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2013年10月

古刹、弁慶、紅白餅までは良かったが…

 出雲に鰐淵(がくえん)寺というとても古いお寺がある。山陰屈指の紅葉の名所としても知られる。

 このお寺で『武蔵坊弁慶まつり』が行われると聞いて、かみさんと出かけてみた。ぼくの一家はこれまで東京近郊に住んでいたが、出雲の実家でひとり暮らしをしていた母(84)がダウンし、父(91)も高齢者施設に入ったままなので、夫婦でUターンした。

 鰐淵寺は、家から車で20分余りと近いが、山深い地にある。訪れるのは、高校時代にクラブで山越えをしてたどり着いて以来、43年ぶりになる。佇まいは昔とほとんど変わらなかった。鰐淵寺川という清流に沿うように、山の緩やかな斜面を切り開いて大小の伽藍、坊が建っている。

 弁慶の一行は、川のやや下流にある駐車場を出発し、本堂の根本堂へ登る入り口にあたる大慈橋の上で「願行」を行うという。伝承によれば、弁慶は仁平元年(1151年)3月3日、いまの松江市に生まれ、18歳で鰐淵寺に入り3年間修行した。やがて比叡山に登り、京の五條で牛若丸と出会う。

 大慈橋のたもとでは、本格的な一眼レフカメラを手にした人たちが待ち構えている。広島県からバスでやってきたふたつの写真クラブのメンバーだった。他に、観光客もたくさんいるが、弁慶一行はなかなか現れない。

 顔役らしいステッキを突いた初老の男性が、たばこをふかしだした。境内は禁煙のはずだが、こともあろうに地元の人間がそういうことをしたらまずいだろう。かみさんと顔をしかめていたら、吸い殻を鰐淵寺川にぽいと投げ捨てた!

 もうひとり、ホラ貝を手にしたおじさんも、少し離れたところで吸い出した。そのひとは、黒いスーツを着た観光協会の女性にたしなめられ、足元で踏み消した。吸い殻は、その場所に捨てられたままだった。

 かみさんは、ポイ捨て犯をにらみつけている。鰐淵寺は、出雲の誇る大変な文化遺産だが、思慮に欠ける行いで台無しだ。観光客はみんなおとなしく待っているのに。Uターン市民として恥ずかしかった。

 かみさんは、初老の男性がどんな行動を取るかじっと観察していたらしい。「たばこを吸い終えたあと、川に向かって立ち小便したのよ!」。憤慨を通り越してあきれている。

 背中に釣り鐘を背負い、首に大きな数珠を三重に巻いた弁慶を先頭に、祭りの行列がやって来た。

 寺の銅鐘には、平安末期の寿永2年(1183年)、いまの鳥取県桜山の大日寺上院のものだったことが刻まれている。それが鰐淵寺の所蔵となったのは、弁慶が一夜にして持ち帰ったからと伝えられる。各地にある弁慶伝説のひとつだ。

 弁慶には、白い着物に墨染めの衣を羽織った僧兵姿の中学生14人と華やかに着飾った稚児数人がつづいている。

 橋の真ん中で、弁慶が大きな身振りで大声を張り上げた。シャッター音がいっせいに鳴る。稚児のなかには、怖くて泣きべそをかく者もいる。

 一行は、観光客の群れをかきわけるように石段を上りはじめた。最後の石段は108つあり「百八つ煩悩の行」と名づけられている。弁慶と僧兵らは、「ひとおつ、ふたあつ」と大声で数えながら上っていく。弁慶は張り切りすぎたのか、途中で声が涸れてしまった。

 やっと本堂へ着き、一行は横に整列した。住職の読経がスピーカーから流れる。ぼくたちは、境内で見守った。かみさんが、頼みもしないのに、ぼくに代わって法被を着た男性に取材している。地元には38人のメンバーからなる『弁慶会』というのがあり、今年の弁慶役にはそのなかの前厄の人(41)がなったそうだ。

 次の儀式は鐘撞きだった。雨で中止となった去年の弁慶役が最初に撞き、今年の弁慶、僧兵代表がつづいた。

 鰐淵寺の創建は、聖徳太子が摂政として活躍していた推古2年、西暦でいうと594年と伝えられている。

 智春上人が天皇の眼病平癒を祈願しその霊験によって病魔が退散したため、都から遠く離れたこの山奥に寺院が建てられたという。

 ひろさちやさんは、2000年、古寺巡礼エッセイにこう書いている。「仏法最初の官寺とされる四天王寺の創建の翌年であるから、いかに鰐淵寺が古刹であるかがわかる。これは、古代における出雲族の勢力を示すものでもある。そういえば、出雲大社は裏山を越えてすぐの所にある。そして鰐淵寺は出雲大社の別当寺であった」

 鎌倉時代前期には、杵築大社(出雲大社)の祭事の一翼を担い「杵築と鰐淵は二にして二ならず」と言われていたという。最盛時、境内には三千余りもの坊があり、谷々を埋めていたと伝わる。

 弁慶まつりの掉尾は、出雲地方で祝い事に行う「餅まき」だった。もちろん、かみさんが一番楽しみにしていたイベントだ。本堂の真下で待ち構え僧兵たちのまく餅を拾おうとしたが、ひとつも取れなかった(~_~;)。

 ぼくは紅白の餅10個をゲットし、意気揚々と引き揚げた。吸い殻を拾うのは忘れて。

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