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初詣に宗教の力を思う

 出雲大社へ初詣に行った。車は混むからと一畑電車の『しまねっこ号』に乗った。出雲大社の本殿?を頭にかぶった猫をイメージしてデザインされたしまねっこは、全国のゆるキャラグランプリでベスト10に入る人気だ。

 大社はこれまで見たこともないほど混み合っていた。ほぼ60年に1度行われる大遷宮の余波はすごい。正月三が日の参拝客数は例年の1.3倍、約77万人にのぼった。伊勢神宮が内宮、外宮あわせて約61万人だったから、出雲には大変な数の参拝客が押し寄せた。東京から高速バスに乗っての“弾丸参拝ツアー”もあったと聞く。

 大国主命を祀る本殿で、善男善女が独特の「二礼四拍手一礼」で祈りを捧げる。日本神道には経典も教義もないが、人びとは神の前で自然に敬虔な気持ちになる。宗教の力だ。

 宗教と言えば、昨年6月にニューヨーク・タイムズで読んだ記事を思い出し、改めて読んでみた。

 スロバキア共和国で夏に発行される予定だったユーロの記念硬貨をめぐるトラブルが、詳しく書かれている。そのコインはスロバキアへのキリスト教伝来1150年を記念するもので、ふたりの有名な歴史上の修道士が刻まれていた。

 国内のアーチストによるデザインで、修道士の頭に後光が差し、法衣には十字架が描かれていた。これをEUの政策執行機関であるヨーロッパ委員会が問題にした。EUのルールは、特定の宗教に偏ることを禁じており、記念硬貨のデザインから後光と十字架を取り除くよう行政命令を出した。

 このデザインにとりわけ強く抗議したのは、厳密な政教分離主義をとるフランスだった。ギリシャは教会と国家が密接な関係にあるが、「コインに描かれたふたりの修道士はギリシャ固有の文化遺産だ」として、別の立場から抗議した。

 デザイン変更命令に対し、カトリック教徒が圧倒的多数を占めるスロバキアをはじめヨーロッパ各国のキリスト教団体が強く反発した。

 そもそも、青の地に12の黄色い星をあしらったEUの旗は、フランス人のあるカトリック教徒が、聖処女マリアが12の星のついた冠をかぶっている宗教画からのインスピレーションによってデザインしたものとされる。

 ヨーロッパが統一されるべきだというアイデアも、9世紀の神聖ローマ帝国の初代統治者カール大帝が全キリスト教徒を再結集させようと努めたのが起源とされている。

 ヨーロッパの多くの国家の紋章もキリスト教に基づくもので、その国歌にも神を称える歌詞がある。

 だから、「EUの基盤はキリスト教にある」というのが、反発の最大の理由だった。

 背景には、現代ヨーロッパに中東などからイスラム教徒が多数流入し、イスラムの影響力が目立って強まっている現実がある。

 それに比例して、宗教的過激派とも言えるキリスト教原理主義の勢力も増しているそうだ。スロバキアの極右政党『スロバキア国家党』の幹部は、ニューヨーク・タイムズの取材に、「EUは悪魔かスターリニズムに支配されていると疑わざるをえない」と語っている。たぶん、真顔で答えたのだろう。

 EUは悪魔に仕えている、という考えは、極端なキリスト教原理主義者の好むテーマという。

 もうひとつの背景としては、キリスト教離れがある。ヨーロッパ全域で教会へ行く人が減少しており、逆に、よく組織された世俗主義団体が次々と生まれている。

 オーストリアの首都ウィーンにある『反キリスト教不寛容・差別監視』という調査ロビー団体の代表は「いまのヨーロッパにはラディカルな世俗主義のとても強い潮流がある。すべての宗教に影響を及ぼしているが、特にキリスト教への風当たりが強い」と語った。

 2012年のイギリスの世論調査で、神の存在より宇宙人の存在を信じる人のほうが多かった。EU全加盟国で行われた2010年の世論調査では、キリスト教の神を信じる人はほぼ半数だった。アメリカでは90%以上が信じているとされ、ヨーロッパでのキリスト教離れは想像以上だ。

 西ヨーロッパは世俗的なうねりが強いのに対し、スロバキアやポーランドなど東ヨーロッパは宗教の伝統が根強く生きている。

 ヨーロッパのキリスト教団体は、イスラムと世俗主義を相手に二正面作戦をせざるを得なくなっているわけだ。

 ヨーロッパ委員会の当局者は「EUはアンチ・キリスト教ではなく、EUの旗に描かれた12の星は、ヨーロッパの人びとの統一と団結、調和の象徴だ」と弁明している。

 スロバキア国立銀行は、ヨーロッパ委員会の命令を突っぱね、後光と十字架を描いたコインを元通り発行することを決めた。委員会も宗教の力には勝てず結局はそれを容認した。

 宗教は微妙で、時には反作用を生む。出雲大社に一般の人びとが参拝しても何の問題もないが、総理が靖国神社に参ると大騒ぎになる。悪人でも善人でも、亡くなれば神になり仏になるという日本の宗教観は、海外ではほとんど理解されない。

 スロバキアは宗教論争でEUに勝った形だが、日本の場合は前途多難だ。

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