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三遊間に飛ばす夢 栄光の巨人軍

 「バッター 4番サード長嶋茂雄 背番号3」

 東京ドームに女性アナウンスの声が響き渡ったとき、テレビ中継を見守っていたぼくは思わず涙をこぼした。いまでは球場のアナウンスのしかたも変わったが、あのころは、たしかこのように告げていた。ふたたび聞けるときが来るとは思わなかった。

 長嶋さんが巨人軍に入団したのは、ぼくが5歳のときだった。それからずっと、長嶋さんはぼくたちのスーパースターだった。

 長嶋茂雄、松井秀喜両氏へ、2013年5月5日、国民栄誉賞が授与された。そのあと、始球式が行われた。

 長嶋さんは背広を脱ぎ巨人のユニフォームの上着を着て打席に入った。当時とおなじで、背番号3の上に名前はない。松井さんは、上下ともすっかりユニフォームに着替えマウンドへあがった。背番号55の上にはMATSUIとあった。

 審判役の安倍晋三首相も巨人のユニフォームを着ていたのには、首をかしげたが。

 長嶋さんの栄誉賞は、誰も文句のつけようがない。というより、遅きに失した感じは否めない。授与するいいタイミングがなかったのだろう。松井さんについては、日米で大活躍し引退するいまが一番良かった。

 ぼくたち<巨人・大鵬・卵焼き>世代では、よく長嶋タイプか王タイプかということが話題になった。つい先日、杯を交わした友人もそのタイプ分けを口にしていた。

 つまり、天才肌か努力家かということだ。でも、授賞に際しての回顧映像を観ていると、天才とされた長嶋さんも実は大変な努力型だったことが改めて実感できる。

 日々の素振りの数は半端じゃなかった。愛弟子・松井選手にも、マンツーマンで素振りを指導した。

 松井さんがメジャーリーグでスランプに陥り、国際電話で長嶋さんに教えを乞うたことがあったそうだ。長嶋さんは電話をつなげたままで松井さんに素振りをするように言った。5回目に振った「音」を聴いて、「いまのだ。いまのでいい」と教えたという。松井さんはふたたび打てるようになったというのだからすごい。

 「燃える男」「絵になる男」ナガシマと言えば、1959年、初の展覧試合で阪神の村山実投手から打ったサヨナラ本塁打が、必ず持ち出される。

 個人的に決して忘れられないのは、1973年7月1日の巨人対阪神戦だ。その正確な日付は忘れていたが、インターネットのおかげで簡単に調べることができた。

 ぼくが大学へ入って2年目の夏だ。あえてテレビは持っていなかったので、ひとり下宿でラジオを聴いていたのだと思う。

 阪神の投手は上田次朗(当時の登録名は上田二朗)だった。サイドスローやアンダースローからコントロールのいいボールを投げ、変化球の切れもよく、プロ1年目から先発ローテーションに入っていた。

 1973年には結果として22勝を挙げ、オールスターゲームにも出場した。まさに、上田投手にとっては選手生活のピークと言っていい年だった。

 7月1日のナイターで、捕手はいつものように田淵幸一さんだった。9回1アウトまで、2ー0で阪神がリードし、あとふたりでノーヒットノーランという大記録になる。

 次のバッターは、3番の王選手だった。ぼくは、王さんには打てないような気がした。ノーヒットノーランを阻止するとすれば、4番の長嶋さんだろうと思った。

 王選手は凡退した。背番号3は、大観衆の期待を背負ってバッターボックスに入った。球場の興奮は最高潮に達した。ラジオからも、それは十分伝わった。

 巨人ファンにとって、もう試合の勝敗は関係なかった。ノーヒットノーランという不名誉を阻止できればそれでいい。

 たしか直球だったと記憶している。長嶋選手はバットを一閃させた。

 ぼくの記憶が正しかったことを、今回、ネット情報で確認できた。上田投手は、それまで3打席続けて長嶋選手を変化球で打ち取っていた。だから、長嶋さんは4打席目は変化球狙いに切り替えるはずと考えていた。田淵捕手は「それでも直球狙いで来る」と読みが合わなかったが、結局、上田投手の考えを尊重し直球で勝負した。

 打球は、三遊間の真ん中を抜けていった。

 翌朝、ぼくはスポーツ新聞を買いに走った。一面に踊った大見出しにはこうあった。

 「三遊間に消えた夢」

 一塁ベース上から、長嶋選手が上田投手に右手を差し出すようにし、声をかけている写真が載っていた。ネット情報によれば、こう言ったのだという。「ジロー、辛抱せいよ」

 上田さんはのちに「もちろん悔しい思いもあったが、長嶋さんと真っ向勝負したすがすがしさがある」と語ったそうだ。

 その年、巨人は9年連続日本一、いわゆるV9を達成した。

 長嶋選手が引退して監督に就任した翌年、松井さんが生まれた。

 なぜ、長嶋さんが「記録より記憶に残る男」と言われるのか、ぼくの子どもたちにもこういうエピソードを伝えていきたい。

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