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心の隙を衝かれてしまった

 あの夜から2か月半が過ぎた。ショックが大きくてこれまで書けなかった。

 2013年2月8日の午後7時10分ごろ、日課のジョギングから帰って来た。かみさんは、いつものように、ガレージのシャッターを開けたまま車で仕事に行っている。

 玄関の鍵を開け、2階のリビングへ汗だくで入った。暖房はつけたままだったのに、なぜかドアが開いている。閉め忘れたのかな、そんなはずはないのに、と思いながら中へ入り照明をつけると、なにか違和感があった。

 家庭薬などを入れた引き出しが開いている。その下の銀行通帳をしまっている引き出しも開いている。

 それでも、なにが起きたのかすぐには思い至らなかった。息子でも帰って来て、開けっ放しにしているのか。名前を呼んでみようとして、やっとわかった。

 室内の引き出しはすべて開けられていた。あわてて、通帳とキャッシュカードを調べると、そのままあった。秘密の場所に置いている現金もあった。

 でも、空き巣に入られたことはまちがいなかった。いったい、どこから入ったのか。1階の和室へ降りてみると、冷たい風が顔に当たった。和室のガラス戸が開いている。

 なにが取られたのか。かみさんに電話し、つづいて110番した。

 3階にも貴重品があったが、荒らした跡は感じられなかった。サウナスーツを着たままで、汗がぽたぽた床に落ちる。

 そのうち、かみさんが顔を引きつらせて帰った来た。真っ先に、宝石貴金属類を置いていた棚を調べると、ダイヤの婚約指輪や、ドバイで買った純金のネックレス、タイで買ったルビーのイヤリングなどがごっそりなくなっていた。

 食卓に置いてあったかみさんの大きな財布からは、すべての札が抜かれていた。ぼくは、仕事で必要な大金をその日銀行で下ろし、バッグに入れていたことを思い出した。

 あれを盗まれていたら、大変だ。バッグを確かめると、幸い手をつけたようすはなかった。そのとなりの食器棚の引き出しはすべて開けられていが、泥棒も、無造作に置かれたバッグのなかに大金があるとは思わなかったのだろう。

 やがて、警察官たちがパトカーのサイレンを鳴らさずにやって来た。侵入ルートを聞くと、鑑識係がふたりがかりで、フローリングの廊下に這いつくばって足跡がないかどうか調べていった。

 別の刑事が、ぼくたちに事情聴取する。仕事でさんざん刑事さんたちに取材したことはあるが、被害者の立場で話をするのは40年ぶりだった。

 学生時代、下宿の部屋にロックしないままほんのちょっと外に出ていたあいだのことだった。実家から送ってきたばかりの現金書留からキャッシュを抜かれ、小さな鏡も無くなっていた。

 すぐに110番し、鑑識係がドアや机の指紋を採取していった。警察の人たちが引き揚げると、同じ下宿に入ったばかりの青年がノックしてきて、ぼくがやりました、という。

 意外には思わなかった。鏡がないのに気づき、あいつがやったんじゃないか、というひらめきのようなものがあった。いつも共同トイレの近くにあった鏡の前で髪をなでていた。

 盗んだあとすぐに外出したが帰って来たら警察がいて恐くなった、とそいつは言った。現金と鏡は、すぐに返してもらった。

 もう警察沙汰になっているのだから自首したほうがいい、と諭し、警察までいっしょに付いていってやった。出来心の初犯ということで、ぼくは被害届を撤回し、青年はたしか書類送検もされないで済んだ。

 今回の空き巣はまちがいなくプロだった。リビングには計5本の腕時計もあったが、そのうちブランドものの1本だけを持って行った。かみさんのアクセサリーも、イミテーションだけはきっちり残っていた。部屋の照明はつけず小さなライトで物色したのだろうが、鑑識眼はあきれるほど確かだった。

 もともと、空き巣被害には遭いにくいはずだった。

 玄関前の道路は、けっこう人通りがある。ガレージも通りから丸見えだから、シャッターを開けっ放しのほうがかえって安心だ。家の裏には高い塀がありその向こうはマンションで、家の裏でこそこそしていれば怪しまれる。

 両側には民家がありそっちからは入れない、と思い込んでいた。

 しかし、最近、隣家のひとつは壊されて駐車場になった。ぼくたち夫婦は、それと空き巣の可能性をむすびつけて考えることはまったくなかった。

 侵入されたあと、現場を見れば、駐車場の塀は低く子どもだってすぐに越えられる。しかも、2週間前、和室のエアコン工事をしてもらったとき、かみさんはガラス戸をロックし忘れていたが、内側の障子で死角になっていた。

 空き巣は下見し、わが家の生活パターンをよく知っていたとしか思えない。いまは夫婦ふたり暮らしで、車がない夕方なら旦那もジョギングで家を空けるから留守になる、と。

 盗難保険である程度は保証されたが、思い出の品は取り戻せない。心の隙というのは、ふり返ってしか実感できないものなのだろう。

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