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嗚呼、和食

 2014年元旦、出雲にUターンして約100日が経つわが家の食卓には、例年とはちょっとちがったお節料理が勢ぞろいした。数の子とイクラは、北海道で医師をしている甥が送ってくれた。鮎などの昆布巻きは、滋賀県大津市の妹から届いた。いずれも、ハイクオリティーだった。

 かみさんは、昨年夏まで東京近郊の食品会社に勤めていた。会社では、年末、お節料理も作っている。元同僚にかみさんが電話してお節を送ってもらったら、凄まじい量が宅配便で送られてきた。エビ80尾、かまぼこ8本、玉子焼き6本、だし巻き6本、きんとん12パック、田作り2キロ、ミートボール2キロ!いずれも紀文ブランドだ。

 「こんな量、いったい、どうやって食べるんだ」

 ご近所に配ってもまだまだ残っている。

 かみさんが例年通り作ったのは、黒豆、なます、きんとん、筑前煮などだった。

 腎臓病を患い食事制限がきびしくなった母には、残念ながらほとんど味わってもらえないが、和食フリークとも言えるこっちも、食べ過ぎに注意しなければ。

 和食にとりわけこだわるようになったのは、ニューデリー特派員としてインドに駐在して以来だ。当時、彼の地に日本食のレストランや食材店はなく、赴任前に前任者から、大量の日本食材を持参したほうがいいとアドバイスされた。

 身重のかみさんと都内のスーパーを回り、缶詰や乾物、真空パック、醤油、味噌などをごっそり買い集めて船便で送り出した。住みはじめてみて、そのアドバイスは正解だったことが身にしみた。

 インドでは、極端に言えば、カレー以外のまともな食はほとんど期待できなかった。首都ニューデリーは大都会だから、中華やイタリアンの店はあったが、東京の店のようなわけにはいかない。

 インドの地方へ出張したとき、1週間ずっとカレーを食べつづけた記憶がある。さすがに本場だから種類は豊かだったが、出張に同行してくれたインド人の親友プラメシュが言ったものだ。「こういう田舎の食堂では、肉の入ったカレーは絶対に食べちゃだめだよ。田舎の肉なんて腐ってるかもしれない。どうにか安全なのは、ベジタリアン・カレーだ」

 「和食 日本人の伝統的な食文化」が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。個人的にもうれしいニュースだった。決定に当たっては、和食の特色が「正月行事にその一典型がある」とされ、和食が日本人の社会的結束を強めていることが評価されたそうだ。

 つまり、お節料理が無形文化遺産のシンボルのようになった。チェコの首都プラハへある年末に行ったときには、青空市場で生きた鯉をたくさん売っていて、お正月の定番料理にされると聞いた。でも、日本のお節ほど年中行事として大切にされている料理が世界にどれだけあるだろうか。

 クリスマスにアメリカ人は七面鳥を食べ、ドイツ人はガチョウを食べる。だが、味の繊細さや見た目の美しさで、お節料理の敵じゃない・・・。

 わが家の子どもたちをふくめ、日本の若い世代がお節にこだわらないのは残念なことだ。文化遺産も結構だが、和食離れが進む国内でもっと日本食を広める必要がある。

 一方で、海外の日本食レストランは急増している。5年前に家族でインドへ再訪したときには、ニューデリーだけで本格的日本食レストランが少なくとも5軒できていた。昨冬かみさんと行った台北には、数えきれないほどあった。

 外務省・農水省のデータによると、海外の日本食レストランは2013年3月時点で約5万5000店にのぼっている。2006年の約2万4000店から倍増した。

 日本貿易振興機構(JETRO)などが調べたところ、外国人が最も好きな外国料理は日本料理で、外国人観光客が来日前に最も期待しているのは日本食だという。

 ドイツに駐在していたふた昔前、寿司店があちこちにあるのは当然として、鉄板焼きの店が多いことに少しびっくりした。ある店の日本人調理師に理由を聞くと、醤油とバターの組み合わせがドイツ人の度肝を抜くのだという。

 正直言って、ぼくたち家族も、本格的鉄板焼きの美味さを知ったのは、ドイツ北西部ドルトムントの店だった。サッカーの香川真司選手が活躍したあの街だ。肉や魚介、野菜なんでも、醤油とバターで焼くと箸が止まらなくなる。もっとも、子どもたちが一番気に入ったのは、「アイスクリームの鉄板焼き」だったが。

 ドイツに限らず、基本的に塩と胡椒、スパイスしか知らなかった外国人にとって、えも言われぬ旨味がある醤油は衝撃らしい。その醤油を世界に広めたのはキッコーマンの功績だ。世界の食の市場規模は、2020年には倍増するといい、日本食文化の輸出はまだまだ伸びる。その分、日本好きもどんどん増える。

 お節を食べながら、かみさんと日本人の和食離れの話をしていたら、テレビで興味深い番組をやっていたという。九州かどこかの幼稚園で、畑での野菜作りから調理、試食まで子どもたちに経験させているそうだ。

 そういう食育を全国に普及させれば、和食の空洞化を防ぐ本当の無形文化遺産になる。

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