い出がある。1980年代初め、長野県南部の伊那市に、駆け出しの新聞記者として駐在していた。そこは馬の肉を食べる本場だった。

 馬肉を食べるのは、熊本県や福島県会津地方と伊那地方に限られているとされていた。今でこそ、匂いもクセもなく栄養価が高くてヘルシーだということが伝わって、馬刺しを食べることも珍しくなくなったが。

 伊那で一番美味い馬肉料理は「おたぐり」だった。馬の内臓をしっかり洗い、それをコトコト煮込んで味噌などで味をつける。馬の腹から長い内臓を手でたぐって出すところから、おたぐりと呼ばれる。これはさすがに、東京やほかの地方で食べたことがない。

 モツ煮込みといえば、ふつうは豚の内臓を使うが、おたぐりはひと味もふた味もちがう。独特の歯ごたえがあるのに食べやすく、味に深みがある。

 ぼくの妹が郷里の出雲から遊びに来たときも、そのおたぐりが最も美味しいと言われている居酒屋に連れて行った。

  「これは病みつきになるね」

 嗚呼、この季節、焼酎のお湯割りや日本酒の熱燗をやりながら食べると、たまらない。

 イギリスで、2013年に入って、 牛肉の加工食品から馬肉が検出され、国民のあいだで大騒ぎになっている。王室と馬は切っても切れず、競馬発祥の地でもあり、馬の肉を喰らうなど想像もできないらしい。

 馬肉には薬物が投与されているという報道もある。特に、スーパーマーケットの多くの食品の中から、馬肉が検出された。ロンドン市内では、馬肉混入のニュースが流れた1月中旬以降、昔ながらの精肉店では売り上げが約10%伸びたという。「風が吹けば桶屋が儲かる」に近いエピソードではある。

 イギリス以外の20か国でも牛肉・馬肉の食品偽装が確認され、波紋はヨーロッパ全体に広がっている。

 でも、わが家の近所のスーパーで、ポーランド産の馬刺しブロックが、真空パックで売られていたことがある。ポーランドには2回行ったが、現地で馬肉を食べたことはない。とはいえ、かの地は、知る人ぞ知るグルメの国であり、きっと美味しい馬肉料理を楽しんでいるにちがいない。

 それとも、現地では決して食べないが、ある業者が老馬の処理に目をつけ、馬肉を食べる日本へ特別に輸出しているのだろうか。

 少なくとも、フランスでは馬肉が好んで食べられているそうだ。

 食品偽装といえばたしかにそうだが、これは食文化の違いなのだろう。フランス人から見れば、イギリスなどの状況は、から騒ぎに見えるのかもしれない。

 別にイギリス人の了見が狭いというわけではなく、どの国だって自分たちが食べない物をよその国の人たちが食べていると、すごく抵抗を覚えるものだ。

  韓国や中国で、もし、犬鍋料理などが出て来れば、たいていの日本人は思わず箸を止めるだろう。

 問題は、日本やノルウェーの捕鯨問題にもつながる。

 ヨーロッパでの騒動を知り、馬刺しが食べたくなった。にんにくや生姜をおろし、醤油で食べれば最高だ。おたぐりがあれば、言うことはない。

 うちの子どもたちが中学校に通っていたころ、英語教師のイギリス人青年を、わが家に呼んで、日本食をご馳走したことがある。今度そういう機会があれば、ぜひ馬刺しを食卓に乗せてみよう。げっ、と言うだろうか。

 --毎週木曜日に更新--

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