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ウイグル問題――日本の人権・人道感覚

 北京の天安門前で2013年10月末、車が歩道上の観光客ら40人を跳ね飛ばし爆発、炎上した。車内の3人が死亡したほか、跳ね飛ばされた観光客2人も巻き添えで死亡した。けが人の中には日本人もふくまれていた。

 この事件は、ウイグル問題に対する日本のメディアの試金石になった。

 中国には、チベット、ウイグルというふたつの大きな少数民族問題がある。そのうちチベットについて、ぼくにはちょっと苦い思い出がある。

 ドイツで特派員をしているとき、環境問題の取材を進めていた。当然のように、『緑の党』のオフィスも訪れた。担当者と一通り話しが終わって雑談していると、話題がチベットにおよんだ。

 日本では、緑の党といえば環境保護に特化した政党だとみられることが多いが、人権問題にも極めて熱心に取り組んでいる。ヒトラー政権下でユダヤ人やジプシーという蔑称で呼ばれてきたロマ人、障害者などが迫害された歴史から、人権や<人道に対する罪>についてはとても敏感なドイツの国情を背景としている。

 インド北部にはダライ・ラマ14世を最高指導者とするチベット亡命政府があり、ぼくもニューデリー特派員時代に亡命チベット人のデモなどを取材した経験がある。

 しかし、緑の党党員のチベットについての問題意識や知識は、ぼくをはるかに上回っていた。そして資料をどさっとぼくに手渡してくれた。チベットはおなじアジアのことなのに、自分はなんと“平和ぼけ”していたかと恥ずかしくなった。日本では、平和の対語は戦争だが、ドイツでの平和の対語は主に人権・人道犯罪なのだ。

 日本は日中戦争での加害者、中国は被害者というメンタリティがすり込まれている。中国当局がチベット住民をどれだけ迫害していようと「内政のことだから口を出すな」と言われると、日本の政府も国民もそれ以上突っ込まなかった。

 日本のメディアがかなり批判的に中国当局の姿勢を伝え、チベット人の惨状もレポートされるようになったのは、やっと近年のことだ。

 新橿ウイグル自治区での状況もチベットとほとんど共通している。拷問や虐殺は日常茶飯事で、大学でのウイグル語の授業を禁止し、ウイグル族の未婚女性を大量に都市部に送り込んで漢族に同化させてきた。

 従来、日本のメディアは、中国当局の発表を垂れ流し、ウイグル人をテロリスト呼ばわりすることがふつうだった。2012年6月、自治区でハイジャック未遂事件が起こったとき、時事通信は、中国メディアの報道を転電し「『重大なテロ』=容疑者はウイグル族か」と伝えた。

 WEBマガジン『WEDGE Infinity』は、ラビア・カーディル世界ウイグル会議議長のインタヴューを掲載している。議長は、国際社会で「ウイグルの母」と呼ばれ何度もノーベル平和賞の候補になったことがある人物だ。

 「ウイグル人が何か起こしたと彼ら(中国当局)が発表するときにだけ、『テロ』というのです」「『ウイグル人はテロリスト』という誤ったレッテル、中国政府によって貼られたレッテルを信じないでほしい」

 WEDGE Infinityによれば、9.11の後にアメリカが展開した「テロとの戦い」大キャンペーンに中国政府は便乗し、政府に批判的なウイグル人らに「テロリスト」のレッテルを貼り、弾圧を正当化してきた。

 中国当局の横暴なやり方が日本でも広く知られるようになると、メディアの対応も変わってきた。

 今回の天安門での車両爆発炎上事件で、中国政府は例によって「ウイグル族のテロ」と断定し「容疑者」を拘束した。だが、日本のメディアは最初から中国の発表を疑い、ウイグル自治区へも入って現地情報をさまざまな角度から報道した。そして、中国当局の仕組んだ謀略ではないか、という見方も生まれた。

 ウイグル問題で日本が変化するきっかけになった出来事が、少なくともふたつある。そのひとつは、なんと言っても、2009年7月のウイグル騒乱だった。新華社通信によると死者は192人、負傷者は1,721人だった。世界ウイグル会議は、「中国当局や漢族の攻撃によりウイグル人が最大3,000人殺害された」と発表した。日本では初めてといっていいほど、ウイグルの記事やニュースがあふれた。

 ふたつ目が、2012年5月、アジアでは初めて東京の憲政記念館で開かれた世界ウイグル会議第4回代表大会だった。ウイグル族の声を直接聞き、惨状に改めて注意を向けた。ウイグル人をテロリストとした新華社電を注釈なしで転電した翌月の時事通信記事は、日本ではいまや少数派の報道だった。

 世界の主要メディアも、中国当局の立場をそのまま伝えることはしない。CNNなども天安門車両事件をウイグル族に同情的に報じ、中国政府はCNNを名指しで批判した。国際社会では中国に対して「テロに遭った被害国」という同情もあまりなければ、「テロは許せない!」という声も、上がっていない。

 世界ウイグル会議の本部は、ヒトラーの拠点都市だったドイツのミュンヘンにある。

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