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“超VIP”と戦略的でグローバルなパートナーシップ

 山陰の冬は暗い。たまに晴れたと思っても、1、2時間後にはどんよりとする。冬晴れの関東から出雲にUターンしたら、その暗さがひときわ身にしみる。そんな空をながめて、ニューデリーの青空が懐かしい。ぼくたち一家が暮らしていたのは20数年も前だが、あの冬の青空はきっといまも同じだろう。北京や上海とちがって、ひどい大気汚染はない。

 ニューデリーの冬は、日本の中秋のような快晴がつづく。11月の下旬ごろから翌年2月いっぱい温暖な気候に恵まれ、彼の地も冬だけ住むなら最高の気分が味わえる。

 その季節を選んで、天皇、皇后両陛下がインドを公式訪問された。インドでも、昭和天皇をはじめ日本の皇室への関心や憧れは、ぼくたちが想像する以上に強い。2008年、ぼくたち一家がニューデリーを再訪した際、大歓迎してくれたある病院長夫人は、自分の子どもが通う学校に秋篠宮妃殿下が訪問されたときの様子をうれしそうに語ってくれた。

 日本の首相はころころ代わり、海外にいるといま誰が総理なのかわからなくなったりする。その点、皇室、特に天皇、皇后両陛下は国際社会でも圧倒的な存在感がある。

 日本書紀を読めば、とんでもない天皇も過去にはいた。5世紀の雄略天皇は若き日、皇位のライバルになりそうないとこの皇子をだまして射殺し、驚きあわてる皇子の子も惨殺した。宮中に入れようとしていた女性が他の男と通じると、四肢を木に貼りつけ焼き殺させた。御者を問答無用と切り捨てたこともある。

 それは極端な例だが、今上天皇と皇后のお人柄は、日本人にとって幸運この上ないものと言えるだろう。一騎当千以上のスーパー外交官だ。

 だから、ぼくは個人的に、インド側が両陛下をどういうふうに迎えるのか興味があった。日本のメディアも同行し歓迎の様子を報道してはいたが、1992年の天皇訪中時とはちがってそう深刻ないきさつもないため、通り一遍のものだった。

 ネットでインド有力紙ヒンドゥーの関係記事を検索した。「天皇アキヒトの訪問は、原子力協力とは無関係」というタイトルの記事がみつかった。日印両国政府は、かねてから原子力発電設備の輸出入をめぐる交渉をしている。福島の事故で中断していたが、シン首相が2012年に訪日し、交渉が再開された。

 インド外務省東アジア局長は、国内メディアに対し、わざわざ「天皇訪問は、政治的および現在進行中の問題とは切り離すことが肝要だ」と釘を刺した。シン首相自ら空港へ出迎えに行くことを明らかにし、「それはオバマ米大統領の訪問時など極めてまれなケースに限られる。思い出深い訪問になるよう、我々は最大限の儀礼を尽くす」と説明した。そして、「この訪問は、両国の<戦略的でグローバルなパートナーシップ>を計り知れなく拡大し強化するものとなる」と付け加えたという。

 <戦略的でグローバルなパートナーシップ>という表現は、インド側にとって、今回の天皇訪問のキーワードになっていたようだ。

 国際問題を専門とするあるインド人の大学教授は、タイムズ・オブ・インディア紙への寄稿で、インドがこれまでにロシア、中国、ベトナム、イラン、韓国、オーストラリア、そしてアメリカなどと<戦略的パートナー>になっていることを指摘した。その上で、「日本はこれらのリストのなかで急速にトップの位置まで上り詰めた」と分析している。同時に、「日本政府のアジアにおける総合戦略のなかで、インドはいまや死活的な位置を占める」と自負している。

 インド政府は、10年以上前から天皇に招待状を出していたそうで、昨年の国交樹立60周年を記念しての訪問となった。

 寄稿では、50近くの国から天皇が招待されているなか、今回、「天皇に助言する」安倍内閣が訪問先としてインドを選んだのは、「インドとの<戦略的パートナー>関係を、ほとんどスピリチュアルなレベルにまで深めようとする安倍首相の意思がある」とつづられている。

 「スピリチュアルなレベル」というのは、インドの知識人がいかにも使いそうな言葉ではあるが、その正確な意味はわからない。なんだろう。共同通信は社説で「(日印の)安保協力は、両国の『平和主義』にしっかり立脚した上で進めるべきだ」と書いていたが、インドには日本で言う平和主義などない。核武装や中・長距離ミサイル開発を国民の99%が支持し時には戦争も辞さない国柄だから、ここでは関係ないだろう。

 両陛下は、インド東南部タミルナド州の州都チェンナイも訪問された。クルシッド外相が同行したそうで、これも異例の対応だった。なぜチェンナイへ行くのか、ぼくにはよくわからなかった。かつて、ニューデリー特派員をしていたとき、スリランカ出張の帰りに寄ったことがあるが、当時は、人の数だけ多いインドの一地方都市にすぎなかった。

 タイムズ・オブ・インディア紙によると、現在では、タミルナド州に360もの日系企業があり、日本人駐在員は約700人にのぼるという。過去10年ほどで急激に増えたそうで、デリー首都圏とともに日本の経済進出の拠点となっているのだ。知らなかった。

 寄稿の末尾には、こんな言葉があった。「安倍首相はアジアを引っ張る明確なヴィジョンを持っており、インドで政策を立案するエリートたちの間で高く評価されている」

 天皇訪印でちゃっかり点数を稼いだのは、やはり安倍さんだったようだ。

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