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世界を揺さぶる割に空騒ぎみたいなNSA盗聴疑惑

 アメリカの国家安全保障局(NSA)による盗聴疑惑が大騒ぎになっている。それを横目にみて、職務で盗聴を実行している人たちも大変だろうなあ、と思う。

 もう20年近く前のことになる。ドイツのボンで暮らしているとき、アメリカ大使館に務めているRさん一家と知り合った。息子のM君とうちの息子がアメリカンスクールのクラスメートだったことから、親しくなった。

 ボンは人口30万人ちょっとの地方都市だが、当時は首都機能があった。ドイツ最大の都市はなんと言ってもベルリンで、本来ならそこに首都があるべきだった。しかし、第2次世界大戦後、ドイツは東西に分断され、西ドイツの首都は再統一されるまで暫定的にボンに置かれた。したがって、そこには大統領府や連邦議会、各国大使館などがあった。

 Rさんが働いていたアメリカ大使館は、東西冷戦時代、西側陣営の最前線基地みたいな位置づけだった。

 ぼくがボンに赴任したとき、すでにベルリンの壁は崩れて冷戦は終わりドイツは再統一されていたが、首都機能はまだベルリンに帰っていなかった。そして、アメリカ大使館もその機能を冷戦時代のまま維持していた。

 Rさんは、外交官ではなく日本語で言う通信士のような仕事をしていた。アメリカ大使館には、西ヨーロッパと本国アメリカをつなぐ巨大通信センターがあり、日夜、そこで通信業務に携わっていた。

 Rさんは、ある年末、ぼくの一家をクリスマスパーティに呼んでくれた。ドイツ名物アウトバーンを愛車でぶっ飛ばし、わざわざフランクフルトのアメリカ系スーパーマーケットまで重さ8キロもある七面鳥を飼いに行き、自分で焼いてくれた。

 そのときの雑談だったが、アメリカで国家通信士になるにはきびしい条件があると話してくれた。「扱う通信内容は国家機密だから、寝言でも仕事のことを口にしてはいけないんですよ」

 ジョークだと思っていたら、採用テストで実際にベッドのある部屋に寝て、寝言を言うかどうか試されるというのだ。

 冷戦時代は、それほど緊迫していたわけだ。

 今回、NSAの盗聴疑惑が浮上したのは、中央情報局(CIA)元職員のエドワース・スノーデン容疑者がアメリカの機密文書を各国のメディアを通じて暴露したからだった。冷戦時代だったら大変なことになるところだったのだろうが、今回の件はどこか“空騒ぎ”みたいな感じがある。

 アメリカによって盗聴されていた指導者として真っ先に名前があがったのが、ドイツのメルケル首相だった。野党党首時代の2002年から10年以上、党から支給されていた携帯電話が盗み聞きされていた。

 首相は、この件が発覚すると、オバマ大統領に直接電話して抗議し、今後は盗聴しないことを約束させた。報道陣に対しても、「盗聴など受け入れられない。信頼はふたたび構築されなければならない」と怒りを示した。

 ドイツには、ナチ政権や旧東ドイツが盗聴や密告制度で国民を監視した過去があるだけに、NSA疑惑について敏感だった。

 でも、ドイツ有力紙「ヴェルト(Die Welt)」は、「ドイツは盗聴について怒りの声を上げたが、それはうわべだけだ」と書く。それは、「友好と利害の関係があるからだ」

 ドイツが主導するEUとアメリカはいま自由貿易協定(FTA)の締結交渉を進めていて、それに失敗すれば双方にとってのダメージは計り知れない事情がある。また、ヴェルト紙によれば、ドイツは「マーシャルプラン」や「ベルリン大空輸」でアメリカに恩義があるから、簡単に事を荒立てるわけにはいかない。

 マーシャルプランというのは、大戦で被災したヨーロッパ諸国のために アメリカが推進した復興援助計画のことだ。ベルリン大空輸というのは、1948年、ソ連が西ベルリンに向かうすべての鉄路と道路を封鎖した際、アメリカやイギリスを中心とする西側陣営が行った物資空輸作戦のことだ。

 ヴェルト紙は「傍若無人で自国の利益をすべてに優先する帝国主義的な超大国」としてのアメリカを批判しながらも、アメリカと対等な立場では対抗できず、「NSA事件はヨーロッパの弱さを露呈している」と嘆く。

 NSAは、グーグルやヤフーも傍受していたらしい。そうだとすると、集める情報はとてつもない量になる。かつてはRさんのように手作業で情報を扱っていたが、いまではITの発達によって、機械的に処理されるものがほとんどだろう。もちろん、メルケル首相ら首脳の通話盗聴は、各国語のできる要員を当てるのだろうが、お世話さまなことだ。

 NSAは日本も重点監視しており、対象は「新興の戦略的な科学技術」「外交政策」「経済的な安定・影響」の3分野だそうだ。

 NSAの盗聴は、同盟国をふくむ35か国の首脳に対して行われていた。だが、これまで日本の首相が盗聴されていたという報道は出ていない。何となく、そうだろうな、と思わせられる話ではある。

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