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思わぬときに、映画『ベン・ハー』と再会

 セントラル・リーグのペナントレースは、この2013年、巨人がぶっちぎりで優勝するのだろうか。4月5日の対ドラゴンズ戦も、早々と試合が終わった。

 たまたま帰って来ていた息子と、テレビ観戦していた。試合が終わると、息子は、なんにも言わずにチャンネルを変えた。

 一瞬で、映し出された映像がなにかわかった。映画『ベン・ハー』の有名な戦車レースがはじまるところだ。BSジャパンのロゴが画面隅に映っている。

 チャールトン・ヘストン演じる主人公ベン・ハーが、白馬4頭立ての2輪戦車に乗り、仇敵メッサーラの黒馬戦車などと、競技場を走り回って栄冠を競う。

 ぼくたち一家は、ローマ郊外にあるその撮影現場を訪れたことがある。アメリカで作品が公開されてから36年も経っていたが、競技場は、ほぼ当時のまま残されていた。

 ペンペン草が茂り、スクリーンに映し出される華麗な雰囲気はもちろんない。それでも、ここであのシーンを撮影したのかと、感動がよみがえった。

 それから数年後、銀座でリバイバル上映されることを知り、かみさんと息子を連れて観に行った。3時間22分という超大作だが、どんなシーンを切り出しても、一幅の名画のようだ。

 巨匠・黒澤明監督は、「『赤ひげ』なんて『ベン・ハー』の1カットにもおよばない」とコメントしたことがあるという。

 『ベン・ハー序曲』をはじめとするサウンドトラックのメロディーも、深くぼくの脳裏に刻まれていた。

 当時のレートで54億円もの制作費が投入されたという。それがどれだけの額か、画面を観れば誰でも想像できる。

 アカデミー賞11部門を獲得した。この記録は『タイタニック』(1997年)、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003年)がタイ記録を樹立したが、まだ部門数で破られてはいない。

 息子は、銀座へ連れて行ったときまだ小学生で「意味がよくわからなかった」と、いま語る。ユダヤ人ベン・ハーの波瀾万丈の半生を描く。後ろ姿だけのイエス・キリストが何度か登場し、ゴルゴダの丘で十字架にかけられ、処刑される。

 ローマ帝国やユダヤ教、キリスト教の歴史をある程度は知らないと、作品の深いところはなかなか理解できないだろう。

 作品の撮影場所へ行き、ぼくが『ベン・ハー』のすごさについて語ったことを、もうすぐ26歳となる息子はよく覚えていた。だから、なにも言わずチャンネルを変えたのだった。

 息子が一番感心したのは、戦車レースをふくめすべてが、当然ながらフィルムで撮られていることだった。騎手が地上に転落し、突っ込んでくる後続の戦車に巻き込まれ、一瞬にしてぼろくずのようになるシーンなど、いったいどうやって撮影したのだろう。

 アナログならではの迫力と厚みが、作品ににじみ出ている。

 「そういえば、ウォルト・ディズニーが、これからはすべての作品をCGで撮るそうだよ」

 息子は、そんな情報も教えてくれた。あの独特の手描きアニメの触感が、はたしてCGで再現できるだろうか。CG作品が出はじめたとき、アナログでは絶対不可能な映像に度肝を抜かれた。いまでは、しょせんCGだから、と冷めた目で観ることも少なくない。

 そういう時代だからこそ、テレビ東京系のBSジャパンがさりげなく放映した『ベン・ハー』は、ある意味で新鮮に思えた。

 無実ながら反逆罪に問われたベン・ハーが、ガレー船漕ぎをさせられているあいだに、母と妹はハンセン病にかかり、皮膚はただれ人に顔を見せられないほどになる。

 ぼくは、かつて、フィリピンのクリオンというハンセン病の島へ取材に行ったことがある。首都マニラから10数人乗りのマイクロバスみたいな飛行機に乗って、となりの島へ飛び、そこから小さな船でクリオン島へ渡った。

 その島には、ハンセン病患者と医療関係者だけが暮らしていた。症状の重い患者の手足の指は、ほぼ根元まで溶けてしまっていた。この病気の感染力はきわめて弱いといい、ぼくは患者さんたちと握手してあいさつをした。

 『ベン・ハー』のラストシーンでは、キリストが復活するとき、母と妹にも奇跡が起こる。全身の激痛のあと、顔や手足はすっかり元通りになり、帰還していたベン・ハーと強く抱き合う。

 日本での一般公開は1960年で、これに先立ち東京でチャリティ上映が行われた。このとき昭和天皇・香淳皇后が招かれ、日本映画史上初の「天覧上映」となったそうだ。ぼくが初めて観たのは、それから約10年後で、高校時代のリバイバル上映だったと思う。

 『ベン・ハー』には原作があり、『キリストの物語』という副題がついている。キリスト教に関心を持つようになったのは、この映画がきっかけだった。

 巨人が圧勝していなければ、『ベン・ハー』と“再会”することもなかった。

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