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プロ野球のスタンドで、もうひとつの戦い

 プロ野球のペナントレースが、いよいよ開幕した。

 巨人と日本ハムの交流戦は、二刀流の大谷翔平選手が「野手で来るか、投手か」と注目される。長嶋茂雄、松井秀喜両スーパースターの国民栄誉賞も決まった。5月5日には、松井元選手の引退セレモニーが東京ドームで行われる。背番号「55」だから。

 今シーズンは、例年以上に楽しみが多い。

 東京ドームの巨人戦を、毎年1、2回は観に行く。ぼくのささやかな自慢は、自腹を切ったことが一度もないということだ。あるときはネット裏の特等席、あるときは2階外野席のチケットを、某所で入手し、いろんな角度から観戦する。

 かみさんと駅ビルのスーパーで、お弁当と焼き鳥などを買って持ち込む。飲み物は禁止されていて、ゲートで手荷物をチェックされるが、弁当類はOKだ。

 野球というスポーツは、けっこう「間」がある。その間の楽しみが、ビールの売り子嬢たちの観察だ。メーカーごとのカラフルなユニフォームを着て、重さが15キロはあるというタンク式樽を背負っている。きつい階段を上り下りしながら売り歩く重労働だ。基本給プラス歩合給で、売れなきゃ稼げない。

 500mlのカップ1杯が800円だ。これが高いか安いか。生で巨人戦を観ながら生ビールを飲めるのだから、リーズナブルだろう。

 2012年のある試合で、ぼくたちが席に着こうとしたとき、横の席に早々と座って弁当を広げているおばあちゃんがいた。連れはいなかった。売り子嬢たちが登場すると、おばあちゃんは真っ先に手を上げ、ビールを買った。弁当をつまみに、ぐいぐいいく。

 やるなあ、おばあちゃん。巨人ファン歴半世紀っていう感じかな。弁当を平らげ、ビールも飲み終えると、ライトスタンドのオレンジ軍団に合わせて応援歌を歌った。

 そのころ、孫らしいお嬢さんが、遅れてやって来た。ふたりの会話を、聞くともなしに聞くと、おばあちゃんは73歳とわかった。

 ひとりで観戦するより、ふたりのほうが楽しいに決まっている。おばあちゃんは、手提げ袋から弁当をふたつ取り出し、ひとつを孫娘に、もうひとつはなんと自分で開いた。

 そして、右手を高々と上げ、ビールをもう一杯買った。さすがに、ふたつ目の弁当は、おかずをつまみにしてご飯は残すだろう。そう確信したのに、完食してしまった。

 なんという健啖家。小柄で細身なのに。

 おばあちゃんじゃなくても、スタンドでの観戦ビールはこたえられない。

 ぼくがドームへ通って観察する限り、ビジュアル性をもっとも重視しているのはサントリーだ。『ザ・プレミアム・モルツ』の売り子嬢には、女優やアイドルの卵が専属でやっているんじゃないかと思うくらいの子がいる。

 球場スタンドの“ビール戦争”を取材したら面白いだろうな、と前々から思っていたら、週間ポストの2013年4月5日号が記事にした。タイトルでそそる。「ビールの売り子が客に教えたくない超絶テク」。

 全国に野球場は数々あるが、ビールでも主戦場は東京ドームだという。各メーカーの国内での売り上げに大きく影響するらしい。

 「外野席には応援団がいるので、その大所帯をつかむにはやっぱりちょっとお色気のあるセクシー系のお姉様が強いってことかなぁ。・・・外野席には各社がエース級を投入してるんですよ」(現役売り子・Aさん)

 主戦場は、もうひとつあるそうだ。バックネット裏は、企業が接待用に年間席を確保しているケースが多い。接待相手はちがっても接待する担当者はおなじだから、その人と仲良くなっておけば、まとめて何杯も買ってもらえる可能性が高い。

 ベテラン売り子嬢は「縄張りとお得意様」を抱えていて、新人が事情も知らず露天商の言う“シマ”で商売すると、トラブルになりかねない。クラブのホステスまがいの世界が、健全なプロスポーツの場で展開されているのだ。

 ゲーム開始から1時間ほどは、飛ぶように売れる。そしてしだいに売れなくなり、午後8時ごろにはさっぱりさばけない。だから、巨人の杉内投手のように四球が少なく、試合のテンポがいい投手が、売り子嬢にも歓迎される。

 週間現代4月6日号のグラビアでは、NHK大河ドラマ『八重の桜』で敏姫役を演じた女優の中西美帆さん(24)が、篠山紀信さんに撮られている。

 高校時代以来、「1日1本必ず映画を観る」と誓いを立てて、実践してきた。映画代は、横浜スタジアムでビールの売り子をして稼いだという。彼女目当ての常連客もいて、1日に525杯という浜スタの最高売り上げを記録したというから大変なものだ。

 万一、AKB48が、東京ドーム、ビール各社と提携して、“1日売り子嬢”になったら面白いだろうなぁ。対戦チームやペナントレースの成績とはまったく関係なく、チケットはプラチナと化し、ネットオークションでばんばん値がつり上がるだろう。

 ドーム前には、御法度のダフ屋も久しぶりに出没するかもしれない。

 秋元康さんは、ほんとにそんなことをやりそうだから、まんざら、夢物語とも言えないだろう。

 --毎週木曜日に更新--

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